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第五話
(仮初)夫婦のコミュニケーションだとかエトセトラ……【二】
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「……いやだから悪かったって」
ポン、という狸の腹づつみを思わせる音と共に煙に包まれ、その煙が消えると同時に真の姿、ネザーランドドワーフに戻った日比谷が後ろ足二本で立ったままペコリと頭を下げた。
「もう、いきなり脱ぎ出すからびっくりしました!」
「そうだぞ、昴。露出狂と言ってな、お縄を頂戴する事になったら我々と汚点にもなるのだ。元、神の属する者が、いくら人間見習いの一環だとしても犯罪は洒落にもならん!」
「面目ねぇ……。いやほら、一肌脱ぐっていう言葉はその通りを示すのかと思ってな。ろくに調べもしないでやっちまった」
「気をつけるが良い、妃翠は初心で純粋なのだから特にな」
「へーい」
先程、『一肌脱ぐ』と言いながら本当にポロシャツを脱ぎ始めた騒動の事を言い合っていた。尤もあたしの場合は……確かにいきなり脱ぎ出す日比谷に仰天したのもあるけれど、もっと度肝を抜かれたのは……粋蓮に抱き寄せられた事だったのは秘密だ。勿論、彼はただ日比谷の肌をあたしに見せないように配慮してくれただけなのはよく分かっている。自意識過剰だという事も。ただ、少しだけ。ほんの少しだけ鼓動が忙しくなった、それだけの事なのだ。
けれども、初めての体験だった。ちょっとだけ、貴重だと思う。時めきとはこのような感じを言うのかもしれない。この二体だったら、あたしの本音など見透してしまうのだろうけれど、『必要な時意外は見ない』と言っていた彼らの良心を信じたい。
「まぁ良い。それで、何を思い付いたのだ?」
粋蓮の言葉に、そうだったと日比谷に注目する。ふわふわと柔らかそうな毛並が、窓から差し込む光を受けて黄金色に輝いて見える。
「あぁそうそう。デートの事なんだけどな、粋蓮様もこの子も初体験という事で、だ。俺がついていってやろう! て話さ」
「三人でか?」
意外な事に、快諾すると思われた粋蓮は難色を示した。どういう事だろう?
「それだと、見方によっては妃翠が異性を天秤にかけているように見えないだろうか? しかも、私たちは指輪をしている。……となれば、昴よ! そなたが間男と見られてしまうのではないか?」
「は?」
「え?」
日比谷とあたしが同時に素っ頓狂な声をあげた。対して粋蓮は酷く考え込んでいる様子だ。眉尻を下げる姿も、妙に艶めかしい。
「それ、大真面目に言ってます?」
日比谷の問いかけに、あたしも大きく頷く。
「勿論だ」
「それ、どこからの発想で?」
今回は日比谷に同意だ、成り行きを見守ろう。
「そうだな、妃翠たちの言葉によれば、昭和の昼ドラとか、恋愛小説、恋愛漫画の類であるな」
至って大真面目に応じた粋蓮に、顔を見合わせる日比谷とあたし。うん、多分あたしと日比谷が感じた事は同じだと思う。だから、そのまま彼に任せよう。
「……あのな、えーとあのですね、粋蓮様。そういうのは……いや、いい。後でじっくり話すとして。せっかくの時間が勿体ない。話しを元に戻すぞ。初デートに、二人の間が緊張し過ぎないように、俺がこの真の姿のままついていく、という提案だ。そうすれば、周りから見ても兎連れのカップルに思われるし、それが切っ掛けで話しかけて来てクライアントに結びつく場合もあるかもしれん。最初から気合いの入ったデートコースにするよりは、ここから近い森林公園でデート、なんてのはどうだ?」
粋蓮が目を輝かせた。益々宝石みたいだ。クライアント云々は、商魂逞しいなと思ったが別に悪い事ではない。それに、兎連れで公園デートは気軽な感じでとても良さそうに思えた。
ポン、という狸の腹づつみを思わせる音と共に煙に包まれ、その煙が消えると同時に真の姿、ネザーランドドワーフに戻った日比谷が後ろ足二本で立ったままペコリと頭を下げた。
「もう、いきなり脱ぎ出すからびっくりしました!」
「そうだぞ、昴。露出狂と言ってな、お縄を頂戴する事になったら我々と汚点にもなるのだ。元、神の属する者が、いくら人間見習いの一環だとしても犯罪は洒落にもならん!」
「面目ねぇ……。いやほら、一肌脱ぐっていう言葉はその通りを示すのかと思ってな。ろくに調べもしないでやっちまった」
「気をつけるが良い、妃翠は初心で純粋なのだから特にな」
「へーい」
先程、『一肌脱ぐ』と言いながら本当にポロシャツを脱ぎ始めた騒動の事を言い合っていた。尤もあたしの場合は……確かにいきなり脱ぎ出す日比谷に仰天したのもあるけれど、もっと度肝を抜かれたのは……粋蓮に抱き寄せられた事だったのは秘密だ。勿論、彼はただ日比谷の肌をあたしに見せないように配慮してくれただけなのはよく分かっている。自意識過剰だという事も。ただ、少しだけ。ほんの少しだけ鼓動が忙しくなった、それだけの事なのだ。
けれども、初めての体験だった。ちょっとだけ、貴重だと思う。時めきとはこのような感じを言うのかもしれない。この二体だったら、あたしの本音など見透してしまうのだろうけれど、『必要な時意外は見ない』と言っていた彼らの良心を信じたい。
「まぁ良い。それで、何を思い付いたのだ?」
粋蓮の言葉に、そうだったと日比谷に注目する。ふわふわと柔らかそうな毛並が、窓から差し込む光を受けて黄金色に輝いて見える。
「あぁそうそう。デートの事なんだけどな、粋蓮様もこの子も初体験という事で、だ。俺がついていってやろう! て話さ」
「三人でか?」
意外な事に、快諾すると思われた粋蓮は難色を示した。どういう事だろう?
「それだと、見方によっては妃翠が異性を天秤にかけているように見えないだろうか? しかも、私たちは指輪をしている。……となれば、昴よ! そなたが間男と見られてしまうのではないか?」
「は?」
「え?」
日比谷とあたしが同時に素っ頓狂な声をあげた。対して粋蓮は酷く考え込んでいる様子だ。眉尻を下げる姿も、妙に艶めかしい。
「それ、大真面目に言ってます?」
日比谷の問いかけに、あたしも大きく頷く。
「勿論だ」
「それ、どこからの発想で?」
今回は日比谷に同意だ、成り行きを見守ろう。
「そうだな、妃翠たちの言葉によれば、昭和の昼ドラとか、恋愛小説、恋愛漫画の類であるな」
至って大真面目に応じた粋蓮に、顔を見合わせる日比谷とあたし。うん、多分あたしと日比谷が感じた事は同じだと思う。だから、そのまま彼に任せよう。
「……あのな、えーとあのですね、粋蓮様。そういうのは……いや、いい。後でじっくり話すとして。せっかくの時間が勿体ない。話しを元に戻すぞ。初デートに、二人の間が緊張し過ぎないように、俺がこの真の姿のままついていく、という提案だ。そうすれば、周りから見ても兎連れのカップルに思われるし、それが切っ掛けで話しかけて来てクライアントに結びつく場合もあるかもしれん。最初から気合いの入ったデートコースにするよりは、ここから近い森林公園でデート、なんてのはどうだ?」
粋蓮が目を輝かせた。益々宝石みたいだ。クライアント云々は、商魂逞しいなと思ったが別に悪い事ではない。それに、兎連れで公園デートは気軽な感じでとても良さそうに思えた。
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