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第二話
縁結びの当て馬令嬢④
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それから眠れぬ日々が続いた。何を食べても砂を噛んでいるように感じ、必然的に食欲も落ちて行った。それでも学園にはしっかりと通い続けた。傍から見たら痛々しい事だっただろう。
家族や使用人、学園の教師、友人たちはとても心配してくれた。有難いと思った。けれども、鬱状態からの脱却とはならなかった。栄養失調で月のモノが止まってしまった事に愕然とし、「このまままではダメだ!」と一念発起。消化の良い食べ物を積極的に摂取する事から始めた。「しばらく自然豊かな場所で静養をしたらどうか?」と父と母に勧められたが、フォルティーネのプライドがそれを許さなかった。あんなビクター・ウィルの為に、貴重な人生を費やすのは非常に勿体ない。意地でも、以前よりパワフルになって復活してやる! そう決意した。
凡そ二か月で完全復活。ビクター・ウィルなんぞの事でメンタルにダメージを受けてしまった自分が滑稽に思えるようになった。冷静に俯瞰してみたら、イザベラ・モニカとお似合いの二人だった。人としてどうかと思う。
それから、積極的にお茶会や夜会に参加して新しい恋を……と意気込んだものの、物語のように上手くはいかないものだ。現実は非常に厳しかった。
別に、夜会で誰にも声をかけて貰えず『壁の花』令嬢となってしまった訳ではない。実際はその反対で、フォルティーネをダンスに誘い、そのまま交際を申し込もうとする男性が群がって来たのだ。それの何が問題なのか?
『リビアングラス侯爵の次女は兄姉に比べて平凡だけど、彼女と交際すると真実の愛の相手に巡り逢える』
フォルティーネが弱っている間、そのような噂が蔓延してしまったのだ。お茶会では令嬢たちから親しくなろうと列が出来、夜会ではダンスの誘いが列をなし……という状態となった。令嬢たちはフォルティーネと親しくする事で『運命のお相手』と出会う事を夢見て、令息たちはフォルティーネと交際する事で『ファム・ファタール』と出会う事を期待する。
誰も彼もが、フォルティーネ自身に好意を持ったりはしなかったのだ。
「社交界には人でなしばっかりしかおらんのかい、失礼ば奴らだ。地獄に堕ちやがれ!」
憤懣やるかたないフォルティーネは、心の中で罵った。けれども、同時にメンタルは鍛えられた。更に、
「私は『当て馬気質』なのだ。だから相思相愛の相手に巡り逢うのは諦めよう。近づいて来る奴らは全て、私を当て馬にしようとする奴らばかりだ、と警戒を怠らないようにしよう。そうだ、職業婦人を目指すのが幸せかもしれない」
そう思うようになって行った。それから、勉強により一層努力を重ねて行くようになる。けれども悲しいかな、その強化も満遍なく何とか上位に食い込むものの、トップレベルに到達する事はなかったし、何かに秀でる事も無かった。当然、そのような噂は家族の耳にも入る。だが、心配をして貰ってもどうしようもないのだ。却って虚しさだけが残った。
元婚約者、エリアス・テオ・ハイドランジア……未だ正式には婚約解消していないのだが……に出会ったのは、エーデルシュタイン帝国の建国記念パーティーでの事だった。彼はお隣のグラジオラス小国の大公として参加していた。
「全くけしからん奴らばかりだな、本当に腹が立つ! お前の事を何だと思ってるんだ!!」
皇帝はよくよく腹に据えかねた様子で口を挟んだ。
(おいおい、私と親しくすればαの自分も『魂の番』であるΩに出会えるかもしれない、て当て馬に利用する気満々なあなたに言われてもねぇ。お前が言うな、つーの!)
フォルティーネは内心で盛大なジャブをかましながら、
「お心遣いありがとうございます」
と、愛想笑いで応じた。
家族や使用人、学園の教師、友人たちはとても心配してくれた。有難いと思った。けれども、鬱状態からの脱却とはならなかった。栄養失調で月のモノが止まってしまった事に愕然とし、「このまままではダメだ!」と一念発起。消化の良い食べ物を積極的に摂取する事から始めた。「しばらく自然豊かな場所で静養をしたらどうか?」と父と母に勧められたが、フォルティーネのプライドがそれを許さなかった。あんなビクター・ウィルの為に、貴重な人生を費やすのは非常に勿体ない。意地でも、以前よりパワフルになって復活してやる! そう決意した。
凡そ二か月で完全復活。ビクター・ウィルなんぞの事でメンタルにダメージを受けてしまった自分が滑稽に思えるようになった。冷静に俯瞰してみたら、イザベラ・モニカとお似合いの二人だった。人としてどうかと思う。
それから、積極的にお茶会や夜会に参加して新しい恋を……と意気込んだものの、物語のように上手くはいかないものだ。現実は非常に厳しかった。
別に、夜会で誰にも声をかけて貰えず『壁の花』令嬢となってしまった訳ではない。実際はその反対で、フォルティーネをダンスに誘い、そのまま交際を申し込もうとする男性が群がって来たのだ。それの何が問題なのか?
『リビアングラス侯爵の次女は兄姉に比べて平凡だけど、彼女と交際すると真実の愛の相手に巡り逢える』
フォルティーネが弱っている間、そのような噂が蔓延してしまったのだ。お茶会では令嬢たちから親しくなろうと列が出来、夜会ではダンスの誘いが列をなし……という状態となった。令嬢たちはフォルティーネと親しくする事で『運命のお相手』と出会う事を夢見て、令息たちはフォルティーネと交際する事で『ファム・ファタール』と出会う事を期待する。
誰も彼もが、フォルティーネ自身に好意を持ったりはしなかったのだ。
「社交界には人でなしばっかりしかおらんのかい、失礼ば奴らだ。地獄に堕ちやがれ!」
憤懣やるかたないフォルティーネは、心の中で罵った。けれども、同時にメンタルは鍛えられた。更に、
「私は『当て馬気質』なのだ。だから相思相愛の相手に巡り逢うのは諦めよう。近づいて来る奴らは全て、私を当て馬にしようとする奴らばかりだ、と警戒を怠らないようにしよう。そうだ、職業婦人を目指すのが幸せかもしれない」
そう思うようになって行った。それから、勉強により一層努力を重ねて行くようになる。けれども悲しいかな、その強化も満遍なく何とか上位に食い込むものの、トップレベルに到達する事はなかったし、何かに秀でる事も無かった。当然、そのような噂は家族の耳にも入る。だが、心配をして貰ってもどうしようもないのだ。却って虚しさだけが残った。
元婚約者、エリアス・テオ・ハイドランジア……未だ正式には婚約解消していないのだが……に出会ったのは、エーデルシュタイン帝国の建国記念パーティーでの事だった。彼はお隣のグラジオラス小国の大公として参加していた。
「全くけしからん奴らばかりだな、本当に腹が立つ! お前の事を何だと思ってるんだ!!」
皇帝はよくよく腹に据えかねた様子で口を挟んだ。
(おいおい、私と親しくすればαの自分も『魂の番』であるΩに出会えるかもしれない、て当て馬に利用する気満々なあなたに言われてもねぇ。お前が言うな、つーの!)
フォルティーネは内心で盛大なジャブをかましながら、
「お心遣いありがとうございます」
と、愛想笑いで応じた。
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