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第二十五話 肝試し
しおりを挟む小学生の頃、Hは同級生達と肝試しをした。
場所は山の中に残された廃屋。幽霊が出るという話などは無かったが、日本家屋の平屋建てはとても不気味で子供達の興味の対象になったのだ。
廃屋とはいえ他人の家に入る高揚感は、今の時代では考えられないものだろう。
時間も夕刻だが、夏なので決して暗くない。それでも屋内の薄暗さは不気味で、少し背筋に寒さを感じながら屋敷の中を散策した。
そんな時……子供達は奥座敷に布の掛かった家具を見付ける。
中を見ればそれは三面鏡……廃屋の薄暗さと多重に姿が映り込む不気味さに興奮した子供達は、面白半分に更なる物色を始める。
三面鏡の引き出しには鍵が入っていて、何処の鍵かを探す冒険にもなり子供達大はしゃぎだった。
そして、同級生の一人が押し入れの中に金属扉を発見。そんな場所に何故扉があるのか……しかし、子供達はそんな疑問より開くかどうかばかり気になって仕方ない。
そして、早速鍵を差し込むと──鍵穴はピタリと合いカチリと音を立て鍵を開けた。
ゆっくりと開いた扉の中にはまたも扉。だが、その扉には一面の御札が……。
流石に気味悪くなった子供達は、急いで扉を閉め鍵を掛ける。三面鏡の引き出しに鍵を入れようとしたその時……Hは気付いてしまった……。
三面鏡に映り込む多重の鏡像の奥に、鏡の縁を掴む沢山の女の手があることを……。
赤い爪、そして少しづつ映り始めた女の顔にHは絶叫して逃げ出した。
慌てた同級生も屋敷の中を全て放置したまま一斉に山を下りて行く。
皆を残し家に帰ったH……その様子がおかしいことに気付いた祖母は、無理矢理事情を聞き出すと家族全員を呼び集める。
「Hが蔓姫様を見ちまった!今から住職んトコ行ってくっから、有るだけ塩かき集めて家の回りに撒いとけ!良いか?明日まで絶対家を出んなよ!?」
普段温厚な祖母の剣幕に怯えたH……そんな孫を背負い祖母は寺へと向かう。祖母は何度も大丈夫だと言いながら寺に辿り着いた。
それからは何が起こったかHは覚えていない。知っていることは数日寺に閉じ込められたこと。家に帰った際、外壁や地面に爪のような後が残っていたことである。
その時一緒だった同級生達は、急に転校したと聞かされた。
だが……最後に駅付近で見掛けた同級生の親が黒い喪服に身を包んでいたことを、Hは今でも鮮明に覚えている。
それ以来、Hは胆試しに行った山には入ったことがない。友人の転校の理由を知りたくて一度向かおうとした際、祖母が涙を流して止めたのだ。
故郷を離れ二十年……あの廃屋は大雨で土砂崩れが起きた際土砂に潰されたと、Hは風の便りで耳にした……。
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