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第一話
冷血皇帝のスカウト?
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フォルティーネは皇帝を目の前にして激しく動揺していた。漫画で描くなら、三頭身に変化、全身に滝のような汗を流しながら右往左往している場面だろう。
『え? 嘘? 何で帝国の皇帝がギルド街のど真ん中の公園に居るのよ? しかも護衛もつけずに単独でいるなんて有り得ない! その上、防音魔法を破って話しかけてくるなんて、これはきっと夢よ! そうよ、夢に違いないわ! いやいや、虫の居所はが悪くて問答無用で切りつけられたりしたらどうしましょう?』
と、まるで早口言葉のようにまくし立てながら。けれどもそこは幼い頃から積み重ねられて来た淑女教育の賜物、表面上は落ち着いて優雅に口角を上げ、流れるように美しい所作でベンチから立ち上がりカーテシーで応じる。
「帝国の永遠の太陽、ランハート・ルイ・ギベオン皇帝陛下に、リビアングラス侯爵の二番目の娘フォルティーネ・エマがご挨拶を申し上げます」
「いや、堅苦しい挨拶はいい」
皇帝は気にるなと言うように右手を軽く挙げ、当たり前のようにベンチに腰を下ろした。
「まぁ座れよ。気を楽にしてくれ」
隣に座るよう促され、逆らえる筈も無くフォルティーネは軽く会釈をして腰かけた。皇帝は右中指と親指をこすり合わせ、パチンと鳴らす。同時に周囲に白色に輝く魔法陣がいくつも空間に浮かび上がり、瞬きを三回ほどしたと同時に周りの景色が移り変わる。気づけば、やたらと座り心地の良いワインカラーのソファーに腰を下ろしていた。皇帝はと言えば、目前のガラステーブルを挟んで向かいのソファーに腰を下ろし、興味深そうにフォルティーネを見つめていた。テーブルの上には、旬の果物が食べやすいようにカットされたもの、同じく旬の果物をふんだんに使用した一口サイズのスイーツが美しく盛り付けられていた。純白のカップには、透き通った琥珀色の液体に満たされ微かに湯気が浮かんでいる。モスグリーンのカーペット、天井を飾る豪華なシャンデリア、ボルドーの重厚なカーテン、広い部屋。どれも見ても最高級のものばかりだ。
「瞬間移動というヤツさ。城内の特別応接室だ。防音とプロテクションの魔術がバッチリ掛けられているから何の心配もいらないさ」
皇帝はニヤリ笑う。どういう事なのか色々と質問攻めにしたいところだが、侯爵令嬢如きが許可も無く皇帝にそのような事を出来る筈もなく、諦めて成り行きに任せる事にした。
「さて、お前をここに呼び出したのは二人だけでじっくりと話したい事があったからだ。なに、お前にとって悪い話ではないから、そう緊張するな。発言は自由に許すから、リラックスしてくれ」
(……そうおっしゃいますが、だからと言って「はい、そうですかでは遠慮なく。では、どうして許可なく唐突に防音魔法を破って乱入、城内に瞬間移動なんてしたのですか? これ、拉致と変わりませんよね?」なんて言える訳ないでしょ)
フォルティーネは思いながら、アルカイックスマイルを浮かべた。勿論、心の中を読まれないように防御魔術をかける。しかし、この皇帝は相手では赤子の腕を捻るより容易く破られてしまうだろうけれど。何せ、武術・剣術・魔術共に神の領域と言われる存在なのだ。
「お気遣い、有難うございます。わたくしのような者に、お聞きになりたい事とは何でしょうか?」
皇帝は「ふふん」と面白そうに笑うと、身を乗り出す。
「お前、巷では『縁結びの当て馬令嬢』として有名だそうだな。お前と付き合うと『真実の愛』を捧げ合う相手に巡り合えるらしいな?」
(いきなり何を言い出すのよ?!)内心ムッと来つつも、フォルティーネは人好きのする笑みで応じた。
「ええ、もう本当に。新聞や情報掲示板のタイトル通りでございまして。お恥ずかしい話、幼い頃からどなたからも、ただの一度も『唯一無二の存在』として選ばれた事がございませんの。ええ、家族からも。容姿も才能も、そこそこの出来具合の平凡な人間ですから仕方ありませんわね。ですが老若男女問わず、わたくしを好きになってくださった方、親しくして頂いた方は必ず運命の出会いを果たして幸せになりますの。あ、それでもタロット占いだけは誰にも負けないと自負しております。それでも今回こそは相思相愛、狼系獣人族は一途伴侶を愛しぬくという性質がありますし、幸せになれると思っていたのですが……」
今さら隠し立てするには些か話が広まり過ぎてしまった。これ以上言われる前に自分から話してしまおうと思った。
「ふん、そうか。お前と係わった者は栄光と至福の道を行くという事か。ならば、αであるの俺にも『魂の番』と出会うかもしれぬ、と。それならお前、この俺の秘書官になれ!」
「はい???」
余りにも唐突過ぎる命令に思考がついて行けず、淑女らしからぬ素っ頓狂な声を上げてしまった。
さてここで、この物語の【世界観】について簡単に触れておこう。
西暦30××年。環境破壊、少子化……文字通り地球滅亡の危機に陥った人類は、生き残りをかけ「失われた古代魔法」や精霊、動物の繁殖性について研究に研究を重ねた。結果、化学や科学に取って代わって魔法が使用されるようになり、男性もΩなら妊娠出産が可能となった。
よって、人類はα、Ωの性を持つ獣人族、人間であるβ、そして精霊の血を引く精霊人θの三つの種族に分類される事となった。うち、Ωは男性でも出産可能な特殊な獣人族、αは全ての種族を超越してあらゆる事に秀でた能力の持ち主としてΩ、αともに特異で希少価値の高いとして特別視されている。中でも、αとΩには『魂の番』と呼ばれる「運命の赤い糸」が存在すると言われていた。しかし、これは最早御伽噺と言われるほど不可能に近く伝説扱いとなっていた。
日常生活に必要な原動力は全て魔法に取って代わる事となった。生活魔法に必要な魔力を供給するのは、十歳の誕生日を迎えた日を境に皇族や貴族の役割となっている。魔法が使えないものは、何らかの能力を生かして人類に貢献する事が義務付けられていた。
今はこの辺りにして、先に話を進めて行こう。
『え? 嘘? 何で帝国の皇帝がギルド街のど真ん中の公園に居るのよ? しかも護衛もつけずに単独でいるなんて有り得ない! その上、防音魔法を破って話しかけてくるなんて、これはきっと夢よ! そうよ、夢に違いないわ! いやいや、虫の居所はが悪くて問答無用で切りつけられたりしたらどうしましょう?』
と、まるで早口言葉のようにまくし立てながら。けれどもそこは幼い頃から積み重ねられて来た淑女教育の賜物、表面上は落ち着いて優雅に口角を上げ、流れるように美しい所作でベンチから立ち上がりカーテシーで応じる。
「帝国の永遠の太陽、ランハート・ルイ・ギベオン皇帝陛下に、リビアングラス侯爵の二番目の娘フォルティーネ・エマがご挨拶を申し上げます」
「いや、堅苦しい挨拶はいい」
皇帝は気にるなと言うように右手を軽く挙げ、当たり前のようにベンチに腰を下ろした。
「まぁ座れよ。気を楽にしてくれ」
隣に座るよう促され、逆らえる筈も無くフォルティーネは軽く会釈をして腰かけた。皇帝は右中指と親指をこすり合わせ、パチンと鳴らす。同時に周囲に白色に輝く魔法陣がいくつも空間に浮かび上がり、瞬きを三回ほどしたと同時に周りの景色が移り変わる。気づけば、やたらと座り心地の良いワインカラーのソファーに腰を下ろしていた。皇帝はと言えば、目前のガラステーブルを挟んで向かいのソファーに腰を下ろし、興味深そうにフォルティーネを見つめていた。テーブルの上には、旬の果物が食べやすいようにカットされたもの、同じく旬の果物をふんだんに使用した一口サイズのスイーツが美しく盛り付けられていた。純白のカップには、透き通った琥珀色の液体に満たされ微かに湯気が浮かんでいる。モスグリーンのカーペット、天井を飾る豪華なシャンデリア、ボルドーの重厚なカーテン、広い部屋。どれも見ても最高級のものばかりだ。
「瞬間移動というヤツさ。城内の特別応接室だ。防音とプロテクションの魔術がバッチリ掛けられているから何の心配もいらないさ」
皇帝はニヤリ笑う。どういう事なのか色々と質問攻めにしたいところだが、侯爵令嬢如きが許可も無く皇帝にそのような事を出来る筈もなく、諦めて成り行きに任せる事にした。
「さて、お前をここに呼び出したのは二人だけでじっくりと話したい事があったからだ。なに、お前にとって悪い話ではないから、そう緊張するな。発言は自由に許すから、リラックスしてくれ」
(……そうおっしゃいますが、だからと言って「はい、そうですかでは遠慮なく。では、どうして許可なく唐突に防音魔法を破って乱入、城内に瞬間移動なんてしたのですか? これ、拉致と変わりませんよね?」なんて言える訳ないでしょ)
フォルティーネは思いながら、アルカイックスマイルを浮かべた。勿論、心の中を読まれないように防御魔術をかける。しかし、この皇帝は相手では赤子の腕を捻るより容易く破られてしまうだろうけれど。何せ、武術・剣術・魔術共に神の領域と言われる存在なのだ。
「お気遣い、有難うございます。わたくしのような者に、お聞きになりたい事とは何でしょうか?」
皇帝は「ふふん」と面白そうに笑うと、身を乗り出す。
「お前、巷では『縁結びの当て馬令嬢』として有名だそうだな。お前と付き合うと『真実の愛』を捧げ合う相手に巡り合えるらしいな?」
(いきなり何を言い出すのよ?!)内心ムッと来つつも、フォルティーネは人好きのする笑みで応じた。
「ええ、もう本当に。新聞や情報掲示板のタイトル通りでございまして。お恥ずかしい話、幼い頃からどなたからも、ただの一度も『唯一無二の存在』として選ばれた事がございませんの。ええ、家族からも。容姿も才能も、そこそこの出来具合の平凡な人間ですから仕方ありませんわね。ですが老若男女問わず、わたくしを好きになってくださった方、親しくして頂いた方は必ず運命の出会いを果たして幸せになりますの。あ、それでもタロット占いだけは誰にも負けないと自負しております。それでも今回こそは相思相愛、狼系獣人族は一途伴侶を愛しぬくという性質がありますし、幸せになれると思っていたのですが……」
今さら隠し立てするには些か話が広まり過ぎてしまった。これ以上言われる前に自分から話してしまおうと思った。
「ふん、そうか。お前と係わった者は栄光と至福の道を行くという事か。ならば、αであるの俺にも『魂の番』と出会うかもしれぬ、と。それならお前、この俺の秘書官になれ!」
「はい???」
余りにも唐突過ぎる命令に思考がついて行けず、淑女らしからぬ素っ頓狂な声を上げてしまった。
さてここで、この物語の【世界観】について簡単に触れておこう。
西暦30××年。環境破壊、少子化……文字通り地球滅亡の危機に陥った人類は、生き残りをかけ「失われた古代魔法」や精霊、動物の繁殖性について研究に研究を重ねた。結果、化学や科学に取って代わって魔法が使用されるようになり、男性もΩなら妊娠出産が可能となった。
よって、人類はα、Ωの性を持つ獣人族、人間であるβ、そして精霊の血を引く精霊人θの三つの種族に分類される事となった。うち、Ωは男性でも出産可能な特殊な獣人族、αは全ての種族を超越してあらゆる事に秀でた能力の持ち主としてΩ、αともに特異で希少価値の高いとして特別視されている。中でも、αとΩには『魂の番』と呼ばれる「運命の赤い糸」が存在すると言われていた。しかし、これは最早御伽噺と言われるほど不可能に近く伝説扱いとなっていた。
日常生活に必要な原動力は全て魔法に取って代わる事となった。生活魔法に必要な魔力を供給するのは、十歳の誕生日を迎えた日を境に皇族や貴族の役割となっている。魔法が使えないものは、何らかの能力を生かして人類に貢献する事が義務付けられていた。
今はこの辺りにして、先に話を進めて行こう。
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