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第十四話

金烏玉兎・序章

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 果てしなく広がる雲海の上に立つ唐風な黄金の宮殿。何人かの天女達が優雅に宮殿内を行き来している。宮殿の奥の広々とした部屋では、白い雲で出来た寝床に優雅に足を横に崩して腰を下ろす艶やかな女性。右手に天酒あむりたを持ち寛いでいる様子だ。唐の貴族が身に着けていたような衣装は。淡い桃色と黄色、藤色、そして透けるようなが白が重ねられ、さながら淡い虹を纏っているように見えた。

 足首まで届く白金色の髪が小波のように体の線に沿って波打っている。穏やかな弧を描く上品な二重瞼には白金色の長い睫毛がびっしりと生え、囲まれた優美な瞳は金色がかった鳶色である。輝くように美しいのに、どこか思慮深げな艶を含む。ツンと高い鼻は気位の高さを。笑顔を絶やさない紅の花びらのような唇は深い教養を現す。白い絹のような肌は、まるで陽光を白い絹で包み込んだように内側から光を宿している。

 頭の頂に飾られた大きな金色の牡丹が女王である風格に一段と威厳を添えていた。

 しゅるりしゅるりと近づいて来る衣擦れの音に、女は整えられた白金色の眉を潜める。

「失礼致します、天照大神あまてらすおおみかみ様」

 淡い水色の天衣装に身を包んだ天女が部屋の入り口で声をかけた。戸などはなく、薄紫色の絹が一枚かけられているだけである。

「何事です!? 想像しい」

 凛とした声で咎める。彼女が太陽を司りこの世を取り仕切る天照大神らしい。ビクッと肩を震わせる天女。

「お寛ぎ中のところ申し訳ございません。大至急、弟神様がお逢いしたいと訪ねていらしておりまして……」

 震える声で要件を告げた。訝し気に小首を傾げる天照大神。

「弟? 素戔嗚スサノオかしら……。随分と久しいわね。また、何か悪さをしたんじゃないでしょうねぇ」

 険しい表情で呟く。

「いいわ、お通しして」

 諦めたように溜息混じりに指示を出した。

「承知致しました。ただ今お連れします」

 天女はホッとしたような表情を浮かべた。そしていそいそとその場を後にした。





「ほほーぅ、良く無い話題かぁ」

 ふわりはニヤリと悪戯な笑みを浮かべる。

「案外、宿世の女とやらが陰陽師か何かに兄さんの事を卜わせたりしてのぅ。そんでもって、琥珀の事を女連れやら、ワイの事を子供やら……なーんて解釈してたりしてな。で、けしからん! とか激怒してたりしてー」

 困ったように更に眉尻を下げ、苦笑する氷輪。

「うーん、この魂の奥から感じるゾワゾワとした違和感、あながちそれも空想話ではないかもしれん」

 すると今度は琥珀が戸惑いを見せた。

「えー? だとしたら人ではないモノ、とか卜われて化け物扱いされてそう、あたし」
「はっはっは、揶揄いがいのある二人じゃのぅ。ワイの話が仮に真だとしても、や。まだ実際にうてもおらんのに決めつける了見の狭い奴なんか、関わる価値もなかろうて。カーッカッカッカッ……」

 とあっけらかんと笑い飛ばすふわりであった。琥珀も氷輪も、それに釣られたように笑い出す。

「そうだな、実際に会ってみないと分からないものだな」
「そうだね!」

 氷輪と琥珀は微笑み合った。ふわりは満足そうにそんな二人を見つめる。





「あ、あなた……」

 弟と聞いてかつて手を焼いたやんちゃな神、素戔嗚命スサノオノミコトだと思い込んでいた天照大神は驚愕した。

「姉上、お久しぶりでございます。予めお約束もせず、突然のご訪問をお許しくださいまして有難うございます」

 目の間に跪く男。闇色の狩衣に紫紺の袴、藍色の長い髪を後ろで一つにまとめている。頭に被っていた闇色の布は、畳んで右小脇に抱えていた。

「月黄泉?!」

 天照大神は呆然と弟の名を呼んだ。
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