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序章
そうだ! 一人旅に出よう!
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「はぁーーーー……何だかなぁ……」
あたし、杉浦立夏はこれ以上ない程に深い溜息をついた。ぼんやりと天を仰ぐ。
「……空が、あんなに青い」
と呟くと、再び溜息をついた。梅雨空な心とは裏腹に、晴天だ。梅雨明けしたばかりで青空も嬉しそうに輝いて見える。溜息をつくと幸運だか幸せが逃げるとか言うけど、あたしに言わせたらそれが実感出来る人は元々が運が良い星の元に生まれたのだと思う。例えば、姉みたいに。
二つ年上の姉は高二の時にお遊び感覚でコンテストに出してみた小説が大賞受賞。授賞式で取材に来た新聞記者たちに、あまりにも美少女だったもんでちょっとした騒ぎになり、それが書籍化されるや否や大ヒット。姉自身、密かに女優になりたい夢があったからマスコミの取材会見、顔出し名前出し許可したもんだからすぐに複数の芸能事務所からスカウトが殺到。そうなると芸能界入りを大反対していた両親も渋々許可を出さざるを得ず……そんな経緯から、現在二十三歳の姉は女優業兼小説家という二足の草鞋を履いて華やかに稼ぎまくっている。両親にしてみたら親孝行……なんだろうな。
かくいうあたしは? というと……。どこにでもいる普通の女子……の筈だ。姉が目立って優秀過ぎるだけで。その姉は今のところ、品行方正で何のスキャンダルもない。お陰で某チャンネルでは、
『女優兼作家の「杉浦彩羽」って容姿も才能も性格も完璧な女神じゃん二つ年下の妹は見た目も才能もカスらしいよ』
『姉ちゃんに良いところあげすぎて残りカスで出来たんじゃね? 格差姉妹の典型だな』
『モブ・陰キャって奴?』
『喪女だって話もある』
なんてある事無い事書かれる始末で大いに迷惑を被っているのである。「はぁーーーー」もう溜息しか出ないよ。だって……
どこにでもいる普通の女子のあたしは、普通に高校を出て。幼い頃から何となく人にものを教えるのが好きだったから、単純に学校の先生になろう、と進路を決めた。とある理由から早く現場に出たくて教員免許が取得出来る短大を選び、地元の埼玉から都内に一人暮らしを始めた。
予定では、都内の中学教員採用試験に合格、順調に卒業して去年の四月から教壇に立っている……筈だった。今月……七月の末で二十一歳になる。つまり教員採用試験に落ちた後はアルバイトをしながら就職先を探している状態だ。
教職は、二度めの挑戦はしなかった。二度めも落ちたらみっともないし立ち直れないと思ったからだ。当然と言えば当然だが、短大を卒業した時点で実家からの仕送りはストップ。だから、一人暮らしと同時に始めたドラックのアルバイトを朝から昼過ぎまで週三日から、土日を含む週五日の朝から夕方までのシフトに増やして貰って何とか生きている。
落ち込んでいる原因は、就活先から不採用のお祈りメールが立て続けに三件も届いた事と、こちらは親友だと思っていた友達から裏切られた事、更には密かに自信があった特技を活かした筈のアルバイト先から、首宣告を受けた事だ。もう、就活は百社を超えたあたりから数えるのを辞めた。親友の裏切りについてはまたおいおいお語るとして、密かに自負していた特技を活かせなかった事、これが一番ショックが大きい。
幼稚園生の時、たまたま姉が月刊漫画の付録についていたカードで遊んでいたのを見掛けた。お姫様や王様、悪魔、死神などが描かれていてとても惹かれた。それが『タロットカード』と呼ばれるものだと知った。簡単な占い方法が乗っていたらしく、しばらく姉が遊んでいた。やり方を教わり、そこから面白さに虜になった。小学校に上がる頃には友達を占ってあげられるようになっていた。勿論、学校で大っぴらにやる訳にいかないから友達の家だったり、あたしの部屋で占ったものだ。当たる、とじわじわと口コミで広がっていった。
そんな訳で、履歴書などには書けないけれど秘かな特技として誇りを持っていた。そう、姉と違って凡人な自分の唯一の特技だと。
自分の事も占っていたが、中二の時の初恋の行方を占った際、その人には他に付き合っているという結果が出てその通りになった。それ以来、ショックな結果が出たら怖いので自分の事はたまにしか占わないようにしている。因みに、教員採用試験の合否を占ったところ結果は『塔・正位置』……つまりこの場合の解釈は落ちるという事だ。だから就活に関しては一切占っていない。
三カ月ほど前の事だ。何気なく見ていた雑誌で、ふと、電話占い広告が目に入った。占い師募集、週一一時間から、という文字が目に飛び込む。夜の時間数時間、週に三回くらいで出来たら……と思った。好きな事でお金を得る体験が出来れば、少しは自信が付く、焦りから解放されると感じたのだ。採用試験は電話でお客に扮したスタッフの相談事を占う事だった。すぐに採用が決まった。嬉しかった。だけど仕事はかなりシビアだった……。
駄目だ、暗くなる一方だ。少し就活から離れて気分転換しないと。気分転換……旅行とか……そうだ! 思い切ってしばらく一人旅に出よう!
あたし、杉浦立夏はこれ以上ない程に深い溜息をついた。ぼんやりと天を仰ぐ。
「……空が、あんなに青い」
と呟くと、再び溜息をついた。梅雨空な心とは裏腹に、晴天だ。梅雨明けしたばかりで青空も嬉しそうに輝いて見える。溜息をつくと幸運だか幸せが逃げるとか言うけど、あたしに言わせたらそれが実感出来る人は元々が運が良い星の元に生まれたのだと思う。例えば、姉みたいに。
二つ年上の姉は高二の時にお遊び感覚でコンテストに出してみた小説が大賞受賞。授賞式で取材に来た新聞記者たちに、あまりにも美少女だったもんでちょっとした騒ぎになり、それが書籍化されるや否や大ヒット。姉自身、密かに女優になりたい夢があったからマスコミの取材会見、顔出し名前出し許可したもんだからすぐに複数の芸能事務所からスカウトが殺到。そうなると芸能界入りを大反対していた両親も渋々許可を出さざるを得ず……そんな経緯から、現在二十三歳の姉は女優業兼小説家という二足の草鞋を履いて華やかに稼ぎまくっている。両親にしてみたら親孝行……なんだろうな。
かくいうあたしは? というと……。どこにでもいる普通の女子……の筈だ。姉が目立って優秀過ぎるだけで。その姉は今のところ、品行方正で何のスキャンダルもない。お陰で某チャンネルでは、
『女優兼作家の「杉浦彩羽」って容姿も才能も性格も完璧な女神じゃん二つ年下の妹は見た目も才能もカスらしいよ』
『姉ちゃんに良いところあげすぎて残りカスで出来たんじゃね? 格差姉妹の典型だな』
『モブ・陰キャって奴?』
『喪女だって話もある』
なんてある事無い事書かれる始末で大いに迷惑を被っているのである。「はぁーーーー」もう溜息しか出ないよ。だって……
どこにでもいる普通の女子のあたしは、普通に高校を出て。幼い頃から何となく人にものを教えるのが好きだったから、単純に学校の先生になろう、と進路を決めた。とある理由から早く現場に出たくて教員免許が取得出来る短大を選び、地元の埼玉から都内に一人暮らしを始めた。
予定では、都内の中学教員採用試験に合格、順調に卒業して去年の四月から教壇に立っている……筈だった。今月……七月の末で二十一歳になる。つまり教員採用試験に落ちた後はアルバイトをしながら就職先を探している状態だ。
教職は、二度めの挑戦はしなかった。二度めも落ちたらみっともないし立ち直れないと思ったからだ。当然と言えば当然だが、短大を卒業した時点で実家からの仕送りはストップ。だから、一人暮らしと同時に始めたドラックのアルバイトを朝から昼過ぎまで週三日から、土日を含む週五日の朝から夕方までのシフトに増やして貰って何とか生きている。
落ち込んでいる原因は、就活先から不採用のお祈りメールが立て続けに三件も届いた事と、こちらは親友だと思っていた友達から裏切られた事、更には密かに自信があった特技を活かした筈のアルバイト先から、首宣告を受けた事だ。もう、就活は百社を超えたあたりから数えるのを辞めた。親友の裏切りについてはまたおいおいお語るとして、密かに自負していた特技を活かせなかった事、これが一番ショックが大きい。
幼稚園生の時、たまたま姉が月刊漫画の付録についていたカードで遊んでいたのを見掛けた。お姫様や王様、悪魔、死神などが描かれていてとても惹かれた。それが『タロットカード』と呼ばれるものだと知った。簡単な占い方法が乗っていたらしく、しばらく姉が遊んでいた。やり方を教わり、そこから面白さに虜になった。小学校に上がる頃には友達を占ってあげられるようになっていた。勿論、学校で大っぴらにやる訳にいかないから友達の家だったり、あたしの部屋で占ったものだ。当たる、とじわじわと口コミで広がっていった。
そんな訳で、履歴書などには書けないけれど秘かな特技として誇りを持っていた。そう、姉と違って凡人な自分の唯一の特技だと。
自分の事も占っていたが、中二の時の初恋の行方を占った際、その人には他に付き合っているという結果が出てその通りになった。それ以来、ショックな結果が出たら怖いので自分の事はたまにしか占わないようにしている。因みに、教員採用試験の合否を占ったところ結果は『塔・正位置』……つまりこの場合の解釈は落ちるという事だ。だから就活に関しては一切占っていない。
三カ月ほど前の事だ。何気なく見ていた雑誌で、ふと、電話占い広告が目に入った。占い師募集、週一一時間から、という文字が目に飛び込む。夜の時間数時間、週に三回くらいで出来たら……と思った。好きな事でお金を得る体験が出来れば、少しは自信が付く、焦りから解放されると感じたのだ。採用試験は電話でお客に扮したスタッフの相談事を占う事だった。すぐに採用が決まった。嬉しかった。だけど仕事はかなりシビアだった……。
駄目だ、暗くなる一方だ。少し就活から離れて気分転換しないと。気分転換……旅行とか……そうだ! 思い切ってしばらく一人旅に出よう!
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