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第十話
時に神が不公平で無情に思える理由【三】
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…転職専用のサイトを漁り、条件を検索する。新卒でもない、この年で何の経験もないと…やはりどこへ勤務するにしても厳しい。アルバイトから始めるのが無難だろう。この際、対人スキルがないからダメだとか言ってないで、販売系のアルバイトからはじめてみようか。そうなれば先ず住む場所を最初に見つけた方が良いかな…
あれこれと思考を巡らしながら、貯金がいくらあったのか貴重品袋の中の通帳を取り出す。今までコツコツと貯めて来たものと、粋蓮との仮初夫婦契約で得た…と言っても一カ月分だけで、二か月目の分は来月支払われるのだけど。ここは、労働基準法に乗っとって、だ。即日解雇は禁止されているからせめて一カ月の猶予は欲しい、と直談判するしかないのではなかろうか。その間に、引っ越し先もアルバイト先も見つけるから、と。
そのくらいは、お願いしても良いんじゃないかと思う。だって、咲夜さんさ、一応助けようとした訳で。確かにまぁ、お見苦しいところは見せたかもしれないけど。お礼の一つくらいあってしかるべきだと思うんだ、元天界人だとしても、今は人間でしかも人間見習いな訳なんだし。別に、お礼を言われたくて助けようとした訳じゃないけれども。ちょっと、非常識なんじゃない? 大体さぁ、転生しても美人な深窓のご令嬢とかさ、恵まれ過ぎだっつーの。
あーーーなんか物凄く腹が立って来た! 良し、ひとこと言ってやる!!
そう意気込んで椅子から勢いよく立ち上がったところ、
コンコンコン、とドアをノックする音が響いた。誰だろう?「はい」と返事をすると……
「すまん、日比谷だ。粋蓮様と咲夜さんが話があるから応接室に来て欲しいってさ」
話? 何だろう……?
と言う訳で、あたしは再び応接間に居た。つい先ほどの同じ位置に四人全員が腰をおろしている。それぞれに温度差があるように感じるのは、あたしの気のせいではないと思う。
「……それで、お話とは?」
時間を無駄にしたくなくて、あたしから切り出す。いつまでも見つめ合って鼻の下を伸ばしあっている恋人同士の事なんか知ったこっちゃねーわ。惚気話なら早々に引き上げようっと。こちとらそんな暇はないんじゃい!
「あぁ、そうそう。いくら何でもすぐにここを出て何て非情な事は申しませんわ。スッキリとはしませんけれども、お二人の関係も承知していますし」
咲夜は思い出したように言った。意識的なのか、それとも無意識なのかは知らないけれど、上品だがどこか勿体ぶった言い方が一々癇に障る。
「はい、まぁ……」
取り敢えず曖昧に返事をしておこう。
「ですから、わたくしから貴女に提案を申し上げようと思うのです」
はっ? 上から目線の物言い、何だかなぁ……嫌な予感しかしないのだけど。
「何でしょうか?」
「わたくしの護衛役をお願い出来ないかしら、と思いますの」
「護衛? ですか?」
「ええ」
さも当然のように言う彼女に、いささかウンザリする。表情に出ないように気をつけながら耳を傾けるふりをする。
「実は、あの時外出していたのは……。わたくし、護衛もつけずに外出などお家では有り得なくて。男性と女性、最低一人ずつ護衛につくのですけれど、特に女性の方が……何かにつけて世話を焼こうとしたり、お手洗いのお風呂の中にも同行しようするのが、監視されているみたいで息が詰まって。それで、ちょっと一人になってみたくて。抜け出して来たんです」
つまり、正真正銘の大金持ちの御令嬢で、四六時中何をしていても護衛がつく。うん、それはそうだろう、それだけの地位と財産と、更には桁外れの美貌までついてきたら、護衛をつけない方がおかしい。女性の護衛役なら特に片時も離れないくらいにガード……不思議ではないと思う。
つまり、プチ家出みたいな感じか。けどさぁ……
「なるほど、御事情は何となくお察し致しました。けれども、護衛役は既についてらっしゃる。新しく私を雇う、という事でしょうか?」
必要ないと思う。今まで任務についていた人たちも良い顔しないよね。
「いいえ。目を離したという事で、今までの護衛役十人は全て解雇にしますので。そこで、あなたにお願いしたいと思うのです」
「はっ???」
何を言っているのだこのお嬢は。思わず我が耳を疑い、素っ頓狂な声を上げてしまった。
あれこれと思考を巡らしながら、貯金がいくらあったのか貴重品袋の中の通帳を取り出す。今までコツコツと貯めて来たものと、粋蓮との仮初夫婦契約で得た…と言っても一カ月分だけで、二か月目の分は来月支払われるのだけど。ここは、労働基準法に乗っとって、だ。即日解雇は禁止されているからせめて一カ月の猶予は欲しい、と直談判するしかないのではなかろうか。その間に、引っ越し先もアルバイト先も見つけるから、と。
そのくらいは、お願いしても良いんじゃないかと思う。だって、咲夜さんさ、一応助けようとした訳で。確かにまぁ、お見苦しいところは見せたかもしれないけど。お礼の一つくらいあってしかるべきだと思うんだ、元天界人だとしても、今は人間でしかも人間見習いな訳なんだし。別に、お礼を言われたくて助けようとした訳じゃないけれども。ちょっと、非常識なんじゃない? 大体さぁ、転生しても美人な深窓のご令嬢とかさ、恵まれ過ぎだっつーの。
あーーーなんか物凄く腹が立って来た! 良し、ひとこと言ってやる!!
そう意気込んで椅子から勢いよく立ち上がったところ、
コンコンコン、とドアをノックする音が響いた。誰だろう?「はい」と返事をすると……
「すまん、日比谷だ。粋蓮様と咲夜さんが話があるから応接室に来て欲しいってさ」
話? 何だろう……?
と言う訳で、あたしは再び応接間に居た。つい先ほどの同じ位置に四人全員が腰をおろしている。それぞれに温度差があるように感じるのは、あたしの気のせいではないと思う。
「……それで、お話とは?」
時間を無駄にしたくなくて、あたしから切り出す。いつまでも見つめ合って鼻の下を伸ばしあっている恋人同士の事なんか知ったこっちゃねーわ。惚気話なら早々に引き上げようっと。こちとらそんな暇はないんじゃい!
「あぁ、そうそう。いくら何でもすぐにここを出て何て非情な事は申しませんわ。スッキリとはしませんけれども、お二人の関係も承知していますし」
咲夜は思い出したように言った。意識的なのか、それとも無意識なのかは知らないけれど、上品だがどこか勿体ぶった言い方が一々癇に障る。
「はい、まぁ……」
取り敢えず曖昧に返事をしておこう。
「ですから、わたくしから貴女に提案を申し上げようと思うのです」
はっ? 上から目線の物言い、何だかなぁ……嫌な予感しかしないのだけど。
「何でしょうか?」
「わたくしの護衛役をお願い出来ないかしら、と思いますの」
「護衛? ですか?」
「ええ」
さも当然のように言う彼女に、いささかウンザリする。表情に出ないように気をつけながら耳を傾けるふりをする。
「実は、あの時外出していたのは……。わたくし、護衛もつけずに外出などお家では有り得なくて。男性と女性、最低一人ずつ護衛につくのですけれど、特に女性の方が……何かにつけて世話を焼こうとしたり、お手洗いのお風呂の中にも同行しようするのが、監視されているみたいで息が詰まって。それで、ちょっと一人になってみたくて。抜け出して来たんです」
つまり、正真正銘の大金持ちの御令嬢で、四六時中何をしていても護衛がつく。うん、それはそうだろう、それだけの地位と財産と、更には桁外れの美貌までついてきたら、護衛をつけない方がおかしい。女性の護衛役なら特に片時も離れないくらいにガード……不思議ではないと思う。
つまり、プチ家出みたいな感じか。けどさぁ……
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必要ないと思う。今まで任務についていた人たちも良い顔しないよね。
「いいえ。目を離したという事で、今までの護衛役十人は全て解雇にしますので。そこで、あなたにお願いしたいと思うのです」
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