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第七話

伊勢の国とモフモフと・その二

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 風牙は森の中の切り株に腰をおろし、両手でガシッと焼き魚を掴みモグモグと美味しそうに頬張っていた。

「塩加減がなかなかじゃのー。塩漬けにして天日干ししたものは麦飯にもよく合うわい」

 と言いつつ、あらかた食べて小さくなった焼き魚を左手に持ち変え、足元に置かれた竹の葉に包まれた白米と麦の混じった握り飯を右手に持つ。そしてカプリとかぶりついた。モグモグと味わう。

「この握り飯の塩加減もなかなかじゃわい」

 と、上機嫌で目を細めた。焼き魚と握り飯を交互に味わう。食べ尽くすと、今度は切り株の後ろに置いてあった一本のかぶらを両手で掴んだ。勿論青々とした葉がついたものだ。にんまりと嬉しそうに笑うと、大胆に歯の部分からかじりはじめた。カリカリカリカリと美味しそうに食べている。あっと言う間に葉と茎の部分を食べ尽し、白い実の部分に到達。そのまま休まずカリカリカリカリと食べ続けた。

「ふぅー、食ったー食ったー」

 嬉しそうに溜息を吐きながら、パンパンに膨れた腹を両手でポンポンと軽く叩いた。

「幸いな事に、握り飯や焼き魚が一つくらい消えてもなんともない裕福な武家みたいやし。蕪もいっぱいあったから一、二個無くなっても気づかないやろうしな。……まぁ、農民から分捕ってるんやろうけど、この領土は比較的豊かな土地みたいやし。いやぁ、我ながら人を見る目があるっちゅーか。こういうとこ、昔っからそうやねん。忍び込んでも大丈夫そうな家しか入らなかったりな」

 誰に言うともなく、独りごちる。

「さーて、ひと眠りしてからどこかの川で水を飲んで、毛繕いしてまた旅立つかな。ちょいと食料を頂いたお武家はんにゃ、四つくらい幸運を授けてやるとするか……」

 ふわぁ、と大きな欠伸をするとそのまま切り株に体をくっつけるようにして丸くなり、そのまま眠りについた。


 その頃、風牙が食物を拝借という名を借りて頂いた武家邸の台所担当の侍女たちは……。

「あら? 変ねぇ……」

 献立に合わせて食材を揃えていた一人の侍女が不思議そうに首を傾げる。

「どうしたの?」

 かまどに火を起こしていた侍女が声をかけた。

「んー、何だかね……干し鯖が一つと、後で私たちが食べようと思って握ってた握り飯が一つ足りない気がするのよね……」
「あらやだ、鼠か猫か何かかしら?」
「どっちも一個ずつ無くなってるみたいだから違うとは思うんだけど……。何だか蕪も一つ無くなっているような……」
「あら、犬でも一つづつなんてないから、数え間違いじゃない?」
「うーん、でも確か……」
「お米も麦も魚も野菜も沢山あるんだし、細かい事気にしない気にしない。それより時間内に食事が作れない方が拙いわ。さ、仕事仕事」
「そ、そうよね」

 二人の侍女は気を取り直して食事の仕度へと戻った。






「……へぇ? 物語、凄い丁寧な言葉で書いてるんだなぁ」

 琥珀は感心したように言った。氷輪は船酔いの薬が効いているのか、船に揺れに体が慣れたようだ。伊勢の国に着くまではこれといってやる事が無い。会話も気を付けないと周りの迷惑になる。そこで考えついたのが今までの旅を降り返り、これまで断片的に書き留めてきた事を時系列で整理しながら物語を書き綴る事だった。

「まぁ、神絡みの話なのでな。丁寧な言葉遣いの方が説得力ありそうだと思うのだ」

 氷輪はこたえ、破顔した。

「確かにな! じゃ、俺大人しくしてるから頑張れよ!」

 琥珀はニッと笑って上機嫌で応じる。

(へへーん、そうして書く事に集中してくれたら、灯りに群がる虫みたいに酔って来る女どもを蹴散らすのなんか簡単だもんねーだ! ざまぁみろ! 兄者は今だけは俺だけのもんだ。あっかんべーだ!)

 内心で思い切り毒づき、遠巻きに様子を窺っている娘たちに舌を出すのだった。
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