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第十話
My Angel①(エリアスside)
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彼女を始めて見かけたのは、今から凡そ三年ほど前のグラジオラス小国独立記念パーティーだった。
ーーーーー話は少し遡る。
エーデルシュタイン帝国は当時、内乱が起こり虎視眈々と狙っていた近隣国も加わって荒れに荒れていた。当時の皇帝が、突如として異世界から現れたという『神の力を宿す奇跡の乙女』とやらに心を奪われてしまったのだ。側近たちの忠告も聞く耳を持たず。古来より様々な事件が大きな争いごとの元となって来た為、皇帝は側妃や愛妾を持つ事を禁止されているにも関わらず皇后を蔑ろにして、その女に現を抜かした挙句政務を疎かにした。その結果……留まる事を知らずに上がり続ける国税、増え続ける貧困層、膨れ上がる帝国民の不満、治安の悪化、結果、瘴気の増大による魔獣の活発化による被害の多発。帝国は暴動への道を辿る一方となった。
遂に、火蓋が切って落とされた。帝国は大きく分けて五つの派閥があった。皇族派、オルゴナイト公爵を筆頭とする貴族派、所属に関係なく人は皆平等であると掲げる帝国民派、光と創造の女神セーラスを崇拝する神教派、魔法を至上に掲げる魔塔派。切っ掛けは、皇帝に愛想が尽きた皇后と業を煮やした皇帝の側近たちが結託し、貴族派についた事だ。一気に内乱に発生、そこに兼ねてから帝国を取り込もう狙っていた火の国ピュール王国が攻め込み、戦争へと発展。敵味方入り乱れ混乱を極めた。このままではいけない、と制圧に乗り出したのが圧倒的な力を誇る現皇帝ランハート・ルイ・ギベオンと私だった。最終的に争いの元となった皇帝は処刑、異世界から出現した『神の力を宿し奇跡の乙女』とやらは、傾国の悪女と見なされ魔法裁判にかけられた後に強制的に異空間に飛ばす流刑となった。
だが、これらの処分についてはあくまで公にされている部分のみだ。最終的に皇族として生き残っているのは当時の皇后……廃后となって実家で静かに余生を過ごす事となったが……そしてランハート・ルイ・ギベオンのみ。その他の皇族、ランハートに逆らった者たちは皆粛清されたという。具体的に誰がどうなったかは明らかにはされていない。彼が暴君やら冷血やらと呼ばれるのはそのような事から来ているのだと思う。
皇帝の座に私を推してくれる声も少なからずあったが、何より皆が平和に暮らせればそれで良いと思っただけでそこまでの野心は無かった。それでも、私を慕ってついて来てくれた者たちの為に小国を造る事で守ろうと思った。
そのような経緯で帝国から勝ち取り独立、肥沃の大地の豊かなしぜんを誇るグラジオラス小国が永世中立国として誕生した。その記念パーティーで、彼女と出会ったのだ。尤も、その時の事を彼女は知らない。
「『縁結びの当て馬令嬢』って子が居てさ、彼女と交際すると運命の女に出会えるらしい」
そんな噂が流れているのは知っていた。女性からのアプローチはあるにはあったが、どうしても乗り気になれないまま二十代半ばまで来てしまった私に、周りはその『縁結びの当て馬令嬢』とやらとの交際を勧めてきた。不愉快だった。当て馬にされる彼女の気持ちを考えると腹立たしかったし、無神経にもそのような発言、考え方をする奴らが理解出来なかった。酒も入って気持ちが大きくなったのもあるだろうが、
「ほら、あの子だよ『縁結びの当て馬令嬢』、フォルティーネ・エマ。リビアングラス侯爵家の次女」
「リビアングラス侯爵家と言えば、長男長女は揃って美形で有能だけど、フォルティーネ嬢は見た目も才能も平凡で取り柄といえば『縁結びの当て馬』役らしい。何だか気の毒だな」
人を貶める話題で盛り上がる雰囲気に居心地の悪さを感じていた。何より、『縁結びの当て馬令嬢』等と指差され、揶揄されている彼女が気になった。
(……綺麗なシャンパン色の髪だな……)
遠目からそう感じた。小柄で華奢な、少女のように可憐な方だと思った。平凡な容姿等と言われる事が不思議に感じた。その彼女が、外の庭園に向かって行く様子が見えた。引き寄せられるように、彼女を追いかける自分が居た。その時は単純に彼女への興味と、護衛もつけずに単独で外に出る彼女が心配になったのだ。
(確か、庭園に出たと思うのだが。彼女は何処に?)
足音を立てず、気配を消して探す。夜の庭園は、月明かりと炎の小妖精の力を借りた篝火に花々が照らされ、幻想的だった。噴水の水音が心地良い。
(あ、彼女だ!)
私は椿の木に隠れるようにして、噴水前で月を見上げるようにして立つ彼女を見つめた。彼女までの距離は3m程だろうか。
月の光に照らされたシャンパン色の髪は、まるで妖精の粉をかけたかのようにキラキラ輝いている。ふわふわとした綿菓子のような髪だ。白百合の髪飾りがよく似合っている。パステルグリーンのドレスが彼女の儚げで可憐な姿を引き立てていた。髪と同じシャンパン色の長い睫毛は大きな瞳を煙るように繊細に縁取っている。くっきりとした二重瞼、瞳の色は柔らかな紫色だった。さくらんぼを思わせる唇、桜色の頬、クリーム色の肌……どれを取っても神秘的で、美しいとしか思えなかった。彼女の容姿を否定的に言う奴らは、もし本当にそう感じているだとしたら美的感覚が狂っているに違いない。
(なんて幻想的な立ち姿なのだろう。まるで、宗教画に描かれている天使のようだ……)
取り分け、彼女の瞳の色に魅せられた。何処かで見た花の色に似ている。後で調べてみようと思った。
今にして思えば、その時既に彼女に惹かれていたのだと思う。
彼女がその場を後にするまで、息を詰めて見つめていた。
ーーーーー話は少し遡る。
エーデルシュタイン帝国は当時、内乱が起こり虎視眈々と狙っていた近隣国も加わって荒れに荒れていた。当時の皇帝が、突如として異世界から現れたという『神の力を宿す奇跡の乙女』とやらに心を奪われてしまったのだ。側近たちの忠告も聞く耳を持たず。古来より様々な事件が大きな争いごとの元となって来た為、皇帝は側妃や愛妾を持つ事を禁止されているにも関わらず皇后を蔑ろにして、その女に現を抜かした挙句政務を疎かにした。その結果……留まる事を知らずに上がり続ける国税、増え続ける貧困層、膨れ上がる帝国民の不満、治安の悪化、結果、瘴気の増大による魔獣の活発化による被害の多発。帝国は暴動への道を辿る一方となった。
遂に、火蓋が切って落とされた。帝国は大きく分けて五つの派閥があった。皇族派、オルゴナイト公爵を筆頭とする貴族派、所属に関係なく人は皆平等であると掲げる帝国民派、光と創造の女神セーラスを崇拝する神教派、魔法を至上に掲げる魔塔派。切っ掛けは、皇帝に愛想が尽きた皇后と業を煮やした皇帝の側近たちが結託し、貴族派についた事だ。一気に内乱に発生、そこに兼ねてから帝国を取り込もう狙っていた火の国ピュール王国が攻め込み、戦争へと発展。敵味方入り乱れ混乱を極めた。このままではいけない、と制圧に乗り出したのが圧倒的な力を誇る現皇帝ランハート・ルイ・ギベオンと私だった。最終的に争いの元となった皇帝は処刑、異世界から出現した『神の力を宿し奇跡の乙女』とやらは、傾国の悪女と見なされ魔法裁判にかけられた後に強制的に異空間に飛ばす流刑となった。
だが、これらの処分についてはあくまで公にされている部分のみだ。最終的に皇族として生き残っているのは当時の皇后……廃后となって実家で静かに余生を過ごす事となったが……そしてランハート・ルイ・ギベオンのみ。その他の皇族、ランハートに逆らった者たちは皆粛清されたという。具体的に誰がどうなったかは明らかにはされていない。彼が暴君やら冷血やらと呼ばれるのはそのような事から来ているのだと思う。
皇帝の座に私を推してくれる声も少なからずあったが、何より皆が平和に暮らせればそれで良いと思っただけでそこまでの野心は無かった。それでも、私を慕ってついて来てくれた者たちの為に小国を造る事で守ろうと思った。
そのような経緯で帝国から勝ち取り独立、肥沃の大地の豊かなしぜんを誇るグラジオラス小国が永世中立国として誕生した。その記念パーティーで、彼女と出会ったのだ。尤も、その時の事を彼女は知らない。
「『縁結びの当て馬令嬢』って子が居てさ、彼女と交際すると運命の女に出会えるらしい」
そんな噂が流れているのは知っていた。女性からのアプローチはあるにはあったが、どうしても乗り気になれないまま二十代半ばまで来てしまった私に、周りはその『縁結びの当て馬令嬢』とやらとの交際を勧めてきた。不愉快だった。当て馬にされる彼女の気持ちを考えると腹立たしかったし、無神経にもそのような発言、考え方をする奴らが理解出来なかった。酒も入って気持ちが大きくなったのもあるだろうが、
「ほら、あの子だよ『縁結びの当て馬令嬢』、フォルティーネ・エマ。リビアングラス侯爵家の次女」
「リビアングラス侯爵家と言えば、長男長女は揃って美形で有能だけど、フォルティーネ嬢は見た目も才能も平凡で取り柄といえば『縁結びの当て馬』役らしい。何だか気の毒だな」
人を貶める話題で盛り上がる雰囲気に居心地の悪さを感じていた。何より、『縁結びの当て馬令嬢』等と指差され、揶揄されている彼女が気になった。
(……綺麗なシャンパン色の髪だな……)
遠目からそう感じた。小柄で華奢な、少女のように可憐な方だと思った。平凡な容姿等と言われる事が不思議に感じた。その彼女が、外の庭園に向かって行く様子が見えた。引き寄せられるように、彼女を追いかける自分が居た。その時は単純に彼女への興味と、護衛もつけずに単独で外に出る彼女が心配になったのだ。
(確か、庭園に出たと思うのだが。彼女は何処に?)
足音を立てず、気配を消して探す。夜の庭園は、月明かりと炎の小妖精の力を借りた篝火に花々が照らされ、幻想的だった。噴水の水音が心地良い。
(あ、彼女だ!)
私は椿の木に隠れるようにして、噴水前で月を見上げるようにして立つ彼女を見つめた。彼女までの距離は3m程だろうか。
月の光に照らされたシャンパン色の髪は、まるで妖精の粉をかけたかのようにキラキラ輝いている。ふわふわとした綿菓子のような髪だ。白百合の髪飾りがよく似合っている。パステルグリーンのドレスが彼女の儚げで可憐な姿を引き立てていた。髪と同じシャンパン色の長い睫毛は大きな瞳を煙るように繊細に縁取っている。くっきりとした二重瞼、瞳の色は柔らかな紫色だった。さくらんぼを思わせる唇、桜色の頬、クリーム色の肌……どれを取っても神秘的で、美しいとしか思えなかった。彼女の容姿を否定的に言う奴らは、もし本当にそう感じているだとしたら美的感覚が狂っているに違いない。
(なんて幻想的な立ち姿なのだろう。まるで、宗教画に描かれている天使のようだ……)
取り分け、彼女の瞳の色に魅せられた。何処かで見た花の色に似ている。後で調べてみようと思った。
今にして思えば、その時既に彼女に惹かれていたのだと思う。
彼女がその場を後にするまで、息を詰めて見つめていた。
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