天使と悪魔の新解釈「見習い悪魔は笛を吹けるか?」

大和撫子

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第三十六話

暗雲・その二

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 12畳程度の広さの畳の部屋。水墨画の朱雀が描かれた絵が、白い壁に飾られている。激流に川に赤い紅葉が描かれた屏風が、センス良く配置されていた。アステマのプライベートルームである。黒い木製のテーブルを挟んで、銀色の座布団の上にアステマとベリアルが向かい合って座っていた。木製の器に、緑茶が煎れられ、彼らの目の前に置かれている。何やら重苦しい空気が漂っている。

「……どうしてそんな事言い出すのさ? そんな事頼まれても困るよ。フォローならいくらでもするけどさ。自分が言ってる事、何を意味してるのか分かってる?」

 アステマは怒りの形相で、ベリアルを見据えた。いつもにこやかで親しみ易い彼の表情は、影を潜めている。

「あぁ分かってるさ。十分過ぎるくらいにな。だからもしも、の話だ。その時が来たら、頼む。こんな事、お前にしか頼めないんだ。勿論、そうならないようにするつもりでがあるが……な。どうか宜しく、頼む!」

と深々と頭を下げる。そしてお道化たように口調を変え、話しを続けた。

「それで、そのレオナールの他に、アザゼルやべヒモスの背後から囁く奴なんだが、アミやーハーゲンティの予想だと今のところのベルゼブブやベルフェゴールが予測出来るが、更に黒幕がいる、という見解だ。俺もそう思うぜ。んじゃ、近い内に集まって話しあおう!」

 と言うだけ言ってそのまま消え去ってしまった。

「あー! ちょ、ちょっとべリアル!?」

 慌てて声をかけるも、もう去った後……。アステマは大きくため息をつくと、

「嫌だよ、ベリアル。そんなの許さないからね!」

 口では毒づきながらも、心配そうにベリアルが去った空間を見つめるのだった。




「うわー!何コレ可愛い! 少し小さくて白っぽいグレーになっただけで、ベリアルとお揃いじゃない! やったぁ」

 翌朝、恵茉はべリアルから剣を授けられ、大喜びしていた。

「剣術の基本。いざという時はそれを思い出せ。あとはイメージ力で、魔術もパワーを貸してくれる。ゲーム感覚で、こうなったらいいなぁ、と思い浮かべるだけだ。戦闘中、イメージする時間がある時に限るがな」

「へぇ?便利なアイテムね。軽いから、元々支給されている剣と一緒でも苦にならないわ。なんだか二刀流使いみたい」

 うふふ、と嬉しそうに笑う。そんな恵茉を、ベリアルは優しい目で見つめていた。


「さ、魔王のとこへ行くぞ!」

 と恵茉を抱え上げると、消えた。




「よく来たな」

 コントラバスを思わせる声が、恵茉達を迎えた。20畳ほどの部屋。紫色の絨毯が敷かれている。大きなシャンデリア。見るからに高級そうなパール色の花瓶には、深紅の薔薇の花が一輪飾られている。まるでベルサイユ宮殿を思わせるような豪華で洒落た雰囲気だ。

 魔王は紫色のピロードで覆われたソファーに腰をおろしていた。恵茉はべリアルの背中に隠れながら、そっと魔王を覗く。切れ長の瞳は、得も言われぬ美しいプラチナ色だ。それは藍色の長い睫毛に囲まれ、神秘的な光と影を醸し出す。優雅な藍色の眉、高く上品な鼻。形の良い唇。面長の輪郭にこの上無く整った顔立ち。その周りを縁どるのは、藍色の艶髪だ。見事にストレートで、腰の下まで伸ばされている。先端が尖った耳には、小さなオニキスの丸玉ピアスがつけられていた。
 かなりの長身のようだ。鍛え上げられた肉体を覆う、蝋のように青白く透き通るような肌。長い手足を優雅に伸ばし、ゆったりと寛いでいる。背筋がゾクリとする程の美しい男だった。深い紫色のローブが、よく似合っている。その背には、黒く艶やかな6対、左右合わせて12枚の翼。優雅で威厳に満ちた、魔王たる魔王がそこに居た。

 あまりの美しさに圧倒される恵茉。天使達の光の美しさとはまた異なる耽美なる闇の美である。それは、見る者を虜にする不思議な魔力があるようだ。

「恵茉、さぁ、座るが良い」

 魔王は促す。ベリアルは彼女の右手をひき、魔王の向かい側のソファに腰をおろした。目の前には黒く艶やかなテーブル。白いガラスの器に盛られた桃や葡萄、柿等のフルーツが山盛りに置かれている。
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