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第弐話
其の二
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「あらあら、琥珀ったらまたこんなところで寝てしまって……」
朱鷺子様のお優しいお声、愛しそうに頭から背中を撫でて下さる手の感触を楽しみます。ほんの少し、ウトウトしてしまいました。
「琥珀はこのテーブルの上でのお昼寝がお気に入りだね」
と、薫様のお声。どうやら何時の間にか転寝してしまったようです。ふわぁ、と欠伸をしながら大きく伸びをしました。そして薫様のお膝の上に飛び乗りました。
「おや、僕の膝に来るかい?」
と微笑まれます。蕩けそうな笑顔、これでは婦女子はひとたまりもないでしょう。ですがこう見えても私は男の子ですからね! それでも甘えるように彼を見上げて……
「いつも可愛いなぁ」
と目を細めて私の頭を撫でてくださいます。実は私、密やかなる能力がありまして。いえね、大した力では無いのですが、触れられる或いは触れる事、またはその目をじっと見つめる事で……その人の本心が見透せるのでございます。あっ! ここだけのお話ですよ?
さてさて、薫様は朱鷺子お嬢様の事をどう思ってらっしゃるのでしょうねぇ? いま一つ、心の奥が見えて来ないのですよ。それに……。おや? 何やら甘くて美味しそうな香りが……
「失礼します」
「あら、いらっしゃい。お疲れ様」
瑠璃子様のお声に、朱鷺子様のお声。続いて、
「瑠璃子嬢、いらっしゃい」
と薫様が笑顔で瑠璃子様をお迎えします。瑠璃子様は笑顔で応じられますと、いつもの椅子にお座りになりました。紙袋を手にされておりまして、どうやら甘い香りはそこから漂って来ているようでございますね。
朱鷺子様が魔法瓶からお湯を注ぎ、ローズティーをお淹れになって瑠璃子さんの前に置かれました。
「有難う、お姉様。今日のお菓子はお母様がワッフルを焼いてくださったのですって。甘い物がそれほど得意ではないお兄様には、お餅を揚げてお醤油でまぶしたお菓子ですって」
「まぁ! それは温かい内に皆さんで頂きましょう」
瑠璃子様が目を輝かせます。私も、もしワッフルの上に果物が乗っていたなら、ご相伴に預かれるかもしれません。期待を込めて、と薫様のお膝からピョンとテーブルの上に移りました。
ガゼボ内には食器棚も置かれておりまして、朱鷺子様はそこから白いお皿を三つ取り出します。そしてワッフルと揚げ餅をナイフとフォークで器用に取り分けおられます。あ! ワッフルに苺が添えられていますよ!
「はい、お兄様」
「いつも有り難いなぁ」
朱鷺子様は真っ先に薫様に。次に瑠璃子様に、最後にご自分、という順でお菓子を取り分けました。皆さん一斉に両手の平を胸の前で合わせ、
「では、頂きます」
とお声を揃えて挨拶をなさいまして、お召し上がりになります。朱鷺子様、何か大切な事をお忘れでは?
「どうしたの琥珀、キーキー鳴いて」
朱鷺子様、もう! お分かりになっている癖に!
「うふふ、はいはい、苺、一つだけね。はい」
と言って、ご自分の取り分け分から苺を一つ手渡してくださいました。苺、大好物なのです。皆が微笑ましく見つめてくださる中、夢中で苺を食べ始めました。こうしていると、薫様の心の声が伝わって来ます。
(こうして二人並んでいると、まるで二輪の花のようだ。朱鷺子嬢は朱鷺色の牡丹、瑠璃子嬢は瑠璃色の菖蒲……)
確かに、朱鷺子様の本日のご衣装は、朱鷺色に白いレースとフリルをふんだんに使用した洋装故に、牡丹の花のように見えます。瑠璃子様は瑠璃色のお着物をお召しで、凛然と咲く菖蒲を思わせます。けれども、朱鷺子様は笑顔で談笑しつつも、内心では複雑なご様子。
(こうして瑠璃子と並んでみると、私は瑠璃子の引き立て役ね。なるべく、瑠璃子と衣装が被らないようししてはいるけれど……)
と、心の中で溜息をつかれました。瑠璃子様に至っては……
「ワッフル、美味しいわ」
と満足そうです。それ以上は何も考えてらっしゃらないご様子です。
「お母様のワッフル、いつ食べても美味しわ。食べ終わったら、皆さんで『かるた』でもしませんこと?」
朱鷺子様は朗らかに提案なされました。
「あら、素敵」
「うん、いいね」
このような風にして、お三方は日曜日の午後を過ごされるのでございます。昔からの習慣、という感じでしょうか。
朱鷺子様のお優しいお声、愛しそうに頭から背中を撫でて下さる手の感触を楽しみます。ほんの少し、ウトウトしてしまいました。
「琥珀はこのテーブルの上でのお昼寝がお気に入りだね」
と、薫様のお声。どうやら何時の間にか転寝してしまったようです。ふわぁ、と欠伸をしながら大きく伸びをしました。そして薫様のお膝の上に飛び乗りました。
「おや、僕の膝に来るかい?」
と微笑まれます。蕩けそうな笑顔、これでは婦女子はひとたまりもないでしょう。ですがこう見えても私は男の子ですからね! それでも甘えるように彼を見上げて……
「いつも可愛いなぁ」
と目を細めて私の頭を撫でてくださいます。実は私、密やかなる能力がありまして。いえね、大した力では無いのですが、触れられる或いは触れる事、またはその目をじっと見つめる事で……その人の本心が見透せるのでございます。あっ! ここだけのお話ですよ?
さてさて、薫様は朱鷺子お嬢様の事をどう思ってらっしゃるのでしょうねぇ? いま一つ、心の奥が見えて来ないのですよ。それに……。おや? 何やら甘くて美味しそうな香りが……
「失礼します」
「あら、いらっしゃい。お疲れ様」
瑠璃子様のお声に、朱鷺子様のお声。続いて、
「瑠璃子嬢、いらっしゃい」
と薫様が笑顔で瑠璃子様をお迎えします。瑠璃子様は笑顔で応じられますと、いつもの椅子にお座りになりました。紙袋を手にされておりまして、どうやら甘い香りはそこから漂って来ているようでございますね。
朱鷺子様が魔法瓶からお湯を注ぎ、ローズティーをお淹れになって瑠璃子さんの前に置かれました。
「有難う、お姉様。今日のお菓子はお母様がワッフルを焼いてくださったのですって。甘い物がそれほど得意ではないお兄様には、お餅を揚げてお醤油でまぶしたお菓子ですって」
「まぁ! それは温かい内に皆さんで頂きましょう」
瑠璃子様が目を輝かせます。私も、もしワッフルの上に果物が乗っていたなら、ご相伴に預かれるかもしれません。期待を込めて、と薫様のお膝からピョンとテーブルの上に移りました。
ガゼボ内には食器棚も置かれておりまして、朱鷺子様はそこから白いお皿を三つ取り出します。そしてワッフルと揚げ餅をナイフとフォークで器用に取り分けおられます。あ! ワッフルに苺が添えられていますよ!
「はい、お兄様」
「いつも有り難いなぁ」
朱鷺子様は真っ先に薫様に。次に瑠璃子様に、最後にご自分、という順でお菓子を取り分けました。皆さん一斉に両手の平を胸の前で合わせ、
「では、頂きます」
とお声を揃えて挨拶をなさいまして、お召し上がりになります。朱鷺子様、何か大切な事をお忘れでは?
「どうしたの琥珀、キーキー鳴いて」
朱鷺子様、もう! お分かりになっている癖に!
「うふふ、はいはい、苺、一つだけね。はい」
と言って、ご自分の取り分け分から苺を一つ手渡してくださいました。苺、大好物なのです。皆が微笑ましく見つめてくださる中、夢中で苺を食べ始めました。こうしていると、薫様の心の声が伝わって来ます。
(こうして二人並んでいると、まるで二輪の花のようだ。朱鷺子嬢は朱鷺色の牡丹、瑠璃子嬢は瑠璃色の菖蒲……)
確かに、朱鷺子様の本日のご衣装は、朱鷺色に白いレースとフリルをふんだんに使用した洋装故に、牡丹の花のように見えます。瑠璃子様は瑠璃色のお着物をお召しで、凛然と咲く菖蒲を思わせます。けれども、朱鷺子様は笑顔で談笑しつつも、内心では複雑なご様子。
(こうして瑠璃子と並んでみると、私は瑠璃子の引き立て役ね。なるべく、瑠璃子と衣装が被らないようししてはいるけれど……)
と、心の中で溜息をつかれました。瑠璃子様に至っては……
「ワッフル、美味しいわ」
と満足そうです。それ以上は何も考えてらっしゃらないご様子です。
「お母様のワッフル、いつ食べても美味しわ。食べ終わったら、皆さんで『かるた』でもしませんこと?」
朱鷺子様は朗らかに提案なされました。
「あら、素敵」
「うん、いいね」
このような風にして、お三方は日曜日の午後を過ごされるのでございます。昔からの習慣、という感じでしょうか。
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