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第一話
観音堂家の人々【二】
しおりを挟む吉祥寺駅から徒歩八分程のところに、それはあった。繁華街を抜けて住宅街が立ち並ぶ木製の白い壁に瑠璃色の屋根、鳶色のドア。三階建てのその壁にはセンス良く蔦が絡まり、一見すると隠れ家的なレストランのような雰囲気だ。竹で編まれた塀に囲まれ、およそ十坪程の庭を経て玄関へと続く。チョコレート色のドアの前に、木製のボードが置かれている。百センチ程のそれは、横から見るとちょうどアルファベッドのAの形で、木の素材をそのまま活かした素朴で温かみのある印象だ。
庭は、英国式庭園に倣っており、蔓薔薇やダリア、水仙など四季折々の花木が楽しめるようになっている。
玄関先の看板には『卜処観音堂《うらないどころかんのんどう》』と、大きく筆記体の黒字で描かれている。実はここは、代々続く老舗の占い館なのだ。観音堂という名の通りあたしの実家…つまり、生家である。
観音堂家は代々、『占い』を生業にしてきた一族だ。つまり、生まて来た子供は男であれ女であれ霊感・霊視・透視に優れた能力が備わっているという。人によっては、霊感・霊視。透視のこの三大能力(?……と一族では呼んでいる)の他に『霊聴』やら『自動書記』やら『予知夢』やら『ヒーリング』……などがプラスされる事もあるらしい。それらの力は、生まれてすぐにその片鱗を見せる者、成長と共に少しずつ頭角を現すもの、ある年齢を境に突如として目覚める者……と様々なようだ。
結婚相手は、親が決めた人と……曽祖父より前の代まではそうだったらしいが、それ以降はわりと自由恋愛を尊重している。ただし御相手が観音堂家と聞いても怯まない、観音堂家に嫁に来る、または婿養子。これが条件ではあるのが。ただ、この家の長男、または長女のみに課せられた運命であり、次男、次女以降は特に何の制約もない。
他人事のように語るのは、あたしにはそれらの能力は一切授からなかったからだ。幸いな事に、私は次女として生まれた為にさほど重圧はかからず、比較的自由に生きる事を許されてきた。
……まぁ、裏を返せば誰もあたしには期待しなくなった、と同義語となるのだけれど。そんな訳で、家を引き継ぎのは姉の瑠璃だ。容姿、頭脳、身体能力、霊能力と全てに飛びぬけている姉は、一族の自慢の宝となっている。
あたしはと言えば……。努力しても頑張っても、授からなかった能力は仕方ない。理数系が苦手だった為、中堅ところと評される私立大学の文系まで行かせて貰った。非常に有り難いと思う。
ただ、占い自体は大好きだった。だから、幼い頃から興味のあったタロットカードは自在に操れるようになりたくて努力を積み重ねた。言わば「霊感を使わない統計学におけるタロットカード使い」と言ったところか。
それから数種類の占いを学んだ。とうとう、霊能力とやらは授からなかったけれど将来は占いを生業にしたくて。他の占い会社の電話占い師やら対面占いやらの門戸を叩いてみた。
業界的に、会社員のように月給制、福利厚生は厳しい。大抵は歩合制となる実力勝負の世界だ。採用方法は殆どが実践さながらの占いオーディションとなる。結果、自宅にいるまま出来る電話占いの会社に金、土、日の21時から24時。中野にある対面の占い会社に水、木、金、土の11時から20時まで待機として仮採用となった。
念願叶って占いの仕事が出来る! そう喜んだものの、それは束の間だった。
……どうやら私には、霊能力は疎か社交術も備わっていなかったらしい。『占いの鑑定結果』云々よりも、クライアントのへの伝え方が宜しくないようで、電話占いも対面も……三カ月の試用期間を待たずにクビとなった。
そんなあたしに、突如として同業者でかつ最近人気がうなぎ登りらしい麗人が訪ねて来るのだから、夢ではないか? 何かの間違いではないか? 家族だけではなく本人も仰天のあまり事態を呑みこめないのは仕方無い事ではなかろうか。
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