とある奇談蒐集家の手稿

赤村雨享

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第五十一話 猫

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 その家の猫は、少年が生まれる前から飼われていた。


 自分の人生には猫が家族として暮らしている……そんな光景が少年には当たり前だった。

 しかし、猫の寿命は人より短い。少年にはそれが心配だった。


 中学生になったある日……廊下で寝ている飼い猫を見付けた少年は、その側に座り何気無く語り掛ける。

「なぁ、ミミ……。お前、あとどれくらい生きられそうだ?」

 当然ながら返事はない……。

「……俺が結婚するまで生きてられそうか?」
「………」
「あ~……いつ結婚出来るか分からないか。俺、モテないしな……」
「………」

 返事はないが耳を立て尻尾を動かしている猫に、少年は一方的な約束を申し出た。

「じゃあ、俺が嫁さん連れてくるまで絶対死なないこと。良いか?」

 無論少年は本気ではなく戯れ言のつもりだった。しかし……それに答える声がしたことに少年は驚く。

「待てて十五年……」
「………え?」

 慌てて周囲を確認するが、少年と猫以外には誰も見当たらない。

「………」
「お、お前喋れるのか?」
「……………」

 それが猫の言葉か空耳かは分からなかったが、声はもう聞こえなかった。



 その後、少年は大人になり若い内に結婚。子も生まれ幸せな家庭を持った。


 飼い猫は……まだ生きていた。しかし、あれ以来何かを喋ったことはない……。


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