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第一話
モブキャラ喪女その名は薔子・その三
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昔から美人の姉、可愛い妹に近づきたい男女は沢山いた。二人とも幼い頃から子役として芸能界に入っていた為、近づきたい理由は必ずしも純粋な想いからでは無い者も少なくなかった。薔子自身は何も姉妹三人全員が幼稚園から大学院までエスカレート方式のお坊っちゃま、お嬢様学園になど入りたくはなかったのだが。薔子とて、わざわざ姉妹格差を晒すのは嫌であった。けれども、両親は俳優という仕事柄休みも帰宅も不規則だ。故に姉妹三人がまとめて管理しやすい学園を選んだらしい。
お陰で、自然に姉と妹に悪い虫がつかないように見張る役目を担うようになってしまったのだった。
「それは素敵なアイデアだわ!」「薔子が麗華と蕾に近づく男どもを蹴散らす役目を追ってくれるなら安心だ!」
両親は手放しで喜んだものだ。そんなに喜ばれたのは生まれて初めてで、嬉しくてついつい承諾してしまった。そして両親に勧められるままに合気道や空手、なぎなたを身に着ける事になった。余程の手練れでない限り、姉と妹に不埒な奴らが襲ってきても撃退出来る程の腕前にはなった。と言っても、その道で抜きんでたりする事はなかったが、そこは彼女の言葉を借りるとモブキャラだから仕方無いのだそうだ。
今でもほぼ毎朝、そして週二回ほどの稽古は続けている。お陰でスリムな体型を保てているのだ。沢山食べても太りにくいのも良い。……と、このような思考のポジティブさが「新しいタイプのモブキャラ喪女」という根拠らしい。
どうやら電車に乗って帰宅するようだ。学園の最寄り駅の改札を入っていく。ちなみに、麗華も蕾も通学下校共に武永家の専属運転手が迎えに来る。芸能界の仕事をしているのと、二人の見目が麗し過ぎる理由から護衛も兼ねて。
電車に乗ると、まずは邪魔にならぬよう端の方でひっそりと立つ。場所が空いていない時は仕方がないが、その場合はなるべく邪魔にならないような場所でひっそりと立つ。鍛えているお陰でつり革につかまらないでも安定して立てるのは利点だ。
混雑して周りの迷惑になる場合でなければ、携帯で漫画や小説を読むのが日課になっている。学園から自宅最寄り駅までおよそ40分、乗り変えは一度。夢中になって読んでいるとあっと言う間に乗り過ごしてしまうのだが……。何度もやらかしている事である。
このように薔子は、モブキャラ喪女としての分をわきまえて生活を送っていた。
(おっ! これってヤキモチじゃん。やったぁ、意識し始めた!)
涼し気な表情で携帯画面を見つめながら、漫画の世界にどっぷりと浸かっていた。今読んでいるのは連載中の少女漫画で、高校性のモブキャラ女子が、学年一のモテモテ男子に秘かに恋をしているお話だ。ヒロインは、最初から片想いだと諦めているのだが、男子の方も何故か彼女が気になって……という感じで、最終的にはくっつくだろう、と予測のつくモブ王道恋愛物らしい。周りを固める脇役が、ハイスペックなイケメンや美少女という今までと真逆のキャスティングだ。ここ数年、着実に増えて来ているストーリーである。
(普通、この手の物語のヒロインはブスで地味設定にも関わらず可愛らしい、て言うのがおきまりなんだけど、これは本当にヒロインが地味で不美人に書かれているところが萌えキュンポイントよね)
と薔子は分析している。そろそろ乗り変えの駅だ。栞を挟んで携帯をバッグにしまった。
お陰で、自然に姉と妹に悪い虫がつかないように見張る役目を担うようになってしまったのだった。
「それは素敵なアイデアだわ!」「薔子が麗華と蕾に近づく男どもを蹴散らす役目を追ってくれるなら安心だ!」
両親は手放しで喜んだものだ。そんなに喜ばれたのは生まれて初めてで、嬉しくてついつい承諾してしまった。そして両親に勧められるままに合気道や空手、なぎなたを身に着ける事になった。余程の手練れでない限り、姉と妹に不埒な奴らが襲ってきても撃退出来る程の腕前にはなった。と言っても、その道で抜きんでたりする事はなかったが、そこは彼女の言葉を借りるとモブキャラだから仕方無いのだそうだ。
今でもほぼ毎朝、そして週二回ほどの稽古は続けている。お陰でスリムな体型を保てているのだ。沢山食べても太りにくいのも良い。……と、このような思考のポジティブさが「新しいタイプのモブキャラ喪女」という根拠らしい。
どうやら電車に乗って帰宅するようだ。学園の最寄り駅の改札を入っていく。ちなみに、麗華も蕾も通学下校共に武永家の専属運転手が迎えに来る。芸能界の仕事をしているのと、二人の見目が麗し過ぎる理由から護衛も兼ねて。
電車に乗ると、まずは邪魔にならぬよう端の方でひっそりと立つ。場所が空いていない時は仕方がないが、その場合はなるべく邪魔にならないような場所でひっそりと立つ。鍛えているお陰でつり革につかまらないでも安定して立てるのは利点だ。
混雑して周りの迷惑になる場合でなければ、携帯で漫画や小説を読むのが日課になっている。学園から自宅最寄り駅までおよそ40分、乗り変えは一度。夢中になって読んでいるとあっと言う間に乗り過ごしてしまうのだが……。何度もやらかしている事である。
このように薔子は、モブキャラ喪女としての分をわきまえて生活を送っていた。
(おっ! これってヤキモチじゃん。やったぁ、意識し始めた!)
涼し気な表情で携帯画面を見つめながら、漫画の世界にどっぷりと浸かっていた。今読んでいるのは連載中の少女漫画で、高校性のモブキャラ女子が、学年一のモテモテ男子に秘かに恋をしているお話だ。ヒロインは、最初から片想いだと諦めているのだが、男子の方も何故か彼女が気になって……という感じで、最終的にはくっつくだろう、と予測のつくモブ王道恋愛物らしい。周りを固める脇役が、ハイスペックなイケメンや美少女という今までと真逆のキャスティングだ。ここ数年、着実に増えて来ているストーリーである。
(普通、この手の物語のヒロインはブスで地味設定にも関わらず可愛らしい、て言うのがおきまりなんだけど、これは本当にヒロインが地味で不美人に書かれているところが萌えキュンポイントよね)
と薔子は分析している。そろそろ乗り変えの駅だ。栞を挟んで携帯をバッグにしまった。
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