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第四話
狛……兎???【三】
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「あら! 可愛らしい兎ちゃん!」
思わずニコニコしてしまう。目の前を横切った薄茶色の小さな塊は、テーブルの上にちょこんと箱座りをしてる小さな兎だった。柔らかそうな薄茶色の毛にふわふわと全身が覆われ、大きなまん丸い目は艶々した漆黒だ。不思議そうに小首を傾げ、モグモグと口を動かす姿が何とも可愛らしい。耳がピョンと立っているところから……
「ネザーランドドワーフかな? どこから入って来たのかしら……」
「窓から入り込んで来たのでしょう。いつもの事です」
半ば呆れたように、彼は笑った。
「いつもの事なのですか?」
「ええ……まぁ。兎はお好きですか?」
彼は何故か曖昧に答える。何だろう? 困ったようにほんの少しだけ視線を彷徨わせた。聞かれたくない事なのかな? それなら無理に聞かないけれど。この人、元々得体の知れないところが沢山あるし。第一自分の事をツクヨミノミコトだとか、降り立って人間見習いとかね。まぁ、何かの暗喩なのだろうけれど。
「はい。モルモットも兎も、犬も猫も好きです」
実家では黒の柴犬と、アメリカンショートヘアを飼っている。二匹とも、家や家人に忍び寄る動物霊避けとしての役目を担っており、あたしなどよりも余程優秀だ。その為か、彼らには格下に見られてしまい残念ながら懐かれる事はなかったのだが。
「そうですか。それなら良かった。……さて、いつまで兎のままでいるおつもりですか?」
彼はそう言って、溜息混じりに兎を見つめた。ん? 兎に話しかけている? 兎は彼を振り返り、ペッと舌を出し……た? そして再びあたしに向き合うと、おもむろに口を開いた。
……え?
「そう、よく分かったな。俺はネザーランドドワーフ」
う、兎がしゃべった???
「昨今、ペットとして非常に人気の高い種類らしいな。人間どもの説明によると、ネザーランドドワーフは、色々なカラーた模様があって、大人になっても1kgほど、体長はおよそ26cmと小さいのも魅力らしいな」
兎は小首を傾げ、ニヤリと笑った。嘘だ……夢? 愛らしい見た目とは真逆の、チェロのように低めで奥深い声質。流れるように熱く語っている。
「ネザーランドドワーフの性格は『両極端』で、神経質なタイプと人懐こいタイプに分かれるとか。原産国はオランダ、値段はピンキリで15000円ほどから血統書の有無で異なる……ざっと、こんな感じか」
言い終ると、ひょっと後ろ足二本で立ち上がり、得意そうにあたしを見る。
分かった! 唐突に閃いた。最新型のアンドロイドだなのだ!! 兎型の。そうに違いない。きっと、お腹か首の何処かに電源があるのだ。
「可愛いです。本当によく出来ていますね」
「うん、まぁな。よく言われる」
兎は仁王立ちのまま、右前足で得意そうに鼻をこすった。お腹をざっと見た限りでは、スイッチのある場所は見当たらない。最近のものは本当にリアルに出来ているのね。感心してしまうなぁ。
クスリと粋蓮は笑うと、再び兎に話しかけた。
「そろそろ自己紹介をしては?」
「おう! そうだな。俺の名前は日比谷昴《ひびやすばる》。そこにいるツクヨミ様に仕える者だ。宜しくな」
凄いなぁ、会話が普通に成立してしまうなんて。
「観音堂妃翠と申します。宜しく御願いします、日比谷昴さん」
あたしは頭を下げた。
「宜しくな。だけど人前では紫柳妃翠だろ? 最初が肝心だし、普段の癖は無意識に出やすいからな。日常から慣れといた方が良いだろう」
そんな情報までインプットされているのね。本感情豊かな表情も出来て。素晴らしい! 最新型のアンドロイド。何て優秀なのだろう。
「へぇ! 凄いですね! 最新のアンドロイドって」
無意識に感嘆を示していた。
「はっ?」
怪訝そうに問う兎…いや、日比谷昴。本当に意思があるみたい。
「フフフ……ハハハハ……」
粋蓮が堪え切れないと言うように笑い出した。何だろう? あたし、何かやらかしたのかしら?
「失礼な!!!」
眉間に皺を寄せ、兎が抗議の声を上げた。物凄く不機嫌そうだ。……ん? 何だなんだ?
「アンドロイドな訳あるか!!! 俺はツクヨミ様に仕える者、月の使者であるぞ! 訳あって人間見習いに降り立ったツクヨミ様に付き添い、地上での役割は『司法書士』。今から一週間ほど、お前に占いの実践練習に付き合ってやるというのだ! あまりにも頭が高いであろう!」
一気にまくしたてる兎に、思考がついて行かず呆気に取られていた。
思わずニコニコしてしまう。目の前を横切った薄茶色の小さな塊は、テーブルの上にちょこんと箱座りをしてる小さな兎だった。柔らかそうな薄茶色の毛にふわふわと全身が覆われ、大きなまん丸い目は艶々した漆黒だ。不思議そうに小首を傾げ、モグモグと口を動かす姿が何とも可愛らしい。耳がピョンと立っているところから……
「ネザーランドドワーフかな? どこから入って来たのかしら……」
「窓から入り込んで来たのでしょう。いつもの事です」
半ば呆れたように、彼は笑った。
「いつもの事なのですか?」
「ええ……まぁ。兎はお好きですか?」
彼は何故か曖昧に答える。何だろう? 困ったようにほんの少しだけ視線を彷徨わせた。聞かれたくない事なのかな? それなら無理に聞かないけれど。この人、元々得体の知れないところが沢山あるし。第一自分の事をツクヨミノミコトだとか、降り立って人間見習いとかね。まぁ、何かの暗喩なのだろうけれど。
「はい。モルモットも兎も、犬も猫も好きです」
実家では黒の柴犬と、アメリカンショートヘアを飼っている。二匹とも、家や家人に忍び寄る動物霊避けとしての役目を担っており、あたしなどよりも余程優秀だ。その為か、彼らには格下に見られてしまい残念ながら懐かれる事はなかったのだが。
「そうですか。それなら良かった。……さて、いつまで兎のままでいるおつもりですか?」
彼はそう言って、溜息混じりに兎を見つめた。ん? 兎に話しかけている? 兎は彼を振り返り、ペッと舌を出し……た? そして再びあたしに向き合うと、おもむろに口を開いた。
……え?
「そう、よく分かったな。俺はネザーランドドワーフ」
う、兎がしゃべった???
「昨今、ペットとして非常に人気の高い種類らしいな。人間どもの説明によると、ネザーランドドワーフは、色々なカラーた模様があって、大人になっても1kgほど、体長はおよそ26cmと小さいのも魅力らしいな」
兎は小首を傾げ、ニヤリと笑った。嘘だ……夢? 愛らしい見た目とは真逆の、チェロのように低めで奥深い声質。流れるように熱く語っている。
「ネザーランドドワーフの性格は『両極端』で、神経質なタイプと人懐こいタイプに分かれるとか。原産国はオランダ、値段はピンキリで15000円ほどから血統書の有無で異なる……ざっと、こんな感じか」
言い終ると、ひょっと後ろ足二本で立ち上がり、得意そうにあたしを見る。
分かった! 唐突に閃いた。最新型のアンドロイドだなのだ!! 兎型の。そうに違いない。きっと、お腹か首の何処かに電源があるのだ。
「可愛いです。本当によく出来ていますね」
「うん、まぁな。よく言われる」
兎は仁王立ちのまま、右前足で得意そうに鼻をこすった。お腹をざっと見た限りでは、スイッチのある場所は見当たらない。最近のものは本当にリアルに出来ているのね。感心してしまうなぁ。
クスリと粋蓮は笑うと、再び兎に話しかけた。
「そろそろ自己紹介をしては?」
「おう! そうだな。俺の名前は日比谷昴《ひびやすばる》。そこにいるツクヨミ様に仕える者だ。宜しくな」
凄いなぁ、会話が普通に成立してしまうなんて。
「観音堂妃翠と申します。宜しく御願いします、日比谷昴さん」
あたしは頭を下げた。
「宜しくな。だけど人前では紫柳妃翠だろ? 最初が肝心だし、普段の癖は無意識に出やすいからな。日常から慣れといた方が良いだろう」
そんな情報までインプットされているのね。本感情豊かな表情も出来て。素晴らしい! 最新型のアンドロイド。何て優秀なのだろう。
「へぇ! 凄いですね! 最新のアンドロイドって」
無意識に感嘆を示していた。
「はっ?」
怪訝そうに問う兎…いや、日比谷昴。本当に意思があるみたい。
「フフフ……ハハハハ……」
粋蓮が堪え切れないと言うように笑い出した。何だろう? あたし、何かやらかしたのかしら?
「失礼な!!!」
眉間に皺を寄せ、兎が抗議の声を上げた。物凄く不機嫌そうだ。……ん? 何だなんだ?
「アンドロイドな訳あるか!!! 俺はツクヨミ様に仕える者、月の使者であるぞ! 訳あって人間見習いに降り立ったツクヨミ様に付き添い、地上での役割は『司法書士』。今から一週間ほど、お前に占いの実践練習に付き合ってやるというのだ! あまりにも頭が高いであろう!」
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