上 下
4 / 49
第一話

モブキャラ喪女その名は薔子・その三

しおりを挟む
 昔から美人の姉、可愛い妹に近づきたい男女は沢山いた。二人とも幼い頃から子役として芸能界に入っていた為、近づきたい理由は必ずしも純粋な想いからでは無い者も少なくなかった。薔子自身は何も姉妹三人全員が幼稚園から大学院までエスカレート方式のお坊っちゃま、お嬢様学園になど入りたくはなかったのだが。薔子とて、わざわざ姉妹格差を晒すのは嫌であった。けれども、両親は俳優という仕事柄休みも帰宅も不規則だ。故に姉妹三人がまとめて管理しやすい学園を選んだらしい。

 お陰で、自然に姉と妹に悪い虫がつかないように見張る役目を担うようになってしまったのだった。

「それは素敵なアイデアだわ!」「薔子が麗華と蕾に近づく男どもを蹴散らす役目を追ってくれるなら安心だ!」

 両親は手放しで喜んだものだ。そんなに喜ばれたのは生まれて初めてで、嬉しくてついつい承諾してしまった。そして両親に勧められるままに合気道や空手、なぎなたを身に着ける事になった。余程の手練れでない限り、姉と妹に不埒な奴らが襲ってきても撃退出来る程の腕前にはなった。と言っても、その道で抜きんでたりする事はなかったが、そこは彼女の言葉を借りるとモブキャラだから仕方無いのだそうだ。

 今でもほぼ毎朝、そして週二回ほどの稽古は続けている。お陰でスリムな体型を保てているのだ。沢山食べても太りにくいのも良い。……と、このような思考のポジティブさが「新しいタイプのモブキャラ喪女」という根拠らしい。

 どうやら電車に乗って帰宅するようだ。学園の最寄り駅の改札を入っていく。ちなみに、麗華も蕾も通学下校共に武永家の専属運転手が迎えに来る。芸能界の仕事をしているのと、二人の見目が麗し過ぎる理由から護衛も兼ねて。

  電車に乗ると、まずは邪魔にならぬよう端の方でひっそりと立つ。場所が空いていない時は仕方がないが、その場合はなるべく邪魔にならないような場所でひっそりと立つ。鍛えているお陰でつり革につかまらないでも安定して立てるのは利点だ。

 混雑して周りの迷惑になる場合でなければ、携帯で漫画や小説を読むのが日課になっている。学園から自宅最寄り駅までおよそ40分、乗り変えは一度。夢中になって読んでいるとあっと言う間に乗り過ごしてしまうのだが……。何度もやらかしている事である。

 このように薔子は、モブキャラ喪女としての分をわきまえて生活を送っていた。

(おっ! これってヤキモチじゃん。やったぁ、意識し始めた!)

 涼し気な表情で携帯画面を見つめながら、漫画の世界にどっぷりと浸かっていた。今読んでいるのは連載中の少女漫画で、高校性のモブキャラ女子が、学年一のモテモテ男子に秘かに恋をしているお話だ。ヒロインは、最初から片想いだと諦めているのだが、男子の方も何故か彼女が気になって……という感じで、最終的にはくっつくだろう、と予測のつくモブ王道恋愛物らしい。周りを固める脇役が、ハイスペックなイケメンや美少女という今までと真逆のキャスティングだ。ここ数年、着実に増えて来ているストーリーである。

(普通、この手の物語のヒロインはブスで地味設定にも関わらず可愛らしい、て言うのがおきまりなんだけど、これは本当にヒロインが地味で不美人に書かれているところが萌えキュンポイントよね)

 と薔子は分析している。そろそろ乗り変えの駅だ。栞を挟んで携帯をバッグにしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

カオスシンガース

あさきりゆうた
ライト文芸
「君、いい声してるね、私とやらない?」  自分(塩川 聖夢)は大学入学早々、美しい女性、もとい危ない野郎(岸 或斗)に強引にサークルへと勧誘された。  そして次々と集まる個性的なメンバー。  いままでにない合唱団を立ち上げるために自分と彼女(♂)の物語は始まる。  歌い手なら知っておきたい知識、雑学、秋田県の日常を小説の中で紹介しています。  筆者の合唱経験を活かして、なるべくリアルに書いております。  青春ものな合唱のイメージをぶっ壊したくてこのお話を書いております。 2023.01.14  あとがきを書きました。興味あれば読んでみてください。

ガラスの世代

大西啓太
ライト文芸
日常生活の中で思うがままに書いた詩集。ギタリストがギターのリフやギターソロのフレーズやメロディを思いつくように。

神様のボートの上で

shiori
ライト文芸
”私の身体をあなたに託しました。あなたの思うように好きに生きてください” (紹介文)  男子生徒から女生徒に入れ替わった男と、女生徒から猫に入れ替わった二人が中心に繰り広げるちょっと刺激的なサスペンス&ラブロマンス!  (あらすじ)  ごく平凡な男子学生である新島俊貴はとある昼休みに女子生徒とぶつかって身体が入れ替わってしまう  ぶつかった女子生徒、進藤ちづるに入れ替わってしまった新島俊貴は夢にまで見た女性の身体になり替わりつつも、次々と事件に巻き込まれていく  進藤ちづるの親友である”佐伯裕子”  クラス委員長の”山口未明”  クラスメイトであり新聞部に所属する”秋葉士郎”  自分の正体を隠しながら進藤ちづるに成り代わって彼らと慌ただしい日々を過ごしていく新島俊貴は本当の自分の机に進藤ちづるからと思われるメッセージを発見する。    そこには”私の身体をあなたに託しました。どうかあなたの思うように好きに生きてください”と書かれていた ”この入れ替わりは彼女が自発的に行ったこと?” ”だとすればその目的とは一体何なのか?”  多くの謎に頭を悩ませる新島俊貴の元に一匹の猫がやってくる、言葉をしゃべる摩訶不思議な猫、その正体はなんと自分と入れ替わったはずの進藤ちづるだった

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

チェイス★ザ★フェイス!

松穂
ライト文芸
他人の顔を瞬間的に記憶できる能力を持つ陽乃子。ある日、彼女が偶然ぶつかったのは派手な夜のお仕事系男女。そのまま記憶の奥にしまわれるはずだった思いがけないこの出会いは、陽乃子の人生を大きく軌道転換させることとなり――……騒がしくて自由奔放、風変わりで自分勝手な仲間たちが営む探偵事務所で、陽乃子が得るものは何か。陽乃子が捜し求める “顔” は、どこにあるのか。 ※この作品は完全なフィクションです。 ※他サイトにも掲載しております。 ※第1部、完結いたしました。

サイケデリック・ブルース・オルタナティブ・パンク!

大西啓太
ライト文芸
日常生活全般の中で自然と生み出された詩集。

コンプレックス

悠生ゆう
恋愛
創作百合。 新入社員・野崎満月23歳の指導担当となった先輩は、無口で不愛想な矢沢陽20歳だった。

処理中です...