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雰囲気もくそもない
しおりを挟む「はあぁぁ~~~~」
口から盛大な溜息を吐き出す。昼休みの屋上で缶コーヒーを片手にぼんやりと街並みを眺める。
あの後、色々と大変だった。何が大変って若い子の行動力と勢いと力が大変だった。それなりに僕も鍛えているはずなのに……年かなぁ。はは。
ともかく、いきなりラブホテルに連れ込まれそうになったのはなんとか回避した。全速力でダッシュして逃げてきたから、その後の彼がどうなったとかわからない……けど……
「ん?」
会社の入口のちょっと先の植え込みに、見た事のある頭がある。
――……岸くんだ。いやいや、ちょっと待ってなんで会社に!?
「あらー?あの子ずっとあそこに居ますね。知り合いですか?」
「うわっ!?」
後ろからひょっこり現れたのはうちの課のマドンナと言われている唯子さん。僕よりも二つ年上だけど見た目はかなり若々しくて二十代前半ほど。…えーと。こういうのなんていうんだったかな。美魔女?
これで中学生になる子持ちだというのが何度聞いても信じられない。
「って、ずっとって…?」
「あたしが出社したときだから……」
「えっ9時からあそこに居るのか!?」
8時出社だから気付かなかった。ていうか、今が14時だから…5時間もいるのか。というよりも学校はどうしたんだ、彼は!いくら不良だからと言ってさぼりなんて許せん。それでも前世は真面目な騎士だったのか!?
これは一言行ってやらなくてはいけない。前世がどうのではなく、一人の大人として、だ。
「ちょっと行ってくる!」
「はぁい、いってらっしゃ~い」
僕は不思議そうな顔をしたままの唯子さんを置いて彼の元へと駆け出した。階段を二つ飛ばしで駆け下りたら腰がぴきっと音がして年を取ったことを実感して辛くなった…。
「岸くん!?」
「あっ姫!」
僕が走り寄ると主人が帰ってきたような犬の顔をする岸くん。
怒り辛い顔をしているがここはびしっと言わねばならない……よね。
一度咳払いをしてから岸くんを真っ直ぐに見て、一度咳払いをする。
「こほん。岸くん、君いったいいつからここに居るんだい」
「あー9時ちょい過ぎっすかね。一限始まるってLONEきたの覚えてっし」
「……覚えてっしじゃない。授業はどうしたんだ」
しっぽが見えそうなほど笑顔の彼にびしっというのは気が引けるが、出来るだけ真剣な顔をして彼を見れば彼も何を言われるか察したんだろう。満面の笑顔がどんどん曇っていって、しょぼんと肩が下がっていく。
「……さぼりっす。だって会いたくて」
捨てられた子犬のような顔に、次の言葉が出てこなくてなにも言えなくなってしまった。
不意に前世のことを思い出した。前世でも騎士は僕…姫に拒絶される度にこんな顔をしていたような気がした。
「…ともかく、サボりはだめだ。ていうかなんで会社わかったんだい」
「名刺見せてくれたっしょ?会社名をネットで調べてここにきたんすよ」
恐るべしネット社会。社名ひとつで普段の居場所が割れるのか。
「ストーカーと一緒だよ」
「だって親戚なんでしょ?俺ら。ストーカーにはならねーっすよ!」
「あれは言い訳でだねぇ…!?」
潤んでいるのにきらきらした目で見られて、溜め息が出てくる。
「つーことでラブホいきましょーぜ!」
「業務時間中だよ!!」
若い子のテンションってこわい…。
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