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第十六話
異形のモノ
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「……このガキは見ての通り元々異形のもん、てんで親に捨てられて寺に引きとられて育ったらしいんですわ。それで、そこの寺は元々和尚が細々と一人で守っていたところで。せんだって病でお亡くなりになられて、文字通り天涯孤独のところ、このガキ自らがわしらの仲間になりたい、と言ってきましたんでな。一人前の漢にしてやろうとしてやってたんですわ」
子供の手当を終え、近くの木の根元びに寝かせている。子供の髪は、藤の蔓のようにくるくると舞いた狐色だった。汚れているが、象牙色の肌はキメ細やかだ。眉も睫毛も濃く、髪と同じ色だ。睫毛は非常に長い。目を閉じている為瞳の色は不明だが、異形と言われる所以は大方この髪の質と色、そして恐らくは瞳の色だろうと氷輪は予測した。
「なるほど。それで、何故よってたかって皆さんで暴力を?」
『親に捨てられた』というところで子供が一瞬眉をしかめた事を氷輪は見逃さなかった。状況を確認する為に気を失っているふりをしている事にも、傷口の手当てをしている際に気付いていた。
「言い方に棘がありますなぁ」
長は苦笑する。そして話を続けた。
「このガキ、とある家の畑の野菜を根こそぎかっぱらって来い、と命令したんですがね、生意気にも『この家の人だって必死で生きてるんだから全部盗るのは嫌だ』とかぬかすんですわ。それで、頭にきちまいましてね、お前みたいな口ばかり達者な生意気坊主、親に捨てられて当然だ! と言っちまいやして。そしたらこのガキ、『捨てられたんじゃねー!』って石を投げつけて反抗して来ましたんでね……。仏心を出したばかりに、恩を仇で返されたってとこですわ」
彼は狡そうにゲヘへと笑った。
(この子ともなりの矜持があるのか)
と氷輪は感じた。
「そうでしたか。それで、この子の名は何と?」
「聞いても答えないもんでね。真の名に拘るような御身分でもない癖に。そんな訳なんで、適当に『小童』と呼んでましたね」
(真の名は言わぬ……か)
氷輪はある推測が頭に浮かんだ。
「……しかし、いいんですかい? このガキは出来損ないで、覚えは悪いは腕っぷしは弱いわで何の役にも立ちませんぜ? 連れていくだけ足手まといになるだけですぜ? それなのにいっちょ前に鼻っ柱だけは強くて、しかも異形の……」
「構いません。私も話し相手が欲しかったところですしね」
氷輪は笑顔で応じた。野武士たちの元に居ても、子供の為にならない。その内なぶり殺されそうだと判断し氷輪は、自分が引き取ろうと申し出たのだった。子供が何とか安全を確保して生きていけそうな村にが見つかるまで、共に旅をしようと思っての申し出だ。野武士たちは厄介払いが出来たとばかりに二つ返事で交渉が成立した。
「そんではまぁ、お気をつけて」
「有難う」
野武士たちは早々と去って行った。氷輪は笑顔で彼らを見送った。もう、辺りは真っ暗だ。野武士たちはそれぞれ馬に乗り、松明をつけて旅立った。
「今夜はここで野宿だ。火は絶やせないな」
氷輪は木の枝で火を調整しつつ、子供に聞こえるように声を張る。
「もう、起きて来て大丈夫だぞ。彼らは遠くに行ってしまった。安心するが良い、彼らはもう戻って来ない」
そして子供の方に顔を向けた。子供はゆっくりと起き上がり、氷輪を見つめた。酷く警戒している様子だ。
子供の手当を終え、近くの木の根元びに寝かせている。子供の髪は、藤の蔓のようにくるくると舞いた狐色だった。汚れているが、象牙色の肌はキメ細やかだ。眉も睫毛も濃く、髪と同じ色だ。睫毛は非常に長い。目を閉じている為瞳の色は不明だが、異形と言われる所以は大方この髪の質と色、そして恐らくは瞳の色だろうと氷輪は予測した。
「なるほど。それで、何故よってたかって皆さんで暴力を?」
『親に捨てられた』というところで子供が一瞬眉をしかめた事を氷輪は見逃さなかった。状況を確認する為に気を失っているふりをしている事にも、傷口の手当てをしている際に気付いていた。
「言い方に棘がありますなぁ」
長は苦笑する。そして話を続けた。
「このガキ、とある家の畑の野菜を根こそぎかっぱらって来い、と命令したんですがね、生意気にも『この家の人だって必死で生きてるんだから全部盗るのは嫌だ』とかぬかすんですわ。それで、頭にきちまいましてね、お前みたいな口ばかり達者な生意気坊主、親に捨てられて当然だ! と言っちまいやして。そしたらこのガキ、『捨てられたんじゃねー!』って石を投げつけて反抗して来ましたんでね……。仏心を出したばかりに、恩を仇で返されたってとこですわ」
彼は狡そうにゲヘへと笑った。
(この子ともなりの矜持があるのか)
と氷輪は感じた。
「そうでしたか。それで、この子の名は何と?」
「聞いても答えないもんでね。真の名に拘るような御身分でもない癖に。そんな訳なんで、適当に『小童』と呼んでましたね」
(真の名は言わぬ……か)
氷輪はある推測が頭に浮かんだ。
「……しかし、いいんですかい? このガキは出来損ないで、覚えは悪いは腕っぷしは弱いわで何の役にも立ちませんぜ? 連れていくだけ足手まといになるだけですぜ? それなのにいっちょ前に鼻っ柱だけは強くて、しかも異形の……」
「構いません。私も話し相手が欲しかったところですしね」
氷輪は笑顔で応じた。野武士たちの元に居ても、子供の為にならない。その内なぶり殺されそうだと判断し氷輪は、自分が引き取ろうと申し出たのだった。子供が何とか安全を確保して生きていけそうな村にが見つかるまで、共に旅をしようと思っての申し出だ。野武士たちは厄介払いが出来たとばかりに二つ返事で交渉が成立した。
「そんではまぁ、お気をつけて」
「有難う」
野武士たちは早々と去って行った。氷輪は笑顔で彼らを見送った。もう、辺りは真っ暗だ。野武士たちはそれぞれ馬に乗り、松明をつけて旅立った。
「今夜はここで野宿だ。火は絶やせないな」
氷輪は木の枝で火を調整しつつ、子供に聞こえるように声を張る。
「もう、起きて来て大丈夫だぞ。彼らは遠くに行ってしまった。安心するが良い、彼らはもう戻って来ない」
そして子供の方に顔を向けた。子供はゆっくりと起き上がり、氷輪を見つめた。酷く警戒している様子だ。
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