「堅香子」~春の妖精~

大和撫子

文字の大きさ
上 下
17 / 38
第十四話

雑草のように……

しおりを挟む
 その後は、最後の7番の女子が自己紹介を終え、仮入部の女子たちを集めて先輩部員一人一人の自己紹介が行われた。

(お名前とお顔、いっぺんには覚えられないけど。でも、これから三カ月ほど新入生も先輩もみんな学年と組とフルネームが書かれた名札を部活中はつけている、ていうし。なんとかなりそう)

 真凛は思った。そして配られたのは、白い紙と油性ペンに安全ピンのついたクリアな名札入れだった。舞台の端にそれぞれが自由に散らばり、名札に『1-B 久川真凛《ひさかわまりん》』と書く。仮入部の女子たちは元々仲良しで誘い合わせてきたらしいし、入部希望の女子たち四人は既に仲良しグループになっていた。壮吾と太陽は会話を交わす事なく、単独のようだ。

(もうグループが出来上がってる。……いつもの事で、私は入り損ねというか既に空気と化して忘れられてるという感じか。昔からそう。時々、担任から名前呼ばれ忘れたりされてきたし。いつもの事か。そうご君と太陽君は、正反対の性格っぽいし。元々別のクラスだしそうつるまなそう)

 真凛は妙に冷静に周りと自分を分析していた。

(自己紹介、そうご君に助けて貰って部長にも助けられて。私には生まれて初めて赤の他人に庇ったりフォローして貰えて。奇跡体験だよこれって。お陰で私にしてみたら自己紹介も出来たし。上出来上出来。……憧れだった『高校デビュー』には程遠いけど、頑張った! 偉いぞ、私)

 自画自賛する。どうやら心に余裕が出来たようだ。それで冷静に周りを見られるようになったらしい。

「では、これから部活の時はTシャツもしくはジャージの左胸にこのネームプレートをつけるようにして下さい」

 部長はそう言って自ら率先して名札をつけた。全員、それに倣う。

「さて、入部希望の皆さんと仮入部の皆さん。今日はこの後全員で軽くストレッチをして終わりにします。明日からは校内指定Tシャツとジャージで参加するようにしてください。解散後に、部室兼更衣室が男女別にありますから、そこへ案内します。着替えや荷物置き場はそこを利用してください。部活は基本的に月・火・水・金の放課後、およそ二時間、第二第四土曜日の午前9時からおよそ二時間から三時間。休憩は随時挟みます。但し学園祭やコンクールなどは近い時は練習時間や曜日は増えますし、テスト期間中はお休みにしたり稽古時間を短縮したりしますので、その都度指示します。一年生は始まる前と終わった後に舞台と舞台裏の床掃除を軽くお願いします。このあと更衣室に案内する際に教えます」

 真凛は制服のポケットに入れていた小さなメモ帳とボールペンを取り出し、部長の説明をメモに取っている。忘れっぽいので必ず持ち歩くようにしているのだ。何やら左頬に刺さるいくつかの視線を感じながら、気付かないふりをする。見なくても分かる。視線の主は一年女子四人と太陽のものだ。

『制服のポケットに普通メモ用紙とボールペンなんていれなくない?』
『うん、いれない。信じらんない、がさつ、下品』

 コソコソ話す一年女子。

『自分が馬鹿だって自覚あるからいつも持ち歩いてるんじゃないか?』

 と太陽。女子たちはクスクス笑う。前述したが、本人たちは聞こえないように話しているつもりでも、空気の流れやら風向きで意外と本人の耳に届きがちなものなのだ。悪意ある視線と共に交わされる影口は、真凛にとって珍しい事ではなかった。

(何処に行っても、人間って変わら無いな、程度の差こそあるだろうけど、底辺を笑いものにして楽しむスクールカースト上位組、て感じ。ディスる対象がいない時は、普段は空気扱いで忘れている癖にそういう時だけ思い出す。でも、ちょっとずつ居ても居なくても良い存在からスクールカースト中間層までステップアップ出来たらいいなぁ)

 そんな風に思いながら。付け加えるなら、平気で陰口を叩く姿を呆れたように眺める壮吾と周りの先輩たち、そして部長と副部長の鋭い眼差しを向けていた事を、一年女子と太陽、そして真凛自身は気づいていないのだった。


「はい! では皆さん、立って両手を広げて隣の人とぶつからない距離に位置を変えてください」

 部長の指示に、全員一斉に立ちあがった。

「一年生は制服なので、軽めで気軽なストレッチをします。体が硬くても毎日やる事で少しずつ柔らかくなっていきますから」

(うわ、体硬いんだー。でも今晩からお風呂上りに頑張ってみようかな。少々の事でへこたれないようになるには、心も体も柔軟性が必要だと思うもん。踏まれても弄られても尚逞しく生きる雑草みたいに、しなやかにしたたかに生きていくの。知らないうちに、さり気無い存在感が出てきたり。そんな風になるのが目標)

 真凛は部長に倣って前屈をはじめた。膝の裏が伸びる感触、体が強張って硬い事に思わず苦笑する。先輩たちはは皆、なんなく床に両手の平がぺたりとついている。

(うわ、一年で体硬いの私だけ……ていうか全体で私だけじゃん。悪目立ちは勘弁だ)

 今晩から欠かさずストレッチをしよう、そう決意を新たにした。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

二人の恋はひとすじなわではいかない!

ぺけらんど
青春
二重人格者の レイとユウ ユウには憧れであり恋をしている先輩希道ヒカリがいる そんなヒカリをレイが好きになってしまう ヒカリもレイに惹かれていく ユウはヒカリ好き レイはヒカリが好きだけれどユウも大切 ヒカリはレイに惹かれていく 《もう僕から何も奪わないでくれ!!》 これはぐちゃぐちゃな恋

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

片翼のエール

乃南羽緒
青春
「おまえのテニスに足りないものがある」 高校総体テニス競技個人決勝。 大神謙吾は、一学年上の好敵手に敗北を喫した。 技術、スタミナ、メンタルどれをとっても申し分ないはずの大神のテニスに、ひとつ足りないものがある、と。 それを教えてくれるだろうと好敵手から名指しされたのは、『七浦』という人物。 そいつはまさかの女子で、あまつさえテニス部所属の経験がないヤツだった──。

かずのこ牧場→三人娘

パピコ吉田
青春
三人娘のドタバタ青春ストーリー。 ・内容 経営不振が続く谷藤牧場を建て直す為に奮闘中の美留來。 ある日、作業中の美留來の元に幼馴染の一人のびす子がやって来る。 びす子が言うには都会で頑張ってるはずのもう一人の幼馴染の花音が帰って来ると連絡が来たとの事だった。 いつも学生時代から三人で集まっていた蔵前カフェで花音と会う為に仕事を終わらせびす子と向かうと・・。

【R18完結】エリートビジネスマンの裏の顔

白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます​─​──​。 私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。 同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが…… この生活に果たして救いはあるのか。 ※サムネにAI生成画像を使用しています

深海の星空

柴野日向
青春
「あなたが、少しでも笑っていてくれるなら、ぼくはもう、何もいらないんです」  ひねくれた孤高の少女と、真面目すぎる新聞配達の少年は、深い海の底で出会った。誰にも言えない秘密を抱え、塞がらない傷を見せ合い、ただ求めるのは、歩む深海に差し込む光。  少しずつ縮まる距離の中、明らかになるのは、少女の最も嫌う人間と、望まれなかった少年との残酷な繋がり。 やがて立ち塞がる絶望に、一縷の希望を見出す二人は、再び手を繋ぐことができるのか。 世界の片隅で、小さな幸福へと手を伸ばす、少年少女の物語。

処理中です...