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第四話
狛……兎???【一】
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「……で、あんた相当怖がりだろう?」
コントラバスを思わせる深みと艶のある声の持ち主……その男はニタリと笑った。全くもって面白くない。努めて気にしないようにしつつタロットカードを裏返しにしたままシャッフルする。一つにまとめて右手に持ち、今度はトランプを切るようにしてカードを切る。その後右手に持って束のままテーブルの上に置くと、左手で三つの束に分け、適当な順番で一つの束にした。
「ほら、愛想愛想!」
男に促され、初めて眉間に皺がよっていたかもしれないと気付く。サッと右手で額を拭うようにして、左手でタロットの束を取った。そして斜め左に腰かけている男に笑顔を向ける。営業スマイルだが、ちっとも上手く出来た気がしない。
ふふん、と男は鼻で笑った。途端にムッと来る。が、ここは平常心だ、落ち着け。軽く深呼吸をして、左手に持ったタロットの束を右手で上から一枚ずつ引いていく。一枚、二枚、三枚……
「……枚、二枚、三枚……」
あたしがタロットを下に置く度にカウントする男。ニヤニヤと意地の悪そうな笑みを浮かべている。こいつめ、絶対にワザとだ! けれどもここでイラついたら負けだ。五枚、そして六枚目のカードを表に返して手元に置いた。
「なぁ、一枚、二枚……と女の幽霊が夜な夜な……」
「番長皿屋敷ですね」
ぴしりと遮る。
「へぇ? そういう怪談話は平気なんだ?」
「あれには理不尽な出来事による悲しみと怨嗟のお話なので、生きている人間が面白おかしく語るものではないと思います」
「……じゃぁ、四……」
「四谷怪談は論外です、あれは元は良妻賢母な女性だったのに彼女が預かり知らぬところで商売が絡んで、あのようなお話になったのですから」
「ふーん、あっそ」
つまらなそうに溜息を吐き出す男を適当にあしらいながら、七枚目のカードを表にして六枚目のカードの右隣に並べる。続いて八枚目を表に返し、七枚目の隣に並べた。合計三枚があたしの目の前に並んでいる事になる。
「……さぁて、どうよ? ツクヨミ様……じゃなくて紫柳《しりゅう》様が、人間見習いの師匠にあんたを選んだ理由は?」
男は小馬鹿にしたように斜めに構えてあたしを見た。この男は、自称ツクヨミノミコトこと紫柳粋蓮が言っていた、お抱え司法書士である。名前は日比谷昴《ひびやすばる》というらしい。この男も、驚くべきほど端正な顔立ちをしていた。
ふわふわと波打つ金茶色の髪は惜しげもなく長めのショートカットにされ、オリーブ色の肌は艶やかで健康的だ。身長は粋蓮より少しだけ高めだろうか。粋蓮がバレエダンサーのように細身の筋肉質だとしたら、この彼は水泳選手のような感じだろうか。空色のポロシャツと黒のデニム、オレンジのスニーカーといういでたちがよく似合っている。男らしくキリリとした茶色の眉、プライドの高さをそのまま示しそうな鼻、知的に引き締まった唇。金茶色の長い睫毛に囲まれた瞳は、ハッキリとした二重瞼に目尻がキュッと上がっている。その色はネオンブルー。宝石で言うところの『パライバトルマリン』だ。そう、あの南国の透き通った海の色。
……それにしても、本当によく化けたもんだなぁ……
つくづく感心する。話は、三日ほど前に遡る。
コントラバスを思わせる深みと艶のある声の持ち主……その男はニタリと笑った。全くもって面白くない。努めて気にしないようにしつつタロットカードを裏返しにしたままシャッフルする。一つにまとめて右手に持ち、今度はトランプを切るようにしてカードを切る。その後右手に持って束のままテーブルの上に置くと、左手で三つの束に分け、適当な順番で一つの束にした。
「ほら、愛想愛想!」
男に促され、初めて眉間に皺がよっていたかもしれないと気付く。サッと右手で額を拭うようにして、左手でタロットの束を取った。そして斜め左に腰かけている男に笑顔を向ける。営業スマイルだが、ちっとも上手く出来た気がしない。
ふふん、と男は鼻で笑った。途端にムッと来る。が、ここは平常心だ、落ち着け。軽く深呼吸をして、左手に持ったタロットの束を右手で上から一枚ずつ引いていく。一枚、二枚、三枚……
「……枚、二枚、三枚……」
あたしがタロットを下に置く度にカウントする男。ニヤニヤと意地の悪そうな笑みを浮かべている。こいつめ、絶対にワザとだ! けれどもここでイラついたら負けだ。五枚、そして六枚目のカードを表に返して手元に置いた。
「なぁ、一枚、二枚……と女の幽霊が夜な夜な……」
「番長皿屋敷ですね」
ぴしりと遮る。
「へぇ? そういう怪談話は平気なんだ?」
「あれには理不尽な出来事による悲しみと怨嗟のお話なので、生きている人間が面白おかしく語るものではないと思います」
「……じゃぁ、四……」
「四谷怪談は論外です、あれは元は良妻賢母な女性だったのに彼女が預かり知らぬところで商売が絡んで、あのようなお話になったのですから」
「ふーん、あっそ」
つまらなそうに溜息を吐き出す男を適当にあしらいながら、七枚目のカードを表にして六枚目のカードの右隣に並べる。続いて八枚目を表に返し、七枚目の隣に並べた。合計三枚があたしの目の前に並んでいる事になる。
「……さぁて、どうよ? ツクヨミ様……じゃなくて紫柳《しりゅう》様が、人間見習いの師匠にあんたを選んだ理由は?」
男は小馬鹿にしたように斜めに構えてあたしを見た。この男は、自称ツクヨミノミコトこと紫柳粋蓮が言っていた、お抱え司法書士である。名前は日比谷昴《ひびやすばる》というらしい。この男も、驚くべきほど端正な顔立ちをしていた。
ふわふわと波打つ金茶色の髪は惜しげもなく長めのショートカットにされ、オリーブ色の肌は艶やかで健康的だ。身長は粋蓮より少しだけ高めだろうか。粋蓮がバレエダンサーのように細身の筋肉質だとしたら、この彼は水泳選手のような感じだろうか。空色のポロシャツと黒のデニム、オレンジのスニーカーといういでたちがよく似合っている。男らしくキリリとした茶色の眉、プライドの高さをそのまま示しそうな鼻、知的に引き締まった唇。金茶色の長い睫毛に囲まれた瞳は、ハッキリとした二重瞼に目尻がキュッと上がっている。その色はネオンブルー。宝石で言うところの『パライバトルマリン』だ。そう、あの南国の透き通った海の色。
……それにしても、本当によく化けたもんだなぁ……
つくづく感心する。話は、三日ほど前に遡る。
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