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第二十一話

贄の里 蟒蛇の言い分・後編

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 ……それは魑魅魍魎が跋扈し、貴族と庶民の間に天と地ほどの格差が著しかった頃の事……

 硬い殻を破り、複数の兄弟たちと共に生まれた。そこの森ではただ生きていく事に、何の不自由もなかったという。時折、少し大きな獲物を狩る時だけ同類と協力する程度で、自由気ままに過ごしていた。近くに集落があったが、特に争う事も共生する事もなく一種の境界線を引いたように両者がかち合う事はなかった。

 ある時、高僧の身なりをした男と酷く高貴な身なりの男がお忍びでやってきた。

「この場所が最高とうらないで出ました」

 高僧な身なりの者がそう言い

「では、かかれ」

 高貴な身なりの者がそうこたえた。

「はっ」

 高僧はそう答えると、どこからともなく大量の人が現れたと思ったら彼らは一斉に草を刈り、木をなぎ倒し始めた。そして片端から蛇という蛇を捕まえ、いつの間に掘ったのか地に大きな穴が出来ており、捕まえた蛇たちを片っ端からその穴に投げ込んでいった。穴から這い出ようにも、穴の周りを十種神宝の一つ、蛇比礼へびのひれという布が敷かれていて這い出る事は叶わず。そのまま放置して人間どもは去って言った。

 そこから生き残りをかけて共食いが始まった。そうして最後に生き残った最強のモノを神として祀る。祀るとか聞こえが良いが、実際には殺され、死骸かた毒を取り出す。この毒を大切に扱う事で悲願を達成したり、怨みのあつ相手や一族に使う事で完全に失脚させたりする事に使うのだ。

『……タダ、祟リヲ恐レテ祀ルダケダ。崇リ神トシテナ……ソノ最後二生キ残ッタノガ、ワシジャ。腹ガ立ッタノデナ、高僧モ高貴ノ奴モ他ノ人間ドモモ、根コソギ喰イ殺シテクレタ。長イ時ヲカケテ、妖力ヲ蓄エテイッタ。コノ村ハ、旅人ヲ喰イ易クスル為二ワシガ全テ妖術デ作ッタ作リモノダ。元々、蛇ハ何カ月モ食ワナクテモ大丈夫ナ性質たちダ。コノトコロノ大干バツデ訪レル旅人モ殆ド居ナクナッタトコロ二、オ前タチガ来タ。ハッハッハッハッ、マタ、食イ損ネタ』

 蟒蛇は自嘲気味に笑った。

「……共食いさせて最後に生き残ったモノを祀る……『蟲毒こどく』という呪術で、古代『隋』の国から伝わって来たものと聞いている。未だに密かにその呪術を行い、邪神を称える少数の者たちがいると聞いた事がある……」

 氷輪は考え込みながらこたえた。耳を傾けながら、最大に気になった部分を迷わず問う。

「……十種神宝、蛇比礼と言っていたが、それは今何処いまいずこに? 私がそなたの角に被せた布は、効き目の程はどうだったであろう?」

『カッカッカッカッ……ワシクライ二生キテ妖力ヲ蓄エタナラ、サホド効果ハナカロウテ。二、三個以上ソロエバ効クカモ知レンガ。蛇比礼ジャガ、コノ先ノ森ノ少シ奥ノ祠ニアルゾ』

 蟒蛇は面白そうに笑う。そしてふと琥珀を見つめた。そして意外ぞうに目を見開く。

『オヤ? オ前サン何ヲ泣イテルンダイ?』
「琥珀?」

 蟒蛇の言葉に、氷輪は驚いて琥珀を見やる。

「……だってよう……」

 人目を憚らず涙ぐみ、鼻を啜る琥珀。大きな瞳に透明の膜が張っており、今にも零れ落ちそうだ。

「だって、グスン、可哀想じゃんか! せっかく平穏に暮らしてたのに、人間どもの勝手な欲望に利用されて。大嫌い筈の人間の村や村人まで作ってさ。そんで人間を食らってまで生き続けるの……可哀想だよ。この蟒蛇のおっちゃん、何も悪いことなんてしてなかったのに……」

 とうとう堪えきれずに瞳から透明の雫が流れ落ちた。ポタリ、ポタリ、ポタポタと乾いた地に滴り落ちる。

「……琥珀」

 氷輪の胸に、グッと温かい感情が灯る。それが何なのかは分からないが、その感情が込み上げるままに琥珀の目の前に身を移した。そして大きく両手を広げ、琥珀を包み込むように抱き締めた。考えるより体が先に動いていた。

『琥珀トヤラ、オ前ハ優シイ子ナンジャナ。性根ガマッ直グデ澄ンデオル。半妖ノ身。辛イ事モ多々アッタロウ二……』

 蟒蛇は神妙な顔つきで言った。そして

『オ前タチ、気二入ッタ!』

 とニヤリと笑った。
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