ボクらはあの桜の麓で

由海

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  僕は今は使っていないカメラのフォルダを見ていた。きっと誰でも昔撮った写真を見返したくなる時があるだろう。落ち込んだ時、あまり仕事がうまく行かない時、過去を思い出したいとき、誰かに会いたい時。僕は何気なく見ていた。
  僕が高校生の時に使っていたそのカメラはそんなに高いものではないが、カメラマンの父さんからもらった性能のいいものだ。
  今思えば高校時代なんてあっという間だった。あの時は早く大人になりたいと思っていた僕だが、大人になるとあの時が羨ましい。あの頃の僕に言ってやりたい。もっと好きなことをして生きろって。だけどまぁそれを伝えたところで僕はなにも変わらないんだろう。憎らしくも僕はきっと僕だ。
   写真部だった僕は写真を撮ることが好きだった。そのおかげか今の職業も写真に繋がっている。
  でもそれにしても僕の高校生活は楽しかったのだろうか。今のところ空、ビル、自転車、校舎、山、花、風景の写真ばかりで人が一人も写ってない。まぁ確かに僕はそんなに社交的じゃないし、友好的でもない、友達も少ないし。なんだか自分で思っていてもかわいそうになってくる。
「あ、」
  写真を切り替える手を止めた。
  今にも散りそうなほど満開な桜の写真が画面に広がっている。高校2年生の春休みに田舎に住んでいる祖母の家に行った時に撮った写真だ。

「…芽衣さん」

  桜の麓には彼女が写っていた。僕のフォルダに唯一写っている人物だ。彼女のことは何年たっても忘れないだろう。

  きっとこの先もずっと。

  明日も仕事がある今日はもう寝よう。僕は久しぶりに会った彼女に緊張してしまったのかもしれない、写真を見るとその時の雰囲気、気持ちが思い出されるような気がする。そんな動揺を隠すかのように部屋の電気を消してすぐにベッドに潜り込んだ。

  

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