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第六話

え? 初デートは異世界で?・その三

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「確か、心療内科もなさってましたよね」

 このところ、一日か二日おきのペースでやってくる彼。ハウスに居ると出現する。仕事はどうしているのだろうか疑問に感じていた。

「そうそう、まだ具体的に仕事の事は話してなかったね。月金土がスクールカウンセラーで、火水が心療内科、まぁ、駅前にあるんだけど雇われてる感じだね。だからきっちり時間が決められてるんだよ。で、木日が完全オフなんだ。」

「なるほど、それで一日おきか二日おきくらいにこちらに……」

「早くそなたなに会いたくてね」

 と、彼は例の屈託の無い笑顔を向けた。まるで少年のようにピュアで、はにかんだような……。その笑みを見ると、毎回赤面してしまう。そこで毎度ながら、両手で両頬を覆う。だが、

……御縁があれば、近づけるでしょう……

 ふと、先ほどの姉との会話が思い浮かぶ。  

(姉が興味を持ったようです、て伝えるべきかしら? でも……)

 そんな薔子を、志門は心配そうに見つめる。

「どうした? 何か気掛かりな事でもあるのかい?」
「え? あ、いいえ。さっき姉と話してて」
「姉上と?」
「はい。それで、姉が先生に興味が湧いたみたいで色々聞かれたんですけど、流しちゃいました」
(やだ、口が勝手に……)

 問われるまま話している自分に慌てる。彼は少し意外そうな表情を浮かべるも、すぐに元の笑顔に戻る。

「ははは、まぁ、流すより無いよね。まさかベジタリアンなヴァンパイアで……なんて話せる訳無いしさ。大丈夫、姉上に乗り換えたりなんかしないよ。私はそなた意外興味無いしさ」

 さらりと言ってのこる志門に、薔子はドキッと鼓動が一つ跳ね上がる。

(うわ、相当な遊び人なんだ、やっぱり……)

 舞い上がらぬよう、そう自分に言い聞かせた。彼はそんな彼女を面白そうに見つめながら切り出した。

「さて、今日はデートの誘いに来たんだよ」
「えっ? デート?」

 薔子は目を見開いて、素っ頓狂な声を上げる。

「うん。毎回ここで話すのも悪くないけど、やっぱりお出かけもしたいしね」
「そ、そりゃ……そうですけと、でも……せ、生徒と学園の職員で、ていうのはマズイんじゃ……」

 薔子は熱く火照った頬を両手で覆いながらしどろもどろにこたえた。彼の話に乗ってしまっている自分に驚く。

「そうだね。大っぴらに出歩いていたら色々と宜しくないね。だから、別世界でデートしようと思うんだ」

 嬉しそうに言う彼。

「べ、別世界?」
「うん、異世界とも言うかな。外国でデートしても、誰がどんな繋がりで見られるか計り知れないしね。異世界の方が安全かな、て思うんだ」

「い、異世界って! それってフィクションやファンタジーの話じゃ……」
「まぁ、にわかには信じたいと思うけど、意外にあるんだよ。都市伝説の一部とか、謎の神隠しとかね」

「え……?」
「詳しくは、ゆっくり説明していくよ。初デートなんだけど、今度の日曜日はどうかな?」

「……特に何の予定も無い、ですけど……」
(早朝、空手の稽古した後は乙女ゲーム三昧にする予定だったんだけど……。こういう時、すぐにO.Kしたら相手に付け上がられるから焦らせ、て恋愛マニュアルには書かれてたけど、どうなんだろう。て、もうこたえてるし!)

 薔子は自分に突っ込みながらも、ワクワクしていた。

「良かった。じゃ、今度の日曜日、午前11時頃ここに迎えに来るけど、時間は大丈夫かな?」
「あ、はい。大丈夫です」
「じゃ、楽しみにしてるね。じゃあまた! 日曜日に!」

 彼は満面の笑みを浮かべると、スッと空気に溶け込むようにして消えた。また、あの若草の香りが微かな風に乗って薔子に届いた。

「これって、初デートの約束……」

 ポツリと呟く。
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