「大正浪漫夢奇譚」~トキメキ朱鷺色戀物語~

大和撫子

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第伍話

瑠璃子様の瑠璃色

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 『ねぇ、ほら。ご覧になって。朱鷺子様よ』
『いつみても爽やかで、颯爽と歩かれていて素敵ね』
『乗馬もお琴も手芸もお勉強も……何でもお出来になるの、憧れますわ』
『えぇ、本当に……』

 とある日のお昼休みの女学校、お嬢様方の噂話の一つでございます。お友達と御歓談なさっている瑠璃子様のお耳にもそのようなお噂が入り、誇らし気に微笑んでおられました。瑠璃子様にとって朱鷺子様は、自慢のお姉様なのでございますね。

 おや? また別のグループでも……

『朱鷺子様は武術にも優れていらっしゃるのだとか』
『ええ、あたくし、以前お琴のお稽古に通う際、不良二人に絡まれてしまった事があって……』
『あらあらぁ! まぁ、それは大変!』
『ええ、運は悪くて。丁度人通りが少ないところで、侍女と二人だけだったからもう駄目かと思いましたの。そこへ、「御辞めなさい!」と凛とした声と共に、たまたま通りかかった朱鷺子様が登場されて……』
『まぁ! それで?!』
『路地に置いてあった竹箒を手に私たちと不良の間に割って入って下さって……』

 うっとりとその時の光景を思い浮かべるお嬢様。聞き役のお嬢様お二人も恍惚としてその時の事を想像なさっているご様子です。

『激昂して襲いかかってくる不良たちを、見事な棒さばきで撃退して下さいまいたの!』
『まぁ! 何て素敵!』
『素敵……朱鷺子様はなぎなたも名手でらっしゃるとか』

 お目めをキラキラさせ頬を紅潮させてお話するお嬢様達。ええ、お話の通りでございますよ。その時、日本舞踊のお稽古の帰りだったお嬢様に付き添っておりましたから。確かにお嬢様は御強い。ですが大事な大事な朱鷺子お嬢様に万が一の事がありましたら大変でございます。私が黙ってはおりませんよ。

(あらあら、お父様とお母様がお聞きになったら大目玉ですわね。これは聞かなかった事にしましょう)

 瑠璃子お嬢様の心の声でございます。まぁ、そうは言いましても。お嬢様も侍女とお二人でお稽古ごとに通われる場合、または姉妹で、お友達同士で……と女性だけでお出掛けの際は、影からひっそりと護衛専門の屈強な男が最低二人はガードしておりまして。もしもの際がすぐに助けられるようにはされているのですけれど。

(……宝石の瑠璃ラピスラズリのように、凛然と個性的にそして艶やかに美しくなるように、と瑠璃子と名付けられたという私ですけれど……。それはお姉様の方が相応しかったみたい)

 ほんの少し、憂いの影が差す瑠璃子様。そんな姿もまた儚げでお美しいのですが……。どちらかと言うと朱鷺子様を宝石に例えるなら紅玉ルビーのように思いますね。瑠璃子様は藍玉アクアマリンといったところでしょうか……と、これは失礼致しました、話が横道にそれました。

 そうこうしている間瑠璃子様の脳裏には、親し気に笑い合う朱鷺子様と薫様のお姿が浮かんでいらっしゃるご様子です。

(お姉様は『長女である私は、一族を守る為にお父様がお決めになった殿方と結婚します。ですが瑠璃子、あなたは好いた御方と自由に結婚なさい。あなたに惹かれない殿方はこの世には居ないと思うわ』と、おっしゃいますけれど……薫様は……)

 どうやら、瑠璃子様も薫様の事が気になるご様子。更に、薫様のお心は朱鷺子様にある、そう思われていらっしゃるようです。ですが、肝心の薫様の本心は……やはりどう頑張ってみても、私の力を持ってしてもはっきりと見えないのでございますよ。

 考えられる原因としましては……いや、早合点はいけませんね。もう少し様子を視させて頂きましょう。
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