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第十九話
波乱の幕開け・弐
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「あ・え・い・う・え・お・あ・お・か・け・き・く・け・こ・か・こ・さ・せ・し・す……」
舞台より響き渡る声。綺麗に揃っている。まずは先輩たちが見本を見せているのだ。
(うわぁ、こうして声を揃えて発声練習。直に聞くと迫力あるなぁ)
床がブルブルと震えるほどに響く声に、真凛は圧倒されている。経験者である四人組女子や太陽には当たり前の事なのだろう。ただ落ち着いて見ている。壮吾もかなり落ち着いて見ている。何かでみた事があるのかもしれないし、元来、ちょっとやそっとでは動じない器の持ち主にも思える。
「……こんな感じで、まずは基礎の発声練習と滑舌の稽古から始めます。今年の一年生は、経験者が多くいますから。一度チェックして経験組と初心者に分けて稽古していきます。発声、滑舌に関してはある程度出来るようになるまではわかれてやっていきます」
爽子が一年を集めてそう説明する。どうやら彼女はマネージャーと指導役を任されているらしい。真凛は
(爽子先輩、ポニーテールがトレードマークって感じで。快活そうでキュートな先輩だなぁ)
等と意外にものんびりと構えていた。端から初心者で上手く出きる筈もない為、開き直っているようだ。部活が始まる前は、ほぼ同時にやってきた壮吾と共に掃除をし、終わる頃やって来る女子四人組と太陽と共に先輩たちを迎え挨拶。体調は大丈夫なのか部長や副部長に真っ先に心配して貰って、面食らって恐縮した事以外はスムーズに事が運んだ。女子四人組と太陽の視線が怖かったが、敢えて気づかないふりを決めこむ事にして意識の彼方へとおいやったのだった。
「……た・て・ち・つ・て・と・た・と・な・ね・に・ぬ・ね・の・な・の……」
次々とクリアしていく女子四人組と太陽。
(多分、元々の声が大きくてよく通るから。壮吾君もクリアしちゃうだろうな)
「うん、壮吾君も大丈夫みたいだね」
(ほーら、やっぱり。ちょっと直されただけですぐに覚えてクリアしちゃったし)
最早、自分がヒロインに抜擢された事などすっかりと頭から抜けているようだ。……無理もない。今まで良い意味で抜擢された経験が皆無なのだ。
(爽子先輩と一対一の方が気楽で良いや)
と、こんな感じで気楽そうだ……。
「では、久川さん。やってみましょうか。まずは発声の仕方を教える前に、一度声を出してみましょう」
ついに真凛の番だ。
「は、はい。宜しくお願いします」
ぺこりと頭を下げる。爽子はニコニコしながら姿勢を正し、顎を引いた。
「まずやってみるね」
「はい」
「あーーーーーーーーーーーーーーーーーーー……」
地声が高めなので意外に感じたが、思ったより低めの張りのある声で息の続く限り発声した。
(うわぁ、長い! 肺活量凄いんだぁ)
真凛はただ圧倒された。一分近く声は滑らかに響き、自然にフェイドアウトすうように消えた。
「こんな感じで、全然無理をしなくて良いし、出来なくても良いから、やってみて貰えるかな?」
爽子の笑顔に釣られて口元が自然に綻ぶ。他の一年は先輩たちに混じって早口言葉を発声してる。
「はい!」
と返事をすると大きく息を吸い込んだ。そして
「あーーー……」
と、期待していないとはいえ本人もがっかりする程の小さな声で数秒で掻き消えた。
クスリ、と冷笑する近くにいた一部の先輩たち。ジロリと冷たい視線を向ける四人組女子に太陽。
『あんなんで本当に学祭のヒロイン役に出来るの?』
『間に合わないと思うんだけど』
先輩たちの囁く声。悪い意味で注目を集め、全身から冷や汗が吹き出した。ヒロインに抜擢された事は夢ではなかったのだと思い知り、今更ながら責任重大で明らかに力量不足である事を今更のように感じた。呑気で軽率な自分を恥じた。穴があったら入りたかった。
舞台より響き渡る声。綺麗に揃っている。まずは先輩たちが見本を見せているのだ。
(うわぁ、こうして声を揃えて発声練習。直に聞くと迫力あるなぁ)
床がブルブルと震えるほどに響く声に、真凛は圧倒されている。経験者である四人組女子や太陽には当たり前の事なのだろう。ただ落ち着いて見ている。壮吾もかなり落ち着いて見ている。何かでみた事があるのかもしれないし、元来、ちょっとやそっとでは動じない器の持ち主にも思える。
「……こんな感じで、まずは基礎の発声練習と滑舌の稽古から始めます。今年の一年生は、経験者が多くいますから。一度チェックして経験組と初心者に分けて稽古していきます。発声、滑舌に関してはある程度出来るようになるまではわかれてやっていきます」
爽子が一年を集めてそう説明する。どうやら彼女はマネージャーと指導役を任されているらしい。真凛は
(爽子先輩、ポニーテールがトレードマークって感じで。快活そうでキュートな先輩だなぁ)
等と意外にものんびりと構えていた。端から初心者で上手く出きる筈もない為、開き直っているようだ。部活が始まる前は、ほぼ同時にやってきた壮吾と共に掃除をし、終わる頃やって来る女子四人組と太陽と共に先輩たちを迎え挨拶。体調は大丈夫なのか部長や副部長に真っ先に心配して貰って、面食らって恐縮した事以外はスムーズに事が運んだ。女子四人組と太陽の視線が怖かったが、敢えて気づかないふりを決めこむ事にして意識の彼方へとおいやったのだった。
「……た・て・ち・つ・て・と・た・と・な・ね・に・ぬ・ね・の・な・の……」
次々とクリアしていく女子四人組と太陽。
(多分、元々の声が大きくてよく通るから。壮吾君もクリアしちゃうだろうな)
「うん、壮吾君も大丈夫みたいだね」
(ほーら、やっぱり。ちょっと直されただけですぐに覚えてクリアしちゃったし)
最早、自分がヒロインに抜擢された事などすっかりと頭から抜けているようだ。……無理もない。今まで良い意味で抜擢された経験が皆無なのだ。
(爽子先輩と一対一の方が気楽で良いや)
と、こんな感じで気楽そうだ……。
「では、久川さん。やってみましょうか。まずは発声の仕方を教える前に、一度声を出してみましょう」
ついに真凛の番だ。
「は、はい。宜しくお願いします」
ぺこりと頭を下げる。爽子はニコニコしながら姿勢を正し、顎を引いた。
「まずやってみるね」
「はい」
「あーーーーーーーーーーーーーーーーーーー……」
地声が高めなので意外に感じたが、思ったより低めの張りのある声で息の続く限り発声した。
(うわぁ、長い! 肺活量凄いんだぁ)
真凛はただ圧倒された。一分近く声は滑らかに響き、自然にフェイドアウトすうように消えた。
「こんな感じで、全然無理をしなくて良いし、出来なくても良いから、やってみて貰えるかな?」
爽子の笑顔に釣られて口元が自然に綻ぶ。他の一年は先輩たちに混じって早口言葉を発声してる。
「はい!」
と返事をすると大きく息を吸い込んだ。そして
「あーーー……」
と、期待していないとはいえ本人もがっかりする程の小さな声で数秒で掻き消えた。
クスリ、と冷笑する近くにいた一部の先輩たち。ジロリと冷たい視線を向ける四人組女子に太陽。
『あんなんで本当に学祭のヒロイン役に出来るの?』
『間に合わないと思うんだけど』
先輩たちの囁く声。悪い意味で注目を集め、全身から冷や汗が吹き出した。ヒロインに抜擢された事は夢ではなかったのだと思い知り、今更ながら責任重大で明らかに力量不足である事を今更のように感じた。呑気で軽率な自分を恥じた。穴があったら入りたかった。
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