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貴女を守るって重いよね

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 男の名前はベレイというらしい。
 帝国の騎士……とはいっても、普通の騎士とは違うらしい。

「私は聖女を守る騎士の家系に生まれ、聖女様を守るために生まれました」
「うわぁ、重いなあそういうの」
「重……?」

「いや、なんでもないよ」と首を横に振れば、手を握り締められる。かなり熱い体温と、僅かな震えを感じた。

「帰りましょう、帝国に」

 そもそもわたしは帝国の生まれだったのか。初めて知った。何度も親が代わっているうちに国を越えていたらしい。

(帰る……?)

 何となく違和感を感じるのは、故郷というものがないと思っていたからだろうか。
 レジェを見れば、「君の好きにしていいよ」といつもと変わらない笑顔を浮かべているし。好きにしていいという言葉が一番困る時もあるのに。

「わたしは……帰らないよ。今のお家はここだし」
「な…っ、何故ですか!…もしや、何か魔法でも」
「掛けられてないよ。居心地いいの、ここが」

 男――ベレイは、がっくりと項垂れる。
 覚えてもいないところに帰ろうって言われても……それに、ここはお昼寝にはもってこいな気候で場所だし。ご飯は自動で出てくるし……実家のようななんとやらというものがある。

「だから言っただろう。きっと動こうとしないと思うよって」

 くすくすとレジェが笑いながら言う。
 どうやらわたしが行かない事なんて見抜かれていたらしい。

「……わかりました。無理に連れて行こうとは思いません。ですが、騎士の誇りに掛けて、お傍に置かせて頂きたい」

 ちらりとレジェを見る。
 わたしはほぼ養ってもらっている身だし、家主の許可なく勝手にどうぞとは言えるけど言わない。

「好きにさせてあげるといいよ。無理に連れていくつもりはなさそうだ」
「レジェがいいなら……」

 レジェってば最初は殺しちゃいそうな勢いを感じたのに、今はすごく冷静だ。領主の代理人だけあって人を見る目は養われているんだろうか。
 確かに敵意はないし、わたしのこと無理矢理連れてこうとしないから悪い人ではないと思うけど。

「それに…騎士の信条を重んじる人は嫌いじゃない」

 頭にはクエスチョンマークしか浮かばないけどとりあえず「そっか」と頷いておく。ベレイも驚いた顔をしてレジェを見てから、わたしに顔を向き直って握ったままの手の甲に唇を押し付けた。
 僅かにレジェの顔がひきつったように見えたのは気のせいだろうか。

「帝国に帰りたいと思う日まで、私は待ちます。聖女の心を曇らせるわけにはいかないので」
「……?そうなんだ」

 もしかしたら聖女の扱いには気を付けろという風習だったり、不満が溜まりすぎると何かが起こるのかもしれない。と考えたけど、どっちでも良いし聖女もやる気はないので敢えて聞かないで相槌だけする。

「ベレイと言ったね。帝国の君を匿うわけだから、ある程度は僕の言うことも聞いて貰うよ」
「…ある程度はな」

 二人が見つめあってぴりついた空気が流れる。
 あ、ここは「やめてーわたしのためにアラソワナイデー」とか言う場面か?いや、言ったところで仲良くなるわけでもないし、きっとレジェのほうが一枚上手だろうからなにも言わずに見守っておこう。

 こうして、わたしとレジェの生活に新たな人が加わった。
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