とある奇談蒐集家の手稿

赤村雨享

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第四十九話 鐘

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 少年の家の近所には大きな寺院があった。


 住職は少年の祖父の友人だった為、小さい頃は良く同行し話を聞かされた。


 ある日、祖父と住職の話に飽きた少年は寺の探索を始める。歴史ある寺院は子供が探索をするには十分な程に広い。
 そんな探索をしていると、少し高台の位置に鐘突堂を見付け登ってみることにした。

 寺自体も高台にあるので見下ろす街並みに感動していた少年は、何故か鐘を突きたくなったという。しかし、何ぶん子供の身……手が届かず断念することに。


 最後に鐘の中を覗いて鐘突堂を下りようとしたその時……少年は世にも恐ろしいものと目が合ってしまった……。

 鐘の中には、白装束で長い髪を乱し酷く痩せた男がへばりついていたのだ……。

 骨と筋の浮いた細い手足で内側に突っ張るように身体を支えていた男は、ギョロリとした目を少年に向け動かない。
 少年は蛇に睨まれた蛙の如く動くことが出来ず、ただただ恐怖で震えていた……。


 そこに少年を捜していた祖父と住職が現れ、少年はようやく恐怖から解放されることとなる。


 事情を聞いた住職の話では、ずっと昔……この辺りに物ノ怪が出て人々を飢餓に陥れたと伝わっているそうだ。
 住職の先祖はそれを捕らえ寺のどこかに封じていたと伝わっているとのこと。恐らくこの鐘がそれなのだろうと呟いた。


 以来……寺院では朝晩鐘突堂で経を読む習慣が生まれたという。



 時が過ぎ祖父も住職も亡くなった為、寺院と疎遠になった少年も今や大人……。その後あの男を見ることは無く怪異に出会うこともなかった。


 ただ……少年が大人になった今でも、鐘の中を覗く真似はしなくなったそうだ。


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