天使と悪魔の新解釈「見習い悪魔は笛を吹けるか?」

大和撫子

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第三十五話

忍び寄る影・中編

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「何の真似だ!?」

 ベリアルは殺気の主を背中から羽交い締めにし、右手で瞬時に出した剣を首筋に翳した。

「随分と入れ込んでるようじゃないか。涙ぐましい努力だな」

 その者は平然としたまま、不敵な笑みを浮かべた。

「……ほう? 命が惜しく無いと見た。この剣は、妖怪を消滅させられる魔術が施してあると言うのに」

 ベリアルは背筋が凍る程の冷酷な表情を浮かべ、なんの躊躇いも無く剣を真横に引こうとした。剣全体が、ダークグレーのモヤに包まれる。

「ま、待て! 待ってくれっ」

 慌ててその者は命乞いをし、ベリアルに体を向けようとした。

「そのまま動くな! 俺の質問に答えろ。……嘘を言ったら、どうなるかわかるな?」

 ベリアルはその者の左耳元で囁く。その者は恐怖から冷や汗をかきはじめていた。殺気の主は全身が血のように赤黒い毛で覆われ、猫のような黄色い目に、尖った耳。狐のような顔立ちの妖怪だった。身の丈は2mほどだろうか。

「見たところ、お前妖怪『テンと魔族のハーフ、てとこか? 名を名乗れ。何の目的だ? 誰の命令で来た?」

 首筋ギリギリまで剣を当て、矢継ぎ早に問いかけるベリアル。名を名乗るという事は、名乗った相手に主導権を渡す、つまり降参する、と同等の意味を持つ。そのモノは恐怖に震えつつ

「そ、そうだ。俺は貂の母親、魔族の父親から生まれた。名前はトテンマだ。今回はお前に宣戦布告して挑発し、動揺を誘え、と……」

 そこで言い澱むトテンマに

「トテンマ、まさか、話すよな?」

 と刃を首に押しあてる。残忍な笑みを浮かべながら。その部分から微かに黒い血が滲む……

「ひ、ひぃぃいいいー。は、話します話します!そ、その……レ、レ……レオナール様です! レオナール様が、ベリアル様のパートナーに興味を持たれておりまして……」

 それを聞いてベリアルは険しい表情を浮かべる。

「何故、レオナールがアイツに興味を持つ?」

「し、知りません、そこまでは知りません、ほ、本当です!」

 必死に訴えるトテンマ。

(レオナール……魔女、魔術師を束ねる黒魔術のエキスパートか。前から怪しい、と思っていたが……ちょっと、厄介だな)

 と思った。そしてすぐにトテンマにこう問いかけた。

「さて、トテンマとやら。ご苦労だったな。選択肢は3つ。どれを選ぶ? その1、俺に消滅させられるか。その2、魔術と妖術の力を消滅し、単なるトテンマに戻るか。その3、レオナールの元にこのまま帰るか。知ってると思うが、3は一番お勧めしないぞ。魔族も妖怪も、裏切り者には厳しい制裁が待っている事、知っている筈だろう?」

 と。何やら酷く優しい口調だ。しかし、その目は笑っていない。無機質なまでに冷たい。そして相変わらず剣をトテンマにつけたままだ。

「ど、ど、どうかお慈悲を……」

 必死に懇願するトテンマ。

「俺が6つ数えるまでに決めろよ。そうしないと、俺が適当に決めちまうぜ。ひとーつ、ふたーつ……」

「お、お許し下さいベリアル様」

「みーっつ、よーっつ」

「ベリアル様っ!」

「いつーつ、むっーつ……」

バシュッ


「ギャーーーーーッ」

ドサッ。

 ベリアルは躊躇わずに剣を引き、トテンマの首を切りつけた。首筋からおびただしい量の黒い血液が吹き上げ、トテンマは人形のように倒れた。
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