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第十四話
相手の気持ちが知りたくなる時・前編
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ここが、水琴窟の場所……。
あたしは今、昼の休憩中だ。昼休憩は一人90分、夕方に15分あるそうだ。用意してもらったお昼は、手軽に素早く栄養補給が出来るものをと、大きなお結びが二個と、野菜スムージーだった。一人ずつ取る休憩は、ドラックストアも同じだったから苦にならない。むしろ、皆で休憩の方が苦手かもしれない。一度、とあるデパートに入っているドラックストアでアルバイトをした時あった。その時の休憩は、デパートの従業員用の休憩室を使うのだけれど。そこでの女子グループはどのテナントの人たちもその場に居ない人の悪口で盛りあがっていた。うんざりしたものだ。
「裏庭にこんな素敵な場所があったなんてびっくりしました」
「お客たちは録音を流していると思ってるみたいだし、聞かれてもそう答えているみたいね。さ、食べましょ」
そう言って、清少納言さんは持参したサンドイッチを食べ始めた。
「はい、頂きます!」
館での初めての休憩で心細いだろうからと、今日だけ特別に清少納言さんがわざわざ訪ねて来てくださったのだ。もし録音ではなくて本当に水琴窟があるあら場所を知りたい、と伝えたらここ、裏庭に連れて来てくれたのだ。
館の裏口を出ると、そこはまさに小さな森林公園のようだった。広さは二十畳ほどだろうか。垣根の代わりに、裏庭の外枠を綺麗に剪定さてた椿の木で完全に囲ってある。脚立がないと外からも見えない。水琴窟は、裏口を出てすぐの、小さな池の近くにあった。石で作られた水琴窟は、柔らかな苔で覆われていてとても風情がある。しかも庭は池の周り以外、大地も苔で覆われているから、まるで深緑色のベロアの絨毯が敷かれているみたいだ。周りには白百合や木槿などの白い花や元気な向日葵が数本、薄紅色の百日紅や鮮やかなオレンジのノウセンカズラなどが咲き誇っている。他にも花木と思われるものや植物がひしめき合っている。その癖どこかセンス良く植えられている。きっと、四季折々の花々が楽しめるようになっているのだろう。
この裏庭も特別な魔法みたいなのがかけられているのだろうな。
お結びを一口頬張る。随分大きいと思ったら、具材は出汁巻き卵に鳥の唐揚げ、ほうれん草の胡麻あえがぎっしりと入っていた。上手に握られていてしっかり両手で握って食べれば零れ落ちる事もなさそうだ。
「美味しい……」
自然に言葉が漏れる。
「それね、紫さんの案なの。片手で食べられて美味しくて手軽に栄養が取れてお腹いっぱいになるもの、て。お握りと野菜スムージーが良い、てね」
「へぇ?」
「ほら、あの人作家でもあるから」
「え? そうなんですか?」
「あら、聞いてなかった? じゃぁ本人からその内聞くでしょうけど。あの人、結構売れっ子のBL作家なのよね。作家の実体が謎に包まれてるって言って、その神秘性も一役かっているというか」
「BL作家?」
「うん、まぁそうね。そう言えば、初作成のペンダントが売れたらしいじゃない?」
うーん、上手く話しをかわしてきたな。これ以上は本人から聞け、て事か。まぁいいや、物凄く気になるけど空気読んでおこう。
「あ、はい。たまたまご縁があったみたいで……」
そう、あのお客様はポツリポツリと自分の状況を語り始めた。職場でのケアレスミスが立て続けにあって自信をなくしている事、周りはどんどん結婚して行き、付き合っている人も居ない自分は焦るけれども出会いもない事。特にずば抜けた取り柄もないからこの先不安な事。夏休みに衝動的に京へ行きたくなって、駅周辺を歩いている内に惹き込まれるようにして館に来た事……。気もちはとてもよく理解出来た。
マルセイユ版とウェイト版のそれぞれ一枚引きで占ったところ、マルセイユ版は『隠者』ウェイト版は『節制・正位置』を示した。
この場合の解釈は『今は一人でじっくりと内省すべき時。今までの自分とこれからの自分、周りと比較してしまいがちな時期でありスッキリしないけれど、後に自分だけのこたえを見つけていく為には必要な時期である事。「ぺタライト」は今のお客様にまさに必要な石で、浄化と癒し、心の解放、意識変革をサポートしてくれるのでピッピタリである事』と、そのまま鑑定結果を彼女に伝えた。
「……良かった。今は一人で色々考えて良い時期だったんですね。いずれ答えが見つかるんですね」
と言って涙を流していた。持ち歩くよりも常に身に着けていたいから、と私が作成したペンダントを購入してくれたのだ。因みに、ぺタライトの原石は¥3800縁、円ではなくご縁の縁と表示するのが面白い。ペンダントは材料費と加工代が追加されて6980縁。共に税込みである。
「ホント凄いわ! 自信持って良いわよ」
「有難うございます」
二個目のお結びを頬張る。十五穀米のお結びだった。中身はギッシリと焼き鮭が詰まっている。これも美味しい。野菜スムージーは所謂グリーンスムージーという奴で、野菜の自然の甘さが堪らなく飲みやすい。
「今度内に遊びにいらっしゃいよ。私の漫画見せてあげる」
「わぁ! 是非!」
これは嬉しい。ふと、清少納言さんは真顔になった。どうしたのかな?
「……それはそうと、占いをしていくと必ず、相手の気持ちを見て欲しい、て人来るもんよねぇ?」
としみじみと言った。あぁ……
「確かに、そうなんですよね」
溜息混じりにこたえる。電話占いのアルバイトの件が脳裏をかすめた。
あたしは今、昼の休憩中だ。昼休憩は一人90分、夕方に15分あるそうだ。用意してもらったお昼は、手軽に素早く栄養補給が出来るものをと、大きなお結びが二個と、野菜スムージーだった。一人ずつ取る休憩は、ドラックストアも同じだったから苦にならない。むしろ、皆で休憩の方が苦手かもしれない。一度、とあるデパートに入っているドラックストアでアルバイトをした時あった。その時の休憩は、デパートの従業員用の休憩室を使うのだけれど。そこでの女子グループはどのテナントの人たちもその場に居ない人の悪口で盛りあがっていた。うんざりしたものだ。
「裏庭にこんな素敵な場所があったなんてびっくりしました」
「お客たちは録音を流していると思ってるみたいだし、聞かれてもそう答えているみたいね。さ、食べましょ」
そう言って、清少納言さんは持参したサンドイッチを食べ始めた。
「はい、頂きます!」
館での初めての休憩で心細いだろうからと、今日だけ特別に清少納言さんがわざわざ訪ねて来てくださったのだ。もし録音ではなくて本当に水琴窟があるあら場所を知りたい、と伝えたらここ、裏庭に連れて来てくれたのだ。
館の裏口を出ると、そこはまさに小さな森林公園のようだった。広さは二十畳ほどだろうか。垣根の代わりに、裏庭の外枠を綺麗に剪定さてた椿の木で完全に囲ってある。脚立がないと外からも見えない。水琴窟は、裏口を出てすぐの、小さな池の近くにあった。石で作られた水琴窟は、柔らかな苔で覆われていてとても風情がある。しかも庭は池の周り以外、大地も苔で覆われているから、まるで深緑色のベロアの絨毯が敷かれているみたいだ。周りには白百合や木槿などの白い花や元気な向日葵が数本、薄紅色の百日紅や鮮やかなオレンジのノウセンカズラなどが咲き誇っている。他にも花木と思われるものや植物がひしめき合っている。その癖どこかセンス良く植えられている。きっと、四季折々の花々が楽しめるようになっているのだろう。
この裏庭も特別な魔法みたいなのがかけられているのだろうな。
お結びを一口頬張る。随分大きいと思ったら、具材は出汁巻き卵に鳥の唐揚げ、ほうれん草の胡麻あえがぎっしりと入っていた。上手に握られていてしっかり両手で握って食べれば零れ落ちる事もなさそうだ。
「美味しい……」
自然に言葉が漏れる。
「それね、紫さんの案なの。片手で食べられて美味しくて手軽に栄養が取れてお腹いっぱいになるもの、て。お握りと野菜スムージーが良い、てね」
「へぇ?」
「ほら、あの人作家でもあるから」
「え? そうなんですか?」
「あら、聞いてなかった? じゃぁ本人からその内聞くでしょうけど。あの人、結構売れっ子のBL作家なのよね。作家の実体が謎に包まれてるって言って、その神秘性も一役かっているというか」
「BL作家?」
「うん、まぁそうね。そう言えば、初作成のペンダントが売れたらしいじゃない?」
うーん、上手く話しをかわしてきたな。これ以上は本人から聞け、て事か。まぁいいや、物凄く気になるけど空気読んでおこう。
「あ、はい。たまたまご縁があったみたいで……」
そう、あのお客様はポツリポツリと自分の状況を語り始めた。職場でのケアレスミスが立て続けにあって自信をなくしている事、周りはどんどん結婚して行き、付き合っている人も居ない自分は焦るけれども出会いもない事。特にずば抜けた取り柄もないからこの先不安な事。夏休みに衝動的に京へ行きたくなって、駅周辺を歩いている内に惹き込まれるようにして館に来た事……。気もちはとてもよく理解出来た。
マルセイユ版とウェイト版のそれぞれ一枚引きで占ったところ、マルセイユ版は『隠者』ウェイト版は『節制・正位置』を示した。
この場合の解釈は『今は一人でじっくりと内省すべき時。今までの自分とこれからの自分、周りと比較してしまいがちな時期でありスッキリしないけれど、後に自分だけのこたえを見つけていく為には必要な時期である事。「ぺタライト」は今のお客様にまさに必要な石で、浄化と癒し、心の解放、意識変革をサポートしてくれるのでピッピタリである事』と、そのまま鑑定結果を彼女に伝えた。
「……良かった。今は一人で色々考えて良い時期だったんですね。いずれ答えが見つかるんですね」
と言って涙を流していた。持ち歩くよりも常に身に着けていたいから、と私が作成したペンダントを購入してくれたのだ。因みに、ぺタライトの原石は¥3800縁、円ではなくご縁の縁と表示するのが面白い。ペンダントは材料費と加工代が追加されて6980縁。共に税込みである。
「ホント凄いわ! 自信持って良いわよ」
「有難うございます」
二個目のお結びを頬張る。十五穀米のお結びだった。中身はギッシリと焼き鮭が詰まっている。これも美味しい。野菜スムージーは所謂グリーンスムージーという奴で、野菜の自然の甘さが堪らなく飲みやすい。
「今度内に遊びにいらっしゃいよ。私の漫画見せてあげる」
「わぁ! 是非!」
これは嬉しい。ふと、清少納言さんは真顔になった。どうしたのかな?
「……それはそうと、占いをしていくと必ず、相手の気持ちを見て欲しい、て人来るもんよねぇ?」
としみじみと言った。あぁ……
「確かに、そうなんですよね」
溜息混じりにこたえる。電話占いのアルバイトの件が脳裏をかすめた。
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