59 / 79
第三十五話
忍び寄る影・中編
しおりを挟む
「何の真似だ!?」
ベリアルは殺気の主を背中から羽交い締めにし、右手で瞬時に出した剣を首筋に翳した。
「随分と入れ込んでるようじゃないか。涙ぐましい努力だな」
その者は平然としたまま、不敵な笑みを浮かべた。
「……ほう? 命が惜しく無いと見た。この剣は、妖怪を消滅させられる魔術が施してあると言うのに」
ベリアルは背筋が凍る程の冷酷な表情を浮かべ、なんの躊躇いも無く剣を真横に引こうとした。剣全体が、ダークグレーのモヤに包まれる。
「ま、待て! 待ってくれっ」
慌ててその者は命乞いをし、ベリアルに体を向けようとした。
「そのまま動くな! 俺の質問に答えろ。……嘘を言ったら、どうなるかわかるな?」
ベリアルはその者の左耳元で囁く。その者は恐怖から冷や汗をかきはじめていた。殺気の主は全身が血のように赤黒い毛で覆われ、猫のような黄色い目に、尖った耳。狐のような顔立ちの妖怪だった。身の丈は2mほどだろうか。
「見たところ、お前妖怪『貂と魔族のハーフ、てとこか? 名を名乗れ。何の目的だ? 誰の命令で来た?」
首筋ギリギリまで剣を当て、矢継ぎ早に問いかけるベリアル。名を名乗るという事は、名乗った相手に主導権を渡す、つまり降参する、と同等の意味を持つ。そのモノは恐怖に震えつつ
「そ、そうだ。俺は貂の母親、魔族の父親から生まれた。名前はトテンマだ。今回はお前に宣戦布告して挑発し、動揺を誘え、と……」
そこで言い澱むトテンマに
「トテンマ、まさか、話すよな?」
と刃を首に押しあてる。残忍な笑みを浮かべながら。その部分から微かに黒い血が滲む……
「ひ、ひぃぃいいいー。は、話します話します!そ、その……レ、レ……レオナール様です! レオナール様が、ベリアル様のパートナーに興味を持たれておりまして……」
それを聞いてベリアルは険しい表情を浮かべる。
「何故、レオナールがアイツに興味を持つ?」
「し、知りません、そこまでは知りません、ほ、本当です!」
必死に訴えるトテンマ。
(レオナール……魔女、魔術師を束ねる黒魔術のエキスパートか。前から怪しい、と思っていたが……ちょっと、厄介だな)
と思った。そしてすぐにトテンマにこう問いかけた。
「さて、トテンマとやら。ご苦労だったな。選択肢は3つ。どれを選ぶ? その1、俺に消滅させられるか。その2、魔術と妖術の力を消滅し、単なるトテンマに戻るか。その3、レオナールの元にこのまま帰るか。知ってると思うが、3は一番お勧めしないぞ。魔族も妖怪も、裏切り者には厳しい制裁が待っている事、知っている筈だろう?」
と。何やら酷く優しい口調だ。しかし、その目は笑っていない。無機質なまでに冷たい。そして相変わらず剣をトテンマにつけたままだ。
「ど、ど、どうかお慈悲を……」
必死に懇願するトテンマ。
「俺が6つ数えるまでに決めろよ。そうしないと、俺が適当に決めちまうぜ。ひとーつ、ふたーつ……」
「お、お許し下さいベリアル様」
「みーっつ、よーっつ」
「ベリアル様っ!」
「いつーつ、むっーつ……」
バシュッ
「ギャーーーーーッ」
ドサッ。
ベリアルは躊躇わずに剣を引き、トテンマの首を切りつけた。首筋からおびただしい量の黒い血液が吹き上げ、トテンマは人形のように倒れた。
ベリアルは殺気の主を背中から羽交い締めにし、右手で瞬時に出した剣を首筋に翳した。
「随分と入れ込んでるようじゃないか。涙ぐましい努力だな」
その者は平然としたまま、不敵な笑みを浮かべた。
「……ほう? 命が惜しく無いと見た。この剣は、妖怪を消滅させられる魔術が施してあると言うのに」
ベリアルは背筋が凍る程の冷酷な表情を浮かべ、なんの躊躇いも無く剣を真横に引こうとした。剣全体が、ダークグレーのモヤに包まれる。
「ま、待て! 待ってくれっ」
慌ててその者は命乞いをし、ベリアルに体を向けようとした。
「そのまま動くな! 俺の質問に答えろ。……嘘を言ったら、どうなるかわかるな?」
ベリアルはその者の左耳元で囁く。その者は恐怖から冷や汗をかきはじめていた。殺気の主は全身が血のように赤黒い毛で覆われ、猫のような黄色い目に、尖った耳。狐のような顔立ちの妖怪だった。身の丈は2mほどだろうか。
「見たところ、お前妖怪『貂と魔族のハーフ、てとこか? 名を名乗れ。何の目的だ? 誰の命令で来た?」
首筋ギリギリまで剣を当て、矢継ぎ早に問いかけるベリアル。名を名乗るという事は、名乗った相手に主導権を渡す、つまり降参する、と同等の意味を持つ。そのモノは恐怖に震えつつ
「そ、そうだ。俺は貂の母親、魔族の父親から生まれた。名前はトテンマだ。今回はお前に宣戦布告して挑発し、動揺を誘え、と……」
そこで言い澱むトテンマに
「トテンマ、まさか、話すよな?」
と刃を首に押しあてる。残忍な笑みを浮かべながら。その部分から微かに黒い血が滲む……
「ひ、ひぃぃいいいー。は、話します話します!そ、その……レ、レ……レオナール様です! レオナール様が、ベリアル様のパートナーに興味を持たれておりまして……」
それを聞いてベリアルは険しい表情を浮かべる。
「何故、レオナールがアイツに興味を持つ?」
「し、知りません、そこまでは知りません、ほ、本当です!」
必死に訴えるトテンマ。
(レオナール……魔女、魔術師を束ねる黒魔術のエキスパートか。前から怪しい、と思っていたが……ちょっと、厄介だな)
と思った。そしてすぐにトテンマにこう問いかけた。
「さて、トテンマとやら。ご苦労だったな。選択肢は3つ。どれを選ぶ? その1、俺に消滅させられるか。その2、魔術と妖術の力を消滅し、単なるトテンマに戻るか。その3、レオナールの元にこのまま帰るか。知ってると思うが、3は一番お勧めしないぞ。魔族も妖怪も、裏切り者には厳しい制裁が待っている事、知っている筈だろう?」
と。何やら酷く優しい口調だ。しかし、その目は笑っていない。無機質なまでに冷たい。そして相変わらず剣をトテンマにつけたままだ。
「ど、ど、どうかお慈悲を……」
必死に懇願するトテンマ。
「俺が6つ数えるまでに決めろよ。そうしないと、俺が適当に決めちまうぜ。ひとーつ、ふたーつ……」
「お、お許し下さいベリアル様」
「みーっつ、よーっつ」
「ベリアル様っ!」
「いつーつ、むっーつ……」
バシュッ
「ギャーーーーーッ」
ドサッ。
ベリアルは躊躇わずに剣を引き、トテンマの首を切りつけた。首筋からおびただしい量の黒い血液が吹き上げ、トテンマは人形のように倒れた。
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

もしかして寝てる間にざまぁしました?
ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。
内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。
しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。
私、寝てる間に何かしました?

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
君は妾の子だから、次男がちょうどいい
月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。
子持ちの私は、夫に駆け落ちされました
月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!
子育てが落ち着いた20年目の結婚記念日……「離縁よ!離縁!」私は屋敷を飛び出しました。
さくしゃ
恋愛
アーリントン王国の片隅にあるバーンズ男爵領では、6人の子育てが落ち着いた領主夫人のエミリアと領主のヴァーンズは20回目の結婚記念日を迎えていた。
忙しい子育てと政務にすれ違いの生活を送っていた二人は、久しぶりに二人だけで食事をすることに。
「はぁ……盛り上がりすぎて7人目なんて言われたらどうしよう……いいえ!いっそのことあと5人くらい!」
気合いを入れるエミリアは侍女の案内でヴァーンズが待つ食堂へ。しかし、
「信じられない!離縁よ!離縁!」
深夜2時、エミリアは怒りを露わに屋敷を飛び出していった。自室に「実家へ帰らせていただきます!」という書き置きを残して。
結婚20年目にして離婚の危機……果たしてその結末は!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる