ツクヨミ様の人間見習い

大和撫子

文字の大きさ
上 下
26 / 51
第六話

(仮初)新米夫婦のお仕事な毎日……のスタート 【四】

しおりを挟む
   【四】

 一つにまとめたタロットの束を、トランプのように切る。そして束のまま再度テーブルに置き、左手で三つの束に分ける。直感の赴くままに左手で一つの束にまとめ、裏返したまま左手で束を持った。右手で素早くタロットを上から一枚ずつ下に置いていく。そして七枚目を表に返してそこから順番に計十二枚を展開していく。『変形ヘキサグラム』と呼ばれる展開法で、恋愛に限らず対人関係に対する相性占いに適しているものだ。

 日比谷はと言えば、月末月初は忙しいとかでこの鑑定室にいる事はほぼない。だが、そして忙しくない時は予めアンケートで調べておいたクライアントが、アレルギーの有無、無しと答えた場合のみ、追加質問で当店には兎がいるが部屋にいても差し支えないかどうかを聞き、大丈夫と答えた方のみ、レジカウンターで看板兎となる。
 ごくたまに、粋蓮の指示により人型に変化《へんげ》して待機する時もあるらしいが今のところ、あたしはその時に当たっていない。今の日比谷は、といえば窓辺で箱座りをして日向ぼっこをしている。

 リアルタイムで聞こえてくる粋蓮の鑑定結果と同時に、またはそれより早く展開したタロットを読み取るリーディングする事が目標だ。素早く展開されたカードを観察する。

 ……彼の状態は『ワンド10・正位置』、彼女との結婚に対しては『星・正位置』、つまり、結婚するからにはこれくらいの年収で地位はこのくらいで、でも今の自分には厳しいから、と頑張っているけれど空回り、という感じか、なるほどね。それに対して彼女は『月・正位置』。うん、大分疑心暗鬼になっている、と。最終結果は『女帝』、自然体で豊かな祈り、妊娠の暗示もある。いいじゃない! アドバイスは『ペンタクル・3、正位置』、落ち着いて話し合いなさい、互いの気持ちを擦り合わせて、か……

「そうですね……彼はあなたとの結婚を考えていない訳ではありません。むしろ、しっかりとそれを視野に入れているからこそ、二の足を踏んでいるというところでしょうか?」
「え? どういう事ですか?」
「彼は、結婚するには大体このくらいの役職にいて年収はいくらくらいで……と考えて、いまのご自分との差に落ち込みつつもがむしゃらに頑張っておられますね。ちょっと空回り気味で周りが見えなくなっているかな」
「そんな、私は別にお金や地位なんて……」
「ええ、わかりますよ。ですからお二人とも一度、結婚するという事についてお互い擦り合わせする為にもしっかりと話しあう事をお勧めします。それが出来れば、自然な流れでお二人の強い結びつきが見えますから。ご結婚は、なさるでしょうね」
「本当ですか! 良かったぁ」

 粋蓮とクライアントのやり取りを聞きながら、自分の鑑定結果と同じだった事にほくそ笑む。ただ、あたしにとっての問題は、この結果をクライアントにどう伝えるかなのだ。伝え方によって、心に沁みいったり何も響かなかったり、反感を抱いかれたりする。だから、彼の言葉の選び方や間の取り方、声の抑揚などが非常に参考になった。クライアント一人一人によって表現も異なる。そういったところも大いに勉強になった。

「……でも、彼はどうして……」
「大抵の男にはそういうプライドがあるものですよ。まして愛して大切にしたい女性ならば尚更ね」
「そういうものでしょうか」
「ええ。最近はそういった気概のある男性は少なくなって来ているようですから、男気がある方ですね」
「そうなんです、彼……」

 それからはクライアントの惚気話に優しく寄り添う彼の声。こういうところも接客において大切なところなのだろう。

 ……愛して大切にしたい女性なら尚更……

 彼が今さっき口にした言葉だ。いまも忘れ得ぬ大切な女性、いつか再会する彼女の為に、彼もまた人間に身をやつして稼いでいるのだろう。全くの憶測だけれども。

 当初心配していたように、クライアントが私に嫉妬を向けたり粋蓮との関係を詮索される事は今のところなかった。拍子抜けするくらいに。リピーターではなく、新規だったのもあるかもしれないが。殆どが、彼を見て目がハートになり、話術に惹き込まれて夢見心地で帰っていく。

 絶対に粋蓮に恋はしない女。どうして私を選んだのかよく分かる気がした。彼とはルックス的に釣り合わないのと、纏うオ-ラが違い過ぎて誰も私を気にも留めないのだ。

 だから、楽だった。それなのに、時折胸が軋むような気がするのは何故だろう?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

視える宮廷女官 ―霊能力で後宮の事件を解決します!―

島崎 紗都子
キャラ文芸
父の手伝いで薬を売るかたわら 生まれ持った霊能力で占いをしながら日々の生活費を稼ぐ蓮花。ある日 突然襲ってきた賊に両親を殺され 自分も命を狙われそうになったところを 景安国の将軍 一颯に助けられ成り行きで後宮の女官に! 持ち前の明るさと霊能力で 後宮の事件を解決していくうちに 蓮花は母の秘密を知ることに――。

その捕虜は牢屋から離れたくない

さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。 というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。

イケメン歯科医の日常

moa
キャラ文芸
堺 大雅(さかい たいが)28歳。 親の医院、堺歯科医院で歯科医として働いている。 イケメンで笑顔が素敵な歯科医として近所では有名。 しかし彼には裏の顔が… 歯科医のリアルな日常を超短編小説で書いてみました。 ※治療の描写や痛い描写もあるので苦手な方はご遠慮頂きますようよろしくお願いします。

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

少年神官系勇者―異世界から帰還する―

mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる? 別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨ この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行) この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。 この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。 この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。 この作品は「pixiv」にも掲載しています。

【完結】おれたちはサクラ色の青春

藤香いつき
キャラ文芸
国内一のエリート高校、桜統学園。その中でもトップクラスと呼ばれる『Bクラス』に、この春から転入した『ヒナ』。見た目も心も高2男子? 『おれは、この学園で青春する!』 新しい環境に飛び込んだヒナを待ち受けていたのは、天才教師と問題だらけのクラスメイトたち。 騒いだり、涙したり。それぞれの弱さや小さな秘密も抱えて。 桜統学園で繰り広げられる、青い高校生たちのお話。 《青春小説×ボカロPカップ8位》 応援ありがとうございました。

下宿屋 東風荘 3

浅井 ことは
キャラ文芸
※※※※※ 下宿屋を営み、趣味は料理と酒と言う変わり者の主。 毎日の夕餉を楽しみに下宿屋を営むも、千年祭の祭りで無事に鳥居を飛んだ冬弥。 そして雪翔を息子に迎えこれからの生活を夢見るも、天狐となった冬弥は修行でなかなか下宿に戻れず。 その間に息子の雪翔は高校生になりはしたが、離れていたために苦労している息子を助けることも出来ず、後悔ばかりしていたが、やっとの事で再会を果たし、新しく下宿屋を建て替えるが___ ※※※※※

処理中です...