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第十五話
魔塔訪問
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その使い魔は、一見すると二足歩行の黒兎だった。艶やかな長毛種、長い耳はピンと立っており、黄水晶のような黄色い瞳がとても綺麗だ。
魔塔に訪問する際は、時間になると迎えが来る手筈となっていた。てっきり、魔道自動車か魔道馬車がやって来るのだと思ってフォルティーネはエリアスと門の外で待っていのだが。突如、エリアスは何かの気配を察知したのかフォルティーネの肩を抱き寄せると、己の背後に庇うようにして立ち塞がった。一瞬、何が起こったのか理解出来なかったフォルティーネは、こっそりとエリアスの背後から前方を窺う。いつでも応戦出来るように構えているエリアス、けれどもフォルティーネは何の不安も感じなかった。大公邸の前、少数精鋭の護衛騎士が控えてている上に影の存在もある。何よりエリアスが傍についているからだ。
エリアスの視線を追って1mほど前方の大地に目を凝らす。うっすらとした光の線が浮かび上がった。その光は徐々に濃くなり、見る間に直径3m程の魔法陣となった。それは光の柱のように天空に伸び、魔法陣の中心部から湧き出るようにして登場したのがその二足歩行の黒兎だった。黒兎は滑るようにして光の魔法陣の柱から進み出ると、未だ警戒を解かないエリアスに向かって古代英国紳士風のお辞儀をした。
「驚かせてしまったようで申し訳ございません。お時間になりましたので魔塔よりお迎えに上がりました」
その黒兎は右手を軽く前に翳した。A4サイズ、白地に金色のルーン文字が描かれたものが浮かび上がる。皇帝の直筆サインの入った『魔塔訪問許可証』だ。それはそのままふわりと宙を漂い、エリアスが右手に収まった。
(二足歩行の黒兎! 肉球は淡いピンク色なのね、しかも流暢に人語を操る!! 物腰は丁寧だけど声がボーイソプラノで可愛いわ。童話や絵本に出てきそう!)
フォルティーネは好奇心に瞳を輝かせる。
「まぁ、なんて可愛らしいのかしら?」
漸く警戒を解いて普通の立姿勢に戻るエリアスは、それでもフォルティーネを庇うようにして右腕を盾にしている。全く警戒していないどころか興味津々の様子を見せるフォルティーネに苦笑した。だがエリアスはそんな彼女の無邪気な部分も、可愛らしい魅力として感じてしまうのだが。二足歩行の黒兎は少し間をおいてから話を続ける。
「申し遅れました、私は魔塔主リュシアン・ゾロ・ジェムシリカの使い魔、二クスと申します。どうぞお見知り置き下さいませ。これより魔塔へとご案内させて頂く、お迎えに上がりました。早速ご案内します、どうぞこちらに」
フォルティーネはエリアスに肩を抱かれたままは二クスが誘導するままに、魔法陣の光の柱に足を踏み入れた。内部はまるで光のカーテンに囲まれているような感覚だった。二人がそのまま魔法陣の中央に立つと、二クスは「それでは参ります」の一声を合図にしたかように、光は眩しいほどに輝きを増した。
「お二人が目を開けた時には、魔塔主の元に居るでしょう」
二クスの声を聞きながら二人は数回瞬きした後に目を開けると、光は空気に溶け込むようにして消失し、薄紫色の壁と天井に囲まれた広い部屋に立っていた。二クスは居ない。足元に広がるのは紫紺色の絨毯に銀色の魔法陣、だがその魔法陣はすぐに消えた。ドアも、窓も無い部屋。天井には黒水晶で作られたドラゴンが、燃え盛る炎の水晶を抱いている飾りがついている。シャンデリア代わりのようで、思いの外明るく室内を照らしていた。部屋の四隅には、炎の小妖精たちが20cm程の輪を作って踊りを楽しんでいる。それが部屋をより一層明るく演出するのに一役かっていた。
その間ずっと、エリアスに肩を抱かれたままだった。
「ようこそいらっしゃいました。皇帝陛下よりお話は伺っております」
だから、唐突に響くテノールにもフォルティーネは何の怖さも感じなかった。時間短縮の為に直ぐに魔塔主と出会えるように皇帝が手筈を整えてくれたのは非常に有難い。皇族でもない限り有り得ないVIP待遇だ。けれども、噂でしか聞いた事がない魔塔の外観を見てみたかったのは密かな本音でもあった。そんな事を思う余裕があるのは、エリアスにしっかりと守られているという安心感があるからに他ならない。
「帝国の魔塔主を務めさせて頂いております、リュシアン・ゾロ・ジェムシリカでございます」
男は声と同時に、二人の前に影のように姿を現した。足首まで伸ばされたアクアグレイの髪は見事なストレートを誇り、艶やかにサラサラと肩に背に流れている。まさに大理石のような肌、冷たく見えるほど端正な顔立ち。長身細身の体を黒いローブがすっぽりと覆っている。
「お困りのようですね。早速お話を伺いましょう。どうぞお座り下さい」
透き通るようなホリゾンブルーの瞳は、心の奥全てを見通されているかのような錯覚を覚えた。男の美貌と雰囲気を一言で例えるなら、『未明、冬の泉』といったところか。魔塔主リュシアンが軽く右手を上げると、二人の背後に|
紫水晶《アメジスト》で作られた長椅子が、魔塔主と二人の間には同じくアメジスト制の丸テーブルが出現した。
「この度はお時間を頂き有難うございます。エリアス・テオ・ハイドランジアと婚約者のフォルティーネ・エマ・リビアングラスです。宜しくお願いします」
エリアスが挨拶するのを聞きつつ、同時に頭を下げる。そこで初めて、フォルティーネに緊張が走った。エリアスの『魂の番』が何処でどうしているのか判明するかもしれないのだ。
……そう、今、ここで。
魔塔に訪問する際は、時間になると迎えが来る手筈となっていた。てっきり、魔道自動車か魔道馬車がやって来るのだと思ってフォルティーネはエリアスと門の外で待っていのだが。突如、エリアスは何かの気配を察知したのかフォルティーネの肩を抱き寄せると、己の背後に庇うようにして立ち塞がった。一瞬、何が起こったのか理解出来なかったフォルティーネは、こっそりとエリアスの背後から前方を窺う。いつでも応戦出来るように構えているエリアス、けれどもフォルティーネは何の不安も感じなかった。大公邸の前、少数精鋭の護衛騎士が控えてている上に影の存在もある。何よりエリアスが傍についているからだ。
エリアスの視線を追って1mほど前方の大地に目を凝らす。うっすらとした光の線が浮かび上がった。その光は徐々に濃くなり、見る間に直径3m程の魔法陣となった。それは光の柱のように天空に伸び、魔法陣の中心部から湧き出るようにして登場したのがその二足歩行の黒兎だった。黒兎は滑るようにして光の魔法陣の柱から進み出ると、未だ警戒を解かないエリアスに向かって古代英国紳士風のお辞儀をした。
「驚かせてしまったようで申し訳ございません。お時間になりましたので魔塔よりお迎えに上がりました」
その黒兎は右手を軽く前に翳した。A4サイズ、白地に金色のルーン文字が描かれたものが浮かび上がる。皇帝の直筆サインの入った『魔塔訪問許可証』だ。それはそのままふわりと宙を漂い、エリアスが右手に収まった。
(二足歩行の黒兎! 肉球は淡いピンク色なのね、しかも流暢に人語を操る!! 物腰は丁寧だけど声がボーイソプラノで可愛いわ。童話や絵本に出てきそう!)
フォルティーネは好奇心に瞳を輝かせる。
「まぁ、なんて可愛らしいのかしら?」
漸く警戒を解いて普通の立姿勢に戻るエリアスは、それでもフォルティーネを庇うようにして右腕を盾にしている。全く警戒していないどころか興味津々の様子を見せるフォルティーネに苦笑した。だがエリアスはそんな彼女の無邪気な部分も、可愛らしい魅力として感じてしまうのだが。二足歩行の黒兎は少し間をおいてから話を続ける。
「申し遅れました、私は魔塔主リュシアン・ゾロ・ジェムシリカの使い魔、二クスと申します。どうぞお見知り置き下さいませ。これより魔塔へとご案内させて頂く、お迎えに上がりました。早速ご案内します、どうぞこちらに」
フォルティーネはエリアスに肩を抱かれたままは二クスが誘導するままに、魔法陣の光の柱に足を踏み入れた。内部はまるで光のカーテンに囲まれているような感覚だった。二人がそのまま魔法陣の中央に立つと、二クスは「それでは参ります」の一声を合図にしたかように、光は眩しいほどに輝きを増した。
「お二人が目を開けた時には、魔塔主の元に居るでしょう」
二クスの声を聞きながら二人は数回瞬きした後に目を開けると、光は空気に溶け込むようにして消失し、薄紫色の壁と天井に囲まれた広い部屋に立っていた。二クスは居ない。足元に広がるのは紫紺色の絨毯に銀色の魔法陣、だがその魔法陣はすぐに消えた。ドアも、窓も無い部屋。天井には黒水晶で作られたドラゴンが、燃え盛る炎の水晶を抱いている飾りがついている。シャンデリア代わりのようで、思いの外明るく室内を照らしていた。部屋の四隅には、炎の小妖精たちが20cm程の輪を作って踊りを楽しんでいる。それが部屋をより一層明るく演出するのに一役かっていた。
その間ずっと、エリアスに肩を抱かれたままだった。
「ようこそいらっしゃいました。皇帝陛下よりお話は伺っております」
だから、唐突に響くテノールにもフォルティーネは何の怖さも感じなかった。時間短縮の為に直ぐに魔塔主と出会えるように皇帝が手筈を整えてくれたのは非常に有難い。皇族でもない限り有り得ないVIP待遇だ。けれども、噂でしか聞いた事がない魔塔の外観を見てみたかったのは密かな本音でもあった。そんな事を思う余裕があるのは、エリアスにしっかりと守られているという安心感があるからに他ならない。
「帝国の魔塔主を務めさせて頂いております、リュシアン・ゾロ・ジェムシリカでございます」
男は声と同時に、二人の前に影のように姿を現した。足首まで伸ばされたアクアグレイの髪は見事なストレートを誇り、艶やかにサラサラと肩に背に流れている。まさに大理石のような肌、冷たく見えるほど端正な顔立ち。長身細身の体を黒いローブがすっぽりと覆っている。
「お困りのようですね。早速お話を伺いましょう。どうぞお座り下さい」
透き通るようなホリゾンブルーの瞳は、心の奥全てを見通されているかのような錯覚を覚えた。男の美貌と雰囲気を一言で例えるなら、『未明、冬の泉』といったところか。魔塔主リュシアンが軽く右手を上げると、二人の背後に|
紫水晶《アメジスト》で作られた長椅子が、魔塔主と二人の間には同じくアメジスト制の丸テーブルが出現した。
「この度はお時間を頂き有難うございます。エリアス・テオ・ハイドランジアと婚約者のフォルティーネ・エマ・リビアングラスです。宜しくお願いします」
エリアスが挨拶するのを聞きつつ、同時に頭を下げる。そこで初めて、フォルティーネに緊張が走った。エリアスの『魂の番』が何処でどうしているのか判明するかもしれないのだ。
……そう、今、ここで。
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