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餌付けは万物共通の方法
しおりを挟む「お肉…は流石に親兄弟の肉を食べさせるのは鬼か。うーん…」
わたしは一旦その場を離れて何か食べられるものを探して森の中を彷徨っている。
屋敷に戻ればまだ大量に肉があるんだろうが可哀想なので止めた。それに戻ればベレイに見付かってまた外に出て子鷲のところに戻ることが難しくなるかもしれないし。
とはいえ自分の二倍くらいの大きさもある魔物が満足するようなものなんてあるんだろうか。めんどくさいけどちょっとくらい魔物の生態を勉強しておくんだった。
(異世界転生ならマニュアル機能付きのサポート音声くらいつけてほしいもんだよ)
前世のくだりを思い出したおかげでより一層頭と体力を使うことを嫌うようになってしまった。だが自分の願望を叶えるための努力は惜しんではいけない。質の良い睡眠には質のいい動きが必要なのである。
「…果物か」
うろついている内に砦の近くまで来ていたらしい。柵に囲われた果樹園とその奥には監視するための砦が見える。
柵は木でできていて、腰くらいまでの高さだ。簡単に乗り越えられそうだけど勝手に取っていったら怒られるだろうか。
「おや、ホニィちゃん。レジェ様のお使いかい?」
「あ、パン屋さん」
パンを焼いていつも屋敷に配達してきてくれる初老の男性が柵の向こう側から手を振っている。
わたしが振り返してから振っていた手が手招きに変わったのを見て、柵を乗り越えて中に侵入する。
「果樹園もパン屋さんが見てるの?」
「ああ、この年になると雑用ばっかり押し付けられてなぁ」
パン屋さんをしているがその腕や顔には古傷がたくさんあって、兵士らしくがっちりした筋肉がついている。ベレイもいい筋肉をしているがパン屋さんにはまだまだ程遠いな。
「ねえ、果物いくつか分けてもらえないかな」
「好きなだけ取っていきなさい」
「ありがとう」
優しい笑顔を浮かべるパン屋さん。この人が戦場に出ると槍の悪魔と呼ばれているのが想像つかないや。
いくつか果物をもぎ取る。リンゴとイチゴを両腕たくさんに抱えてさっきの場所に戻る。
ちなみにリンゴとイチゴはなんとかの実って名前なんだけど長ったらしい名前だったので覚えることはしないで前世の通り呼んでいる。
(まだ居てくれてるといいけど)
警戒していたし、人間達から逃げるために離れているかもしれない。居なかったら居ないで仕方ない。縁がなかったということで空のお昼寝は諦めよう。
「お、まだ居てくれた」
元のところに戻ると小さくなって丸まっている。動けるほど体力はないようだ。
「キュエェ」
来るな、とでも言いたいのだろう。わたしが近付こうとすれば爪を立てられる。攻撃の意思はなく、ただの威嚇行為なので気にしない。
「腹の足しになるかわからないけどさ、果物持ってきたんだよ。あー…」
抱えてきた果物を見せてみるけど訝しげな視線が返ってきただけだった。
少し考えて、いちごを上にぽいと投げてから口でキャッチする。
(うん、甘さと酸っぱさがちょうどいい塩梅だ)
もぐもぐ租借してからリンゴを片手で握りしめる。
「投げる、食べる。おーけー?」
今度は投げないでジェスチャーだけで投げた振りと食べた振りをする。言葉が通じているかわからないが「キュエ」と鳴いたので通じたことにしよう。
「いくよー……それっ」
まずは一つリンゴをぽーんと投げる。出来るだけ高く弧を描くように投げたけど半年間引きこもってた体には中々難しい行為だったらしい。嘴に届く前に投げたそれは地面へと虚しく落ちた。
「……」
「…キュェ」
まるで残念なものを見る目でわたしを見ている。意気揚々と投げた反動で恥ずかしさが迫ってきた。
「…う、うるさいな。大体投げて食べるなんてお行儀が悪い。遠投できるほどわたしはマッチョじゃないんだ」
そこまで遠くないのと、さっき自分がやったことを棚に上げて落ちたものを拾ってスカートで拭く。泥がスカートについたけど気にしないでずんずん子鷲に歩み寄ると、警戒したが気にせず嘴の前にずいっと差し出した。
「この距離なら食べさせて上げられるよ。ほらお食べ」
「キュエ…」
恐る恐る鋭い嘴がリンゴを咥える。腕ごと食べちゃうんじゃないかと思ったけど結構温厚な魔物のようだ。
「…キュエェ!」
「おいしい?それはよかった」
魔物とはいえ味はわかるらしい。はっきりと喜んでいる、というのが伝わってくる。
触れるだろうか…そっと手を伸ばして体に触れてみるが嫌がっている様子はない。
ふむ。やっぱり餌付けというのは仲良くなるには最高の手段のようだな。
「キュエェ!」
もっと寄越せとばかりに嘴を押し付けてくる。ちょっともふもふした毛が当たってくすぐったい。
「しかたないなあ、ほら」
こうしてただのリンゴでいとも簡単に懐柔できてしまった魔物は、わたしの布団…もとい、友達になった。
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