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第十一話
再出発・その一
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「なるほどなぁ。それで、その住職が亡くなってからまた野武士に弟子入りして。そこで兄さんに出逢うた、て訳か」
風牙は男児の姿に変化したまま歩いている。黄色の直垂姿が目に鮮やかだ。氷輪たちは世話になった住職たちに礼を述べ、寺を後にしたところである。話し合いをした結果、どうなったのかを琥珀が風牙に簡単に説明して聞かせていた。
風牙は、寄り添うようにして歩きながら照れくさそうに頬を染め、互いに目を合わせずに歩いている氷輪と琥珀をチラッと見やる。そして意味ありげにニッと笑った。
「まぁ、なるようにしかならんて。考えてみてもどうしようもない事は、その時その都度考えたら良いんや。大事なのは『今』やで。今この時を、何を考えてどう行動するかでこれから先は違ってくるんや!」
と言って素早く二人の背後に移動すると、氷輪の背中、琥珀の背中の順にパンパンと軽く叩いた。何かが心に響いたのだろう、瞳を輝かせる二人。風牙は満足そうにへへっと笑うと、
「ところでのぅ、ワイ、旅の間おぼこい小さなモフモフとしてついて行こうと思うねん。でな、真の名で呼ばれるのはちぃと勘弁や。そこでな、可愛らし名前を考えて欲しいねん」
と言うと、ポンッという高い音とともに鋼色の煙が風牙の体から立ち上り、一瞬にして体が見えなくるほど濃い煙に変化したと思った途端、煙はパッと消えた。そして子犬ほどの大きさのふわふわ柔らかそうな鋼色の毛を持つ、文字通りモフモフの生き物がいた。長目のフサフサとした毛に覆われており、顔と背は飴色に切り替わっている。黒々とした円らな瞳、艶やかな漆黒の小さな丸い鼻が愛らしい。意外と細く短い手足がまた抱き上げてやりたくなる。
「うわぁ、可愛いー!」
瞳を輝かせて歓声を上げる琥珀。
「これはまた愛らしい……」
氷輪は破顔した。二人は同時にモフモフな生き物に近づき、両手を伸ばした。
大人ほどの高さの茎、唐傘大の藍色の薔薇に、まるで蜃気楼のように映し出される琥珀と氷輪の姿。胡桃色の長い髪と青みがかった雪白の肌、空色の涼し気な瞳を持つ男が静かにそれを見つめていた。背が高くしなやかな身体に藤色の狩衣、紫紺の袴を身に着けている。一見すると女のように柔らかな美しさを持つ優男だ。一歩下がった場所に、全体的に大人の親指程の長さに切られた鳶色の髪と、切れ長の瞳を持つ繊細で整った顔立ちの男が佇む。背は高め、細身ではあるが野生動物のように一部の隙もない。灰褐色の直垂に身を包んだ久遠の姿である。
「……あの男の出した結論、人間にしては天晴ではないか。久遠、お主はどう思う?」
空色の瞳を興味深げに輝かせ、久遠を見やる男。まるで花のように甘やかで美しい声だ。
「口ではなんとでも言えましょう。全ては結果がどうかです」
久遠は眉一つ動かさず、淡々とこたえた。
「これはまた手厳しいな」
男は苦笑した。
「朱天様、私は決めた事は必ず実行致します」
久遠は冷酷に言い切った。
「ふふふ、面白い」
朱天と呼ばれた男はふんわりと微笑むと、再び氷輪と娘を見つめた。そう、この男こそ琥珀の父。妖界を束ねる長であった。
風牙は男児の姿に変化したまま歩いている。黄色の直垂姿が目に鮮やかだ。氷輪たちは世話になった住職たちに礼を述べ、寺を後にしたところである。話し合いをした結果、どうなったのかを琥珀が風牙に簡単に説明して聞かせていた。
風牙は、寄り添うようにして歩きながら照れくさそうに頬を染め、互いに目を合わせずに歩いている氷輪と琥珀をチラッと見やる。そして意味ありげにニッと笑った。
「まぁ、なるようにしかならんて。考えてみてもどうしようもない事は、その時その都度考えたら良いんや。大事なのは『今』やで。今この時を、何を考えてどう行動するかでこれから先は違ってくるんや!」
と言って素早く二人の背後に移動すると、氷輪の背中、琥珀の背中の順にパンパンと軽く叩いた。何かが心に響いたのだろう、瞳を輝かせる二人。風牙は満足そうにへへっと笑うと、
「ところでのぅ、ワイ、旅の間おぼこい小さなモフモフとしてついて行こうと思うねん。でな、真の名で呼ばれるのはちぃと勘弁や。そこでな、可愛らし名前を考えて欲しいねん」
と言うと、ポンッという高い音とともに鋼色の煙が風牙の体から立ち上り、一瞬にして体が見えなくるほど濃い煙に変化したと思った途端、煙はパッと消えた。そして子犬ほどの大きさのふわふわ柔らかそうな鋼色の毛を持つ、文字通りモフモフの生き物がいた。長目のフサフサとした毛に覆われており、顔と背は飴色に切り替わっている。黒々とした円らな瞳、艶やかな漆黒の小さな丸い鼻が愛らしい。意外と細く短い手足がまた抱き上げてやりたくなる。
「うわぁ、可愛いー!」
瞳を輝かせて歓声を上げる琥珀。
「これはまた愛らしい……」
氷輪は破顔した。二人は同時にモフモフな生き物に近づき、両手を伸ばした。
大人ほどの高さの茎、唐傘大の藍色の薔薇に、まるで蜃気楼のように映し出される琥珀と氷輪の姿。胡桃色の長い髪と青みがかった雪白の肌、空色の涼し気な瞳を持つ男が静かにそれを見つめていた。背が高くしなやかな身体に藤色の狩衣、紫紺の袴を身に着けている。一見すると女のように柔らかな美しさを持つ優男だ。一歩下がった場所に、全体的に大人の親指程の長さに切られた鳶色の髪と、切れ長の瞳を持つ繊細で整った顔立ちの男が佇む。背は高め、細身ではあるが野生動物のように一部の隙もない。灰褐色の直垂に身を包んだ久遠の姿である。
「……あの男の出した結論、人間にしては天晴ではないか。久遠、お主はどう思う?」
空色の瞳を興味深げに輝かせ、久遠を見やる男。まるで花のように甘やかで美しい声だ。
「口ではなんとでも言えましょう。全ては結果がどうかです」
久遠は眉一つ動かさず、淡々とこたえた。
「これはまた手厳しいな」
男は苦笑した。
「朱天様、私は決めた事は必ず実行致します」
久遠は冷酷に言い切った。
「ふふふ、面白い」
朱天と呼ばれた男はふんわりと微笑むと、再び氷輪と娘を見つめた。そう、この男こそ琥珀の父。妖界を束ねる長であった。
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