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重い布団は結構好き
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色々事件があったりなかったりしたけど、なんだかんだ今はレジェと仲良く二人で暮らしていいる。
「ねえレジェ、なんでメイドとか執事とか雇わないの?」
二人で住むには余りにも広すぎるというか。静かなのはいいんだけど、その分掃除が大変めんどくさいのである。わたしは掃除しないけど。
「ここは魔物も多いし、国境だからね。余り勤めたがる人も居ないんだよ」
「なるほど」
帝国軍と、魔王軍、それから魔物と三つから攻められている状態らしい。
帝国は魔王や魔物と手を組んでいる訳じゃなくて、帝国は帝国で魔王軍と戦っているらしい。魔王軍が同じ敵なら王国と手を組めばいいのになと思う。政治の話はよくわからないけど。
炊事洗濯掃除は勿論、仕事もできるしハイスペックイケメンがいる屋敷だから女の子いくらでも来そうなのに。
「……そろそろパン屋が来る時間だな。ホニィ、受け取っておいてくれるかい」
「えー…」
起き上がりたくなくて不満な声を漏らすがレジェを怒らせると夕食抜きになるかもしれないので渋々起き上がる。
前世のことを思い出したからかな、お米が食べたくなってきた。
(この西洋な世界にお米って存在するのかな)
そんなことを思いながら玄関に向かう。パン屋といっても、国境砦の食堂係がパンを焼いて作ってきてくれるものだ。片手間に作っているせいかいつもちょっとだけ焦げてるんだけど、味は悪くない。
ドンドンと扉がノックされる。いつもより荒々しいがもしかしたら大分待たせていたのかもしれない。
「はいはーい。今日は何パンですかー」
自分の倍ぐらいある大きな扉を開けてみると目の前が暗い。「おや?」と顔をあげれば、赤い液体が顔に垂れてきた。
どうやら玄関の前にはがっちりした体躯の黒髪の青年が血塗れで立っている。
「たす、け……」
「あらーこれは酷い怪我ですなぁ…っとぉ!?」
ぐらりとわたしの方に倒れてきたのをどうにか受け止めようとするけど、体格差がありすぎて受け止めきれずに一緒に倒れてしまった。
「うぇ…お、重たい…」
いやでもこの圧迫感は嫌いじゃない。血のぬめっとした感覚さえなければ人間布団もいいかもしれないな。
「レジェ、レジェー」
わたしのやる気のない声はレジェには届かなかったらしい。
相変わらず屋敷は静寂につつまれている。
(女神もどうせならテレパシー機能とかくっ付けてくれたらもっと楽だったのに)
わたしを押し倒している人の呼吸は小さく細い。起き上がろうとするけど向こうに意識がない分体重が余計に掛かっていて起き上がれもしない。
もぞもぞと片手で体をまさぐる。背中から貫通しているみたいで前からも後ろからも大分出血しているみたいだ。このままだと失血死は免れないだろう。
(なんだかセクハラしてるみたいだな……ここか)
無抵抗の人間の体を好き勝手触っているのだから悪いことなのだが。
(心臓の近くを貫かれているのか。でも生きているのは余程の執念か、気合か)
ある意味腹上死みたいな恰好で死なれても目覚めが悪い。すっきり眠れなくなるのは嫌だし、この程度なら治してしまおう。いくらファンタジーとはいえど、ゲームとは違って一度死んだら生き戻すことは不可能なのだから。
「怪我よ治れ」
それだけ呟けば、光がわたしから、倒れている彼から溢れだす。ほんのりあったかいこの光はいつも眠くなってしまうな……。
傷口が塞がっていく。魔法の原理や仕組みはよくわからないが、後はゆっくり休ませればいいだろう。
「いよ……っこらせ」
どうにか転がして上下を反転させる。そこで気付いたのだが、男の襟元には帝国軍の象徴が描かれたエンブレムがあった。
「これは…レジェに怒られそうだな」
ぽつりと呟いたわたしは、その後ろで笑顔なのに全く目が笑ってないレジェが立っていることに気付くまで後10秒だった。
「ねえレジェ、なんでメイドとか執事とか雇わないの?」
二人で住むには余りにも広すぎるというか。静かなのはいいんだけど、その分掃除が大変めんどくさいのである。わたしは掃除しないけど。
「ここは魔物も多いし、国境だからね。余り勤めたがる人も居ないんだよ」
「なるほど」
帝国軍と、魔王軍、それから魔物と三つから攻められている状態らしい。
帝国は魔王や魔物と手を組んでいる訳じゃなくて、帝国は帝国で魔王軍と戦っているらしい。魔王軍が同じ敵なら王国と手を組めばいいのになと思う。政治の話はよくわからないけど。
炊事洗濯掃除は勿論、仕事もできるしハイスペックイケメンがいる屋敷だから女の子いくらでも来そうなのに。
「……そろそろパン屋が来る時間だな。ホニィ、受け取っておいてくれるかい」
「えー…」
起き上がりたくなくて不満な声を漏らすがレジェを怒らせると夕食抜きになるかもしれないので渋々起き上がる。
前世のことを思い出したからかな、お米が食べたくなってきた。
(この西洋な世界にお米って存在するのかな)
そんなことを思いながら玄関に向かう。パン屋といっても、国境砦の食堂係がパンを焼いて作ってきてくれるものだ。片手間に作っているせいかいつもちょっとだけ焦げてるんだけど、味は悪くない。
ドンドンと扉がノックされる。いつもより荒々しいがもしかしたら大分待たせていたのかもしれない。
「はいはーい。今日は何パンですかー」
自分の倍ぐらいある大きな扉を開けてみると目の前が暗い。「おや?」と顔をあげれば、赤い液体が顔に垂れてきた。
どうやら玄関の前にはがっちりした体躯の黒髪の青年が血塗れで立っている。
「たす、け……」
「あらーこれは酷い怪我ですなぁ…っとぉ!?」
ぐらりとわたしの方に倒れてきたのをどうにか受け止めようとするけど、体格差がありすぎて受け止めきれずに一緒に倒れてしまった。
「うぇ…お、重たい…」
いやでもこの圧迫感は嫌いじゃない。血のぬめっとした感覚さえなければ人間布団もいいかもしれないな。
「レジェ、レジェー」
わたしのやる気のない声はレジェには届かなかったらしい。
相変わらず屋敷は静寂につつまれている。
(女神もどうせならテレパシー機能とかくっ付けてくれたらもっと楽だったのに)
わたしを押し倒している人の呼吸は小さく細い。起き上がろうとするけど向こうに意識がない分体重が余計に掛かっていて起き上がれもしない。
もぞもぞと片手で体をまさぐる。背中から貫通しているみたいで前からも後ろからも大分出血しているみたいだ。このままだと失血死は免れないだろう。
(なんだかセクハラしてるみたいだな……ここか)
無抵抗の人間の体を好き勝手触っているのだから悪いことなのだが。
(心臓の近くを貫かれているのか。でも生きているのは余程の執念か、気合か)
ある意味腹上死みたいな恰好で死なれても目覚めが悪い。すっきり眠れなくなるのは嫌だし、この程度なら治してしまおう。いくらファンタジーとはいえど、ゲームとは違って一度死んだら生き戻すことは不可能なのだから。
「怪我よ治れ」
それだけ呟けば、光がわたしから、倒れている彼から溢れだす。ほんのりあったかいこの光はいつも眠くなってしまうな……。
傷口が塞がっていく。魔法の原理や仕組みはよくわからないが、後はゆっくり休ませればいいだろう。
「いよ……っこらせ」
どうにか転がして上下を反転させる。そこで気付いたのだが、男の襟元には帝国軍の象徴が描かれたエンブレムがあった。
「これは…レジェに怒られそうだな」
ぽつりと呟いたわたしは、その後ろで笑顔なのに全く目が笑ってないレジェが立っていることに気付くまで後10秒だった。
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