『異聞・閻魔様の副官』~水琴窟と天然石の館へようこそ!~

大和撫子

文字の大きさ
20 / 21
第十四話

相手の気持ちが知りたくなる時・前編

しおりを挟む
 ここが、水琴窟の場所……。

 あたしは今、昼の休憩中だ。昼休憩は一人90分、夕方に15分あるそうだ。用意してもらったお昼は、手軽に素早く栄養補給が出来るものをと、大きなお結びが二個と、野菜スムージーだった。一人ずつ取る休憩は、ドラックストアも同じだったから苦にならない。むしろ、皆で休憩の方が苦手かもしれない。一度、とあるデパートに入っているドラックストアでアルバイトをした時あった。その時の休憩は、デパートの従業員用の休憩室を使うのだけれど。そこでの女子グループはどのテナントの人たちもその場に居ない人の悪口で盛りあがっていた。うんざりしたものだ。

「裏庭にこんな素敵な場所があったなんてびっくりしました」
「お客たちは録音を流していると思ってるみたいだし、聞かれてもそう答えているみたいね。さ、食べましょ」

 そう言って、清少納言さんは持参したサンドイッチを食べ始めた。

「はい、頂きます!」

 館での初めての休憩で心細いだろうからと、今日だけ特別に清少納言さんがわざわざ訪ねて来てくださったのだ。もし録音ではなくて本当に水琴窟があるあら場所を知りたい、と伝えたらここ、裏庭に連れて来てくれたのだ。

 館の裏口を出ると、そこはまさに小さな森林公園のようだった。広さは二十畳ほどだろうか。垣根の代わりに、裏庭の外枠を綺麗に剪定さてた椿の木で完全に囲ってある。脚立がないと外からも見えない。水琴窟は、裏口を出てすぐの、小さな池の近くにあった。石で作られた水琴窟は、柔らかな苔で覆われていてとても風情がある。しかも庭は池の周り以外、大地も苔で覆われているから、まるで深緑色のベロアの絨毯が敷かれているみたいだ。周りには白百合や木槿むくげなどの白い花や元気な向日葵が数本、薄紅色の百日紅さるすべりや鮮やかなオレンジのノウセンカズラなどが咲き誇っている。他にも花木と思われるものや植物がひしめき合っている。その癖どこかセンス良く植えられている。きっと、四季折々の花々が楽しめるようになっているのだろう。

 この裏庭も特別な魔法みたいなのがかけられているのだろうな。

 お結びを一口頬張る。随分大きいと思ったら、具材は出汁巻き卵に鳥の唐揚げ、ほうれん草の胡麻あえがぎっしりと入っていた。上手に握られていてしっかり両手で握って食べれば零れ落ちる事もなさそうだ。

「美味しい……」

 自然に言葉が漏れる。

「それね、紫さんの案なの。片手で食べられて美味しくて手軽に栄養が取れてお腹いっぱいになるもの、て。お握りと野菜スムージーが良い、てね」
「へぇ?」
「ほら、あの人作家でもあるから」
「え? そうなんですか?」
「あら、聞いてなかった? じゃぁ本人からその内聞くでしょうけど。あの人、結構売れっ子のBL作家なのよね。作家の実体が謎に包まれてるって言って、その神秘性も一役かっているというか」
「BL作家?」
「うん、まぁそうね。そう言えば、初作成のペンダントが売れたらしいじゃない?」
 
 うーん、上手く話しをかわしてきたな。これ以上は本人から聞け、て事か。まぁいいや、物凄く気になるけど空気読んでおこう。

「あ、はい。たまたまご縁があったみたいで……」

 そう、あのお客様はポツリポツリと自分の状況を語り始めた。職場でのケアレスミスが立て続けにあって自信をなくしている事、周りはどんどん結婚して行き、付き合っている人も居ない自分は焦るけれども出会いもない事。特にずば抜けた取り柄もないからこの先不安な事。夏休みに衝動的に京へ行きたくなって、駅周辺を歩いている内に惹き込まれるようにして館に来た事……。気もちはとてもよく理解出来た。

 マルセイユ版とウェイト版のそれぞれ一枚引きで占ったところ、マルセイユ版は『隠者』ウェイト版は『節制・正位置』を示した。

 この場合の解釈は『今は一人でじっくりと内省すべき時。今までの自分とこれからの自分、周りと比較してしまいがちな時期でありスッキリしないけれど、後に自分だけのこたえを見つけていく為には必要な時期である事。「ぺタライト」は今のお客様にまさに必要な石で、浄化と癒し、心の解放、意識変革をサポートしてくれるのでピッピタリである事』と、そのまま鑑定結果を彼女に伝えた。

「……良かった。今は一人で色々考えて良い時期だったんですね。いずれ答えが見つかるんですね」

 と言って涙を流していた。持ち歩くよりも常に身に着けていたいから、と私が作成したペンダントを購入してくれたのだ。因みに、ぺタライトの原石は¥3800縁、円ではなくご縁の縁と表示するのが面白い。ペンダントは材料費と加工代が追加されて6980縁。共に税込みである。

「ホント凄いわ! 自信持って良いわよ」
「有難うございます」

 二個目のお結びを頬張る。十五穀米のお結びだった。中身はギッシリと焼き鮭が詰まっている。これも美味しい。野菜スムージーは所謂グリーンスムージーという奴で、野菜の自然の甘さが堪らなく飲みやすい。

「今度内に遊びにいらっしゃいよ。私の漫画見せてあげる」
「わぁ! 是非!」

 これは嬉しい。ふと、清少納言さんは真顔になった。どうしたのかな?

「……それはそうと、占いをしていくと必ず、相手の気持ちを見て欲しい、て人来るもんよねぇ?」

 としみじみと言った。あぁ……

「確かに、そうなんですよね」

 溜息混じりにこたえる。電話占いのアルバイトの件が脳裏をかすめた。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ママはヤンママ女子高生! ラン&ジュリー!!

オズ研究所《横須賀ストーリー紅白へ》
キャラ文芸
神崎ランの父親の再婚相手は幼馴染みで女子高生の高原ジュリーだった。 ジュリーは金髪美少女だが、地元では『ワイルドビーナス』の異名を取る有名なヤンキーだった。 学校ではジュリーは、ランを使いっ走りにしていた。 当然のようにアゴで使われたが、ジュリーは十八歳になったら結婚する事を告白した。 同級生のジュリーが結婚するなんて信じられない。 ランは密かにジュリーの事を憧れていたので、失恋した気分だ。 そう言えば、昨夜、ランの父親も再婚すると言っていた。 まさかとは思ったが、ランはジュリーに結婚相手を聞くと、ランの父親だと判明した。  その夜、改めて父親とジュリーのふたりは結婚すると報告された。 こうしてジュリーとの同居が決まった。

月弥総合病院

御月様(旧名 僕君☽☽‪︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

処理中です...