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第二十四話

雨乞い・その四

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「さ、こっちへおいで」

 氷輪は優しく女児たちを促した。一人は四歳くらいで彦丸の妹だろうか、円らな瞳がとてもよく似ている。活発そうな女の子だ。もう一人は七、八歳くらいだろうか。顎のあたりで切り揃えた髪がフサフサと歩く度に揺れる。しとやかで大人しそうな子だ。ふたりはおずおずとしながら氷輪の傍に近づく。即ち。彦丸の正面だ。茶太郎たちは左右に避け、彼女たちに道を譲った。女の子たちが目の前にやって来るなり、氷輪はこう言った。

「彦丸殿は留守を預かっている際、心細そうな妹と女の子の友人を勇気づけようと思って、龍神様のお話をした。少し話を創作して面白くしだだけで、別に嘘を言った訳じゃない。女の子たちも、彦丸殿のお話は楽しかったし、彼の気持ちもよく理解出来た。……違うかい?」

 と、女の子たちと彦丸を交互に見ながら、順を追って物事を整理するように。

「うん、そうなの! おっとうが、るうじんたま(龍神様)になるっていってたのほんとうだよ、おきくもきいたもん!」

 円らな瞳の女児がコクリと頷きながら、氷輪の右袖を掴み未だよく回らない舌で懸命に訴えるように言った。

「うん、うん。そうだね」

 と、氷輪は左手で女児の頭を撫でた。やはり、彦丸の妹らしい。

「お菊……。ありがとな」

 彦丸は呟くように言った。続いてもう一人の女子も、勇気を振り絞るようにして言った。

「お坊さま、そうなんです。あたし、おっとちゃんもおっかちゃんも、隣村に行っている間は一人で留守番していて。彦丸のお話はとても面白くて。もしかして本当に雨が降るかも、て思えたし。お留守番しててもちっとも怖くも寂しくもなかったんです。だから……」

 氷輪に身を乗り出し、懸命に訴えた。その澄んだ瞳に、薄っすらと透明の膜が張る。そして

「皆もお願い、彦丸さんを責めないで!」

 と茶太郎達を降り返った。

「およねちゃん……」

 彦丸は照れたように言って目を伏せた。心持ち頬が赤く染まる。その様子に、ムッときた様子の茶太郎。大体状況が呑み込めた氷輪は、お菊には左手を、お米にには右手をあげて頭を軽く撫でると、静かに立ち上がり、茶太郎を中心に左に源太、右に留吉が並列する場所へと歩き出した。そして茶太郎に向き合うと、目線を合わせるように立ち膝になる。そして真っすぐに茶太郎を、続いて源太、留吉を見てから諭すように語った。

「そういう理由から、彦丸殿は良かれと思って話したらしい。嘘を言った訳じゃないんだよ。それに、父上を亡くされて彦丸殿自身もしんどいだろうしね。何よりも、女の子たちはお話を楽しんだみたいだし。そこのところ、思いやり深くて器の大きい君たちなら、分かってあげられるね。茶太郎殿、源太殿、留吉殿」

 氷輪は一人一人の名を呼び、その目を見ながらまとめた。皆、力強く頷いた。





「そ、それは……」

 夕星は返事に窮したように口ごもった。

「勿論、今すぐに結論を出せなどそんな乱暴な事致しませんよ」

 禍津日神は口角を上げる。生き血を啜ったように赤くてらてらした唇が裂けたように見え、夕星はゾッとした。禍津日神はふわりと空に浮かぶ。白玉色の髪がサラッと靡いた。

「あなたも、急に月黄泉に私に、と近づかれても訳が分から無いだろう事も察しますよ。どちらを信じたら良いか困惑するのも分かります。氷輪達の旅もまだ序の口。そういう状況になるまでまだまだ時間がかかるでしょう。それまでの間に、私か、月黄泉か。どちらが信頼に値するのが見極めれば良いと思うのです。その頃、もう一度お返事を伺いに参ります。では、色よい返事を期待していますよ」

 淡々とそう言うと、スーッと消えた。

「あ、そうそう。あなたの言動など、手に取るように私どもには伝わっていますから。早急に心を完全に防御する術を優先的に身に着けた方が良いかもしれませんねぇ。ふふふふふ……」

 と声だけが夕星の右耳に響いた。その冷酷な声に鳥肌が立つほど恐怖を覚える。

(なるほど、神々に四六時中全て監視されている訳か。……この思考さえも)

 夕星は自嘲の笑みを浮かべた。

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