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第六十二話 悪魔の曲
しおりを挟むある男がクラシック音楽好きの友人と再会した際の話。
友人は何処からか手に入れた無名の音楽家の曲をやたらベタ褒めしていた。
何でも一部の蒐集家の間では有名なものの様で、『悪魔の曲』等と呼ばれているという。
何故そんな物騒な曲名なのだと尋ねると、友人はその謂われを語ってくれた。
その曲は売れない音楽家が最期に作製した曲で、噂では悪魔を呼び出す曲なのだという……。
そもそもその曲は、悪魔に魂を売った見返りに貰った異界の曲なのだと友人は愉しげに語った。
何やら眉唾ものに感じたが、友人は間違いなく本物だ自信たっぷりに語る。
「あの曲……レコードなんだが、聴いていると内側から野心、というか欲望が駆り立てられるんだ。ただ、あまり何度も聴くとだんだん暴力的になるから注意が必要でね」
少し怖くなった男は友人に何度も曲を手離すように促したが、友人は頑として聞かなかった。
それから暫くして、一家惨殺事件が報道される。
それはクラシック音楽好きの友人の家……。家族を手に掛けた友人はそのまま自らの喉を掻き切り命を絶った、というのが警察の発表だった……。
『悪魔の曲』に抗えなかったのだな、と男は理解したが、同時に防げなかったことを後悔した……。
気掛かりなのは『悪魔の曲』……悪魔を呼び出すというそのレコードが今何処にあるのか……それを確かめる術はない。
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