24 / 51
第六話
(仮初)新米夫婦のお仕事な毎日……のスタート 【二】
しおりを挟む
【二】
……ど、どうせい、ドウセイ。動性、銅製、動静、同姓、いやいや、同棲。どうせい? どうしろ? どないせいっちゅーねん……
思考停止の後けたたましく脳内を吹き荒れるドウセイの文字の円舞。目まぐるしく移り変わる思考に、自分で自分に突っ込みを入れるという最早意味不明の自己完結ぶりだ。
「あぁ、ボートがあるのですね。何名かの方がボートで湖を行き来なさっていますね。妃翠、あなたも乗ってみますか?」
そんな私の心の内を知ってか知らずか、囁くようにして粋蓮が尋ねて来た。さらりと名前を呼び捨てにする。結局、彼が照れたのは最初の一度だけだった。あたしは実際の呼ぶとなると未だに照れとの闘いだ。分かっている、ただ単に過剰なまでの自意識のせいなのは。だが何故かは分からないけれど、ほんの少し気持ちがざわついた。
今にして思えば、少しだけ……彼の反応が見てみたかったのだと思う。
「ボートね。ほら、カップルばかりじゃないですか。よくあるジンクスなんですけどね。ここの人工湖でカップルでボートに乗ると、『そのカップルは一生添い遂げる事が出来る!』って言われてるんですよ」
さて、彼は何と応じるだろう? まぁ、答えは分かりきっているけれども。
『それ本当かい?』
耳元で日比谷の声が響く。彼は相変わらずあたしの右肩にちょこんと乗っている。
『本当だよ。占いしていると結構聞かれるんだよ。この湖のジンクスは本当か、とかね』
と小声でこたえた。粋蓮は、というと……
「そうなのですね! かくも人間とは面白い思考をするものですねぇ」
等と頷きながら感心している。さぁ、どう出る?
「では私も、人間見習いの一環として人間の考え方に合わせるとしましょう。では、乗らずにそろそろ帰りましょうか」
やっぱりね。実にあっさりとした反応だった。あたしと一生添い遂げたら拙いもの。そりゃそうだ。
だけど、ちょっぴりがっかりしたのは秘密だ。
『愚かな、そんなのは事実無根ですよ』
そう反応してくれる事を心のどこかで期待していた自分もいた。
「あぁそうそう、一緒に住むと言いましても寝室は完全別ですし。夫婦の夜のお務めなど一切必要ありませんからご安心くださいね」
と至極当たり前のように言い切った。はいはい、分かってますって。
「……ほら、スイッチ。スイッチってば!」
日比谷の声に追憶から返る。彼はあたしの事を妃翠の翠をもじって翠っち、転じてスイッチと呼ぶようになった。
「ボケっとすんな。食器洗い終わったぞ。洗濯も終わったみたいだ。サッサと干して仕事仕事!」
こうして一日が始まっていくのだ。
……ど、どうせい、ドウセイ。動性、銅製、動静、同姓、いやいや、同棲。どうせい? どうしろ? どないせいっちゅーねん……
思考停止の後けたたましく脳内を吹き荒れるドウセイの文字の円舞。目まぐるしく移り変わる思考に、自分で自分に突っ込みを入れるという最早意味不明の自己完結ぶりだ。
「あぁ、ボートがあるのですね。何名かの方がボートで湖を行き来なさっていますね。妃翠、あなたも乗ってみますか?」
そんな私の心の内を知ってか知らずか、囁くようにして粋蓮が尋ねて来た。さらりと名前を呼び捨てにする。結局、彼が照れたのは最初の一度だけだった。あたしは実際の呼ぶとなると未だに照れとの闘いだ。分かっている、ただ単に過剰なまでの自意識のせいなのは。だが何故かは分からないけれど、ほんの少し気持ちがざわついた。
今にして思えば、少しだけ……彼の反応が見てみたかったのだと思う。
「ボートね。ほら、カップルばかりじゃないですか。よくあるジンクスなんですけどね。ここの人工湖でカップルでボートに乗ると、『そのカップルは一生添い遂げる事が出来る!』って言われてるんですよ」
さて、彼は何と応じるだろう? まぁ、答えは分かりきっているけれども。
『それ本当かい?』
耳元で日比谷の声が響く。彼は相変わらずあたしの右肩にちょこんと乗っている。
『本当だよ。占いしていると結構聞かれるんだよ。この湖のジンクスは本当か、とかね』
と小声でこたえた。粋蓮は、というと……
「そうなのですね! かくも人間とは面白い思考をするものですねぇ」
等と頷きながら感心している。さぁ、どう出る?
「では私も、人間見習いの一環として人間の考え方に合わせるとしましょう。では、乗らずにそろそろ帰りましょうか」
やっぱりね。実にあっさりとした反応だった。あたしと一生添い遂げたら拙いもの。そりゃそうだ。
だけど、ちょっぴりがっかりしたのは秘密だ。
『愚かな、そんなのは事実無根ですよ』
そう反応してくれる事を心のどこかで期待していた自分もいた。
「あぁそうそう、一緒に住むと言いましても寝室は完全別ですし。夫婦の夜のお務めなど一切必要ありませんからご安心くださいね」
と至極当たり前のように言い切った。はいはい、分かってますって。
「……ほら、スイッチ。スイッチってば!」
日比谷の声に追憶から返る。彼はあたしの事を妃翠の翠をもじって翠っち、転じてスイッチと呼ぶようになった。
「ボケっとすんな。食器洗い終わったぞ。洗濯も終わったみたいだ。サッサと干して仕事仕事!」
こうして一日が始まっていくのだ。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
【完結】大量焼死体遺棄事件まとめサイト/裏サイド
まみ夜
ホラー
ここは、2008年2月09日朝に報道された、全国十ケ所総数六十体以上の「大量焼死体遺棄事件」のまとめサイトです。
事件の上澄みでしかない、ニュース報道とネット情報が序章であり終章。
一年以上も前に、偶然「写本」のネット検索から、オカルトな事件に巻き込まれた女性のブログ。
その家族が、彼女を探すことで、日常を踏み越える恐怖を、誰かに相談したかったブログまでが第一章。
そして、事件の、悪意の裏側が第二章です。
ホラーもミステリーと同じで、ラストがないと評価しづらいため、短編集でない長編はweb掲載には向かないジャンルです。
そのため、第一章にて、表向きのラストを用意しました。
第二章では、その裏側が明らかになり、予想を裏切れれば、とも思いますので、お付き合いください。
表紙イラストは、lllust ACより、乾大和様の「お嬢さん」を使用させていただいております。

美しいものを好むはずのあやかしが選んだのは、私を殺そうとした片割れでした。でも、そのおかげで運命の人の花嫁になれました
珠宮さくら
キャラ文芸
天神林美桜の世界は、あやかしと人間が暮らしていた。人間として生まれた美桜は、しきたりの厳しい家で育ったが、どこの家も娘に生まれた者に特に厳しくすることまではしらなかった。
その言いつけを美桜は守り続けたが、片割れの妹は破り続けてばかりいた。
美しいものを好むあやかしの花嫁となれば、血に連なる一族が幸せになれることを約束される。
だけど、そんなことより妹はしきたりのせいで、似合わないもしないものしか着られないことに不満を募らせ、同じ顔の姉がいるせいだと思い込んだことで、とんでもない事が起こってしまう。
百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話
釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。
文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。
そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。
工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。
むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。
“特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。
工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。
兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。
工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。
スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。
ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。
はじまりの朝
さくら乃
BL
子どもの頃は仲が良かった幼なじみ。
ある出来事をきっかけに離れてしまう。
中学は別の学校へ、そして、高校で再会するが、あの頃の彼とはいろいろ違いすぎて……。
これから始まる恋物語の、それは、“はじまりの朝”。
✳『番外編〜はじまりの裏側で』
『はじまりの朝』はナナ目線。しかし、その裏側では他キャラもいろいろ思っているはず。そんな彼ら目線のエピソード。

その捕虜は牢屋から離れたくない
さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。
というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
視える宮廷女官 ―霊能力で後宮の事件を解決します!―
島崎 紗都子
キャラ文芸
父の手伝いで薬を売るかたわら 生まれ持った霊能力で占いをしながら日々の生活費を稼ぐ蓮花。ある日 突然襲ってきた賊に両親を殺され 自分も命を狙われそうになったところを 景安国の将軍 一颯に助けられ成り行きで後宮の女官に! 持ち前の明るさと霊能力で 後宮の事件を解決していくうちに 蓮花は母の秘密を知ることに――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる