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第十二話
篁さんと冥府に天然石の買い付け?!・後編
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篁さんに手を引かれて壁の中……つまり宇宙空間のような場所に足を踏みいれると、真っ暗だと思っていた中は意外に明るかった。何故なら足を踏み入れた途端に、二メートルほどの幅を取って両側に等間隔で狐火のような炎がポッポッ、と音を立てて付き始めたからだ。内部はちょうど鍾乳洞のような感じになっていて、一人で歩くのは怖いと思う。けれども、篁さんが手を引いてくれているせいか不思議と怖さはなかった。
「大丈夫ですか? 怖くないですか?」
心配そうに篁さんは振り返る。
「大丈夫です、有難うございます」
出来るだけしっかりした声で、笑顔で応じる。
「ほら、あそこに銅色の大きな扉が見えるでしょう?」
「はい」
確かに。正面突き当りに地獄門を彷彿とさせるような銅色の扉が見える。
「あそこです。絵本で見掛けるような赤鬼や青鬼もいますけど、話は通していますから安心してください。彼らも別に何もしませんから」
「はい。天然石、拝見するの楽しみです」
本当にそう感じた。鬼の事は怖くないと言ったら嘘になるけど、何かと比べて値踏みしたり見かけで判断されるのは一番傷つく、て事は……誰よりもあたしが一番よく分かっているから。
よく見ると、狐火みたいな灯りは空に浮いてるんだ。人魂みたい……かも。
ついに、扉の前に来た。篁さんは振り返ると、「ちょっとお待ちくださいね」と小声で囁くと、丁寧にあたしの手を離す。こういうちょっとした気配りが出来る人だったから、閻魔王の補佐官が務まったんだろうな。今は誰がされているのか気になる……
なんて思っている内に篁さんが右手を扉に翳していた。すると扉はギィ―――――ッと鈍い音を立てて左右に開き始めた。いよいよ、内部へ突入だ。
「お待たせしましたね。怖い事は何もないですし、品物は自由に触って見て頂いて大丈夫ですからね」
篁さんはそう言って、右手を差し出す。素直に左手を出し、手を引かれながら中へと足を踏み入れる。ドキドキしながら。中は意外にも明るくて驚いた。眩しさに目を細める。
「あぁ、篁様、お待ちしておりました」
「有難う、今日もお願いしますね」
すぐに声がかかる。少ししわがれた低い声の持ち主だ。一目見て悲鳴を上げそうになるのを辛うじて堪えた。それは身の丈一メートルほどの白い道着のようなものに身を包んだ一つ目の鬼だった。くすんだ暗緑色のワニのようなゴツゴツと硬そうな皮膚、牛を思わせる黒い角が一本、頭頂についている。
「ようこそ、お嬢さん。初めてですと驚く事もあるでしょうが、ここの職員は見かけによらず気の良い者ばかりですから、安心して楽しんでいってください」
鬼はそう言ってあたしに丁寧に頭を下げてくれた。ほら、見かけで判断したら失礼じゃない、あたしったら。篁さんはそっと手を離した。
「初めまして、突然にお邪魔しましてすみません。天然石が大好きなので、楽しみにしていました」
ペコリ、と頭を下げた。
「これはこれは、礼儀正しくて可愛らしいお嬢さんだ。私は冥府の販売長をさせて頂いております。どうぞごゆっくりお過ごしください」
「有難うございます」
篁さんは言った。
「自由に見て回って大丈夫ですよ。勿論、私と見て回っても構いませんしね」
「最初はご一緒させてください」
「勿論ですとも」
改めて周りを見渡す。灰色の道着に身を包んだ様々な色と大きさの鬼たちが十人ほど、あちこちに点在していた。角も一本の者、二本の者とまちまちだ。皆、あたしたちを笑顔で見守っている感じだ。
室内は、水晶の原石で作られたと思われる大きな長方形のテーブルが、ちょうど体育館ほどの広さの室内に九つほど並列されており、そこに色々な天然石が置かれている様子だ。随分歩き心地が良いと思ったら……床は苔が敷き詰められて出来ていた。
「うわぁ……素敵……」
壁を見て感嘆の声をあげた。室内自体が、巨大な紫水晶の結晶のドーム内だったからだ。しかも、今まで見た事もないほどしっとりとした深い紫色で艶々している。ハリネズミみたいにびっしりと生えた細かい水晶体がこの上なく神秘的だ。良く見ると、天井には水晶で蓮の花をかたどった灯りが煌々と室内を照らしている。
「おう! これは見事ですねぇ」
篁さんの声で我に返る。
「それは……」
あまりの美しさにため息をついた。篁さんが手にしていたのは、深い青色に虹色の粉を巻き散らしたかのように煌めく、直径五センチほどの丸玉だった。
「スペクトロライトですね」
と篁さんは目を細めた。
「大丈夫ですか? 怖くないですか?」
心配そうに篁さんは振り返る。
「大丈夫です、有難うございます」
出来るだけしっかりした声で、笑顔で応じる。
「ほら、あそこに銅色の大きな扉が見えるでしょう?」
「はい」
確かに。正面突き当りに地獄門を彷彿とさせるような銅色の扉が見える。
「あそこです。絵本で見掛けるような赤鬼や青鬼もいますけど、話は通していますから安心してください。彼らも別に何もしませんから」
「はい。天然石、拝見するの楽しみです」
本当にそう感じた。鬼の事は怖くないと言ったら嘘になるけど、何かと比べて値踏みしたり見かけで判断されるのは一番傷つく、て事は……誰よりもあたしが一番よく分かっているから。
よく見ると、狐火みたいな灯りは空に浮いてるんだ。人魂みたい……かも。
ついに、扉の前に来た。篁さんは振り返ると、「ちょっとお待ちくださいね」と小声で囁くと、丁寧にあたしの手を離す。こういうちょっとした気配りが出来る人だったから、閻魔王の補佐官が務まったんだろうな。今は誰がされているのか気になる……
なんて思っている内に篁さんが右手を扉に翳していた。すると扉はギィ―――――ッと鈍い音を立てて左右に開き始めた。いよいよ、内部へ突入だ。
「お待たせしましたね。怖い事は何もないですし、品物は自由に触って見て頂いて大丈夫ですからね」
篁さんはそう言って、右手を差し出す。素直に左手を出し、手を引かれながら中へと足を踏み入れる。ドキドキしながら。中は意外にも明るくて驚いた。眩しさに目を細める。
「あぁ、篁様、お待ちしておりました」
「有難う、今日もお願いしますね」
すぐに声がかかる。少ししわがれた低い声の持ち主だ。一目見て悲鳴を上げそうになるのを辛うじて堪えた。それは身の丈一メートルほどの白い道着のようなものに身を包んだ一つ目の鬼だった。くすんだ暗緑色のワニのようなゴツゴツと硬そうな皮膚、牛を思わせる黒い角が一本、頭頂についている。
「ようこそ、お嬢さん。初めてですと驚く事もあるでしょうが、ここの職員は見かけによらず気の良い者ばかりですから、安心して楽しんでいってください」
鬼はそう言ってあたしに丁寧に頭を下げてくれた。ほら、見かけで判断したら失礼じゃない、あたしったら。篁さんはそっと手を離した。
「初めまして、突然にお邪魔しましてすみません。天然石が大好きなので、楽しみにしていました」
ペコリ、と頭を下げた。
「これはこれは、礼儀正しくて可愛らしいお嬢さんだ。私は冥府の販売長をさせて頂いております。どうぞごゆっくりお過ごしください」
「有難うございます」
篁さんは言った。
「自由に見て回って大丈夫ですよ。勿論、私と見て回っても構いませんしね」
「最初はご一緒させてください」
「勿論ですとも」
改めて周りを見渡す。灰色の道着に身を包んだ様々な色と大きさの鬼たちが十人ほど、あちこちに点在していた。角も一本の者、二本の者とまちまちだ。皆、あたしたちを笑顔で見守っている感じだ。
室内は、水晶の原石で作られたと思われる大きな長方形のテーブルが、ちょうど体育館ほどの広さの室内に九つほど並列されており、そこに色々な天然石が置かれている様子だ。随分歩き心地が良いと思ったら……床は苔が敷き詰められて出来ていた。
「うわぁ……素敵……」
壁を見て感嘆の声をあげた。室内自体が、巨大な紫水晶の結晶のドーム内だったからだ。しかも、今まで見た事もないほどしっとりとした深い紫色で艶々している。ハリネズミみたいにびっしりと生えた細かい水晶体がこの上なく神秘的だ。良く見ると、天井には水晶で蓮の花をかたどった灯りが煌々と室内を照らしている。
「おう! これは見事ですねぇ」
篁さんの声で我に返る。
「それは……」
あまりの美しさにため息をついた。篁さんが手にしていたのは、深い青色に虹色の粉を巻き散らしたかのように煌めく、直径五センチほどの丸玉だった。
「スペクトロライトですね」
と篁さんは目を細めた。
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