【冷血皇帝の秘書官、フォルティーネの幸福】~この度、最愛の婚約者に「魂の番」が現れてしまいまして……~

大和撫子

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第二話

縁結びの当て馬令嬢②

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 「フォルティーネ、キシャマとのコンヤクをハキする! オレは『しんじつのアイ』にメザメたのだ!」

鬼の首を取ったように、と表現するのがこれほど適切な事はないだろう、突如不遜な言動を取る男子。茶色の髪と瞳を持つチャーミングな男の子だ。その彼に、恥ずかしそうに寄り添うおさげ髪の女の子が居る。

 四歳から六歳の男児と女児、八人程集まった『子供お茶会』の最中の事だった。唐突に始まった茶番劇(?)に字名指しで呼ばれ、フォルチューナは思考が追い付かずキョトンとして友達……だった筈の男子を見つめた。コケモモとカスタードクリームのパイが美味しくて堪能していた時だった。最初の内は、友達作りに励まなけれないけないのかと周りに合わせて行動していたが、回を重ねる毎にマイペースに過ごす事に怖さを感じなくなっていった。

 当時月に一、二回ほど、伯爵家や侯爵家の有志を募り子供同士で交流を図るという名目の元、実際は婦人たちの交流や情報交換が目的の会なのだ。子供たちの面倒は同行させている使用人や開催する場を設けた邸宅の使用人たちに任せ、子供たちも自由に振舞う事が暗黙の了解となっていたからだ。

 フォルティーネは友達とおしゃべりするよりも室内で閲覧が自由に許可された童話や絵本を読んだり、気に入ったスイーツや果物を食べて過ごす事を好んだ。

 (コンヤク? コンヤクってけっこんするヤクソク? のことだよね? あれ? でもあれってオトナどうしのジョーダンだったんじゃ……)

藪から棒に得意そうに叫んだ男子は、一つ年上のカルセドニー伯爵家の嫡男。名前をエルネスト・マックスと言う。フォルティーネの母親と彼の母親が学園での同期で、個人的に親しく交流が続いていた。その中での会話の流れで、両家との晩餐会が開かれた際、軽口で「フォルティーネとエルネスト、年齢的にもちょうど良いし、婚約者候補としてみたら良いのではないか?」という話が出たのは知ってはいた。エルネストとも互いに照れながらも話をしたり遊んだりしていた。けれども、未だほんの子供だし、恋愛だとか結婚だとかはよく分からない上にまだまだずっと先だと思っていた。

 何度目かのお茶会に参加している内に、同じ年ごろのクリスタリア伯爵家の三女メアリー・アンと親しくなった。ミルクチョコレート色の髪と瞳を持つ可愛らしい女の子だ。エルネストの事が気になり始めたようで彼と個人的に親交のあるフォルティーネを羨ましがるようになった。エルネストもメアリーが気になるようだが、照れがあるのか素直に話しかけては来ない。彼女と話したい時はフォルティーネを介して伝えて来る始末だ。彼がそんな事をする意味も分からないし、いい加減に面倒になったフォルティーネは、メアリーとエルネストを引き合わせて紹介してあげる事にした。それから二人は急速に仲良くなっていったようだが……?

 「ごめんなさい、フォルティーネさま。わたし、エルネストさまをスキになってしまったのです。いけないとしりながら……」
「いや、ワルイのはオレだ、オレが……」
「エルネストさま……」

 見つめ合って二人だけの世界を作る。子供たちも大人たちも、ポカンと寸劇を眺めていた。勿論フォルティーネもだ。どうして名指しされたのか不思議だった。

「あぁ、物語の真似ね?」

というフォルティーネの母親の一声で場が和んだ。

 「あ、そう。そうね。この手のお話って大昔からあった王道の一つよね」
「懐かしいわ、子供の頃絵本で母に呼んで貰ったわ」

焦って追従するエルネストの母とメアリーの母。その場は『物語ごっこ遊び』で何となく有耶無耶になった。当人同士も、皆の注目を浴びる事で満足したようで、その後は皆でトランプをしたりして遊んだ。フォルティーネも、あのまま続けられたら『メアリーを虐めた』だことの、ありもしない事を皆の前であげつらわれるは嫌な気がしたのでホッとした。

 少し成長して振り返ってみると、母親たちはさぞ肝を冷やした事だろう。仲良くしていると言っても、一応はフォルティーネの家柄の方が爵位が上なのだ。お茶会がお開きになった後、メアリーの母親とエルネストの母親から謝罪を受けた。フォルティーネの母には何度も頭を下げていたのが印象的だった。

 この後、エルネストとメアリーはずっと仲良く愛を育み、婚約。メアリーが成人を迎えた際に結婚した。式には二人を結びつけたキューピットとして呼ばれた。今でも二人はおしどり夫婦として通っている。

 その後は六歳の時、七歳の時、十歳の時……いずれも、最初はフォルティーネと仲良くしていた男子が、運命の相手を見つけるという事が続いて行った。子供の頃はそれで済んだし、フォルティーネも友達が幸せになれて良かった、としか感じなかった。恋愛方面に疎かったし、興味が無かったせいもあるだろう。

 自分が当て馬体質である、と明確に自覚したのは十三歳の時だった。それには痛みを伴い、苦い記憶として今も残っている。

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