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第六話
(仮初)新米夫婦のお仕事な毎日……のスタート 【二】
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【二】
……ど、どうせい、ドウセイ。動性、銅製、動静、同姓、いやいや、同棲。どうせい? どうしろ? どないせいっちゅーねん……
思考停止の後けたたましく脳内を吹き荒れるドウセイの文字の円舞。目まぐるしく移り変わる思考に、自分で自分に突っ込みを入れるという最早意味不明の自己完結ぶりだ。
「あぁ、ボートがあるのですね。何名かの方がボートで湖を行き来なさっていますね。妃翠、あなたも乗ってみますか?」
そんな私の心の内を知ってか知らずか、囁くようにして粋蓮が尋ねて来た。さらりと名前を呼び捨てにする。結局、彼が照れたのは最初の一度だけだった。あたしは実際の呼ぶとなると未だに照れとの闘いだ。分かっている、ただ単に過剰なまでの自意識のせいなのは。だが何故かは分からないけれど、ほんの少し気持ちがざわついた。
今にして思えば、少しだけ……彼の反応が見てみたかったのだと思う。
「ボートね。ほら、カップルばかりじゃないですか。よくあるジンクスなんですけどね。ここの人工湖でカップルでボートに乗ると、『そのカップルは一生添い遂げる事が出来る!』って言われてるんですよ」
さて、彼は何と応じるだろう? まぁ、答えは分かりきっているけれども。
『それ本当かい?』
耳元で日比谷の声が響く。彼は相変わらずあたしの右肩にちょこんと乗っている。
『本当だよ。占いしていると結構聞かれるんだよ。この湖のジンクスは本当か、とかね』
と小声でこたえた。粋蓮は、というと……
「そうなのですね! かくも人間とは面白い思考をするものですねぇ」
等と頷きながら感心している。さぁ、どう出る?
「では私も、人間見習いの一環として人間の考え方に合わせるとしましょう。では、乗らずにそろそろ帰りましょうか」
やっぱりね。実にあっさりとした反応だった。あたしと一生添い遂げたら拙いもの。そりゃそうだ。
だけど、ちょっぴりがっかりしたのは秘密だ。
『愚かな、そんなのは事実無根ですよ』
そう反応してくれる事を心のどこかで期待していた自分もいた。
「あぁそうそう、一緒に住むと言いましても寝室は完全別ですし。夫婦の夜のお務めなど一切必要ありませんからご安心くださいね」
と至極当たり前のように言い切った。はいはい、分かってますって。
「……ほら、スイッチ。スイッチってば!」
日比谷の声に追憶から返る。彼はあたしの事を妃翠の翠をもじって翠っち、転じてスイッチと呼ぶようになった。
「ボケっとすんな。食器洗い終わったぞ。洗濯も終わったみたいだ。サッサと干して仕事仕事!」
こうして一日が始まっていくのだ。
……ど、どうせい、ドウセイ。動性、銅製、動静、同姓、いやいや、同棲。どうせい? どうしろ? どないせいっちゅーねん……
思考停止の後けたたましく脳内を吹き荒れるドウセイの文字の円舞。目まぐるしく移り変わる思考に、自分で自分に突っ込みを入れるという最早意味不明の自己完結ぶりだ。
「あぁ、ボートがあるのですね。何名かの方がボートで湖を行き来なさっていますね。妃翠、あなたも乗ってみますか?」
そんな私の心の内を知ってか知らずか、囁くようにして粋蓮が尋ねて来た。さらりと名前を呼び捨てにする。結局、彼が照れたのは最初の一度だけだった。あたしは実際の呼ぶとなると未だに照れとの闘いだ。分かっている、ただ単に過剰なまでの自意識のせいなのは。だが何故かは分からないけれど、ほんの少し気持ちがざわついた。
今にして思えば、少しだけ……彼の反応が見てみたかったのだと思う。
「ボートね。ほら、カップルばかりじゃないですか。よくあるジンクスなんですけどね。ここの人工湖でカップルでボートに乗ると、『そのカップルは一生添い遂げる事が出来る!』って言われてるんですよ」
さて、彼は何と応じるだろう? まぁ、答えは分かりきっているけれども。
『それ本当かい?』
耳元で日比谷の声が響く。彼は相変わらずあたしの右肩にちょこんと乗っている。
『本当だよ。占いしていると結構聞かれるんだよ。この湖のジンクスは本当か、とかね』
と小声でこたえた。粋蓮は、というと……
「そうなのですね! かくも人間とは面白い思考をするものですねぇ」
等と頷きながら感心している。さぁ、どう出る?
「では私も、人間見習いの一環として人間の考え方に合わせるとしましょう。では、乗らずにそろそろ帰りましょうか」
やっぱりね。実にあっさりとした反応だった。あたしと一生添い遂げたら拙いもの。そりゃそうだ。
だけど、ちょっぴりがっかりしたのは秘密だ。
『愚かな、そんなのは事実無根ですよ』
そう反応してくれる事を心のどこかで期待していた自分もいた。
「あぁそうそう、一緒に住むと言いましても寝室は完全別ですし。夫婦の夜のお務めなど一切必要ありませんからご安心くださいね」
と至極当たり前のように言い切った。はいはい、分かってますって。
「……ほら、スイッチ。スイッチってば!」
日比谷の声に追憶から返る。彼はあたしの事を妃翠の翠をもじって翠っち、転じてスイッチと呼ぶようになった。
「ボケっとすんな。食器洗い終わったぞ。洗濯も終わったみたいだ。サッサと干して仕事仕事!」
こうして一日が始まっていくのだ。
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