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第十四話
雑草のように……
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その後は、最後の7番の女子が自己紹介を終え、仮入部の女子たちを集めて先輩部員一人一人の自己紹介が行われた。
(お名前とお顔、いっぺんには覚えられないけど。でも、これから三カ月ほど新入生も先輩もみんな学年と組とフルネームが書かれた名札を部活中はつけている、ていうし。なんとかなりそう)
真凛は思った。そして配られたのは、白い紙と油性ペンに安全ピンのついたクリアな名札入れだった。舞台の端にそれぞれが自由に散らばり、名札に『1-B 久川真凛《ひさかわまりん》』と書く。仮入部の女子たちは元々仲良しで誘い合わせてきたらしいし、入部希望の女子たち四人は既に仲良しグループになっていた。壮吾と太陽は会話を交わす事なく、単独のようだ。
(もうグループが出来上がってる。……いつもの事で、私は入り損ねというか既に空気と化して忘れられてるという感じか。昔からそう。時々、担任から名前呼ばれ忘れたりされてきたし。いつもの事か。そうご君と太陽君は、正反対の性格っぽいし。元々別のクラスだしそうつるまなそう)
真凛は妙に冷静に周りと自分を分析していた。
(自己紹介、そうご君に助けて貰って部長にも助けられて。私には生まれて初めて赤の他人に庇ったりフォローして貰えて。奇跡体験だよこれって。お陰で私にしてみたら自己紹介も出来たし。上出来上出来。……憧れだった『高校デビュー』には程遠いけど、頑張った! 偉いぞ、私)
自画自賛する。どうやら心に余裕が出来たようだ。それで冷静に周りを見られるようになったらしい。
「では、これから部活の時はTシャツもしくはジャージの左胸にこのネームプレートをつけるようにして下さい」
部長はそう言って自ら率先して名札をつけた。全員、それに倣う。
「さて、入部希望の皆さんと仮入部の皆さん。今日はこの後全員で軽くストレッチをして終わりにします。明日からは校内指定Tシャツとジャージで参加するようにしてください。解散後に、部室兼更衣室が男女別にありますから、そこへ案内します。着替えや荷物置き場はそこを利用してください。部活は基本的に月・火・水・金の放課後、およそ二時間、第二第四土曜日の午前9時からおよそ二時間から三時間。休憩は随時挟みます。但し学園祭やコンクールなどは近い時は練習時間や曜日は増えますし、テスト期間中はお休みにしたり稽古時間を短縮したりしますので、その都度指示します。一年生は始まる前と終わった後に舞台と舞台裏の床掃除を軽くお願いします。このあと更衣室に案内する際に教えます」
真凛は制服のポケットに入れていた小さなメモ帳とボールペンを取り出し、部長の説明をメモに取っている。忘れっぽいので必ず持ち歩くようにしているのだ。何やら左頬に刺さるいくつかの視線を感じながら、気付かないふりをする。見なくても分かる。視線の主は一年女子四人と太陽のものだ。
『制服のポケットに普通メモ用紙とボールペンなんていれなくない?』
『うん、いれない。信じらんない、がさつ、下品』
コソコソ話す一年女子。
『自分が馬鹿だって自覚あるからいつも持ち歩いてるんじゃないか?』
と太陽。女子たちはクスクス笑う。前述したが、本人たちは聞こえないように話しているつもりでも、空気の流れやら風向きで意外と本人の耳に届きがちなものなのだ。悪意ある視線と共に交わされる影口は、真凛にとって珍しい事ではなかった。
(何処に行っても、人間って変わら無いな、程度の差こそあるだろうけど、底辺を笑いものにして楽しむスクールカースト上位組、て感じ。ディスる対象がいない時は、普段は空気扱いで忘れている癖にそういう時だけ思い出す。でも、ちょっとずつ居ても居なくても良い存在からスクールカースト中間層までステップアップ出来たらいいなぁ)
そんな風に思いながら。付け加えるなら、平気で陰口を叩く姿を呆れたように眺める壮吾と周りの先輩たち、そして部長と副部長の鋭い眼差しを向けていた事を、一年女子と太陽、そして真凛自身は気づいていないのだった。
「はい! では皆さん、立って両手を広げて隣の人とぶつからない距離に位置を変えてください」
部長の指示に、全員一斉に立ちあがった。
「一年生は制服なので、軽めで気軽なストレッチをします。体が硬くても毎日やる事で少しずつ柔らかくなっていきますから」
(うわ、体硬いんだー。でも今晩からお風呂上りに頑張ってみようかな。少々の事でへこたれないようになるには、心も体も柔軟性が必要だと思うもん。踏まれても弄られても尚逞しく生きる雑草みたいに、しなやかにしたたかに生きていくの。知らないうちに、さり気無い存在感が出てきたり。そんな風になるのが目標)
真凛は部長に倣って前屈をはじめた。膝の裏が伸びる感触、体が強張って硬い事に思わず苦笑する。先輩たちはは皆、なんなく床に両手の平がぺたりとついている。
(うわ、一年で体硬いの私だけ……ていうか全体で私だけじゃん。悪目立ちは勘弁だ)
今晩から欠かさずストレッチをしよう、そう決意を新たにした。
(お名前とお顔、いっぺんには覚えられないけど。でも、これから三カ月ほど新入生も先輩もみんな学年と組とフルネームが書かれた名札を部活中はつけている、ていうし。なんとかなりそう)
真凛は思った。そして配られたのは、白い紙と油性ペンに安全ピンのついたクリアな名札入れだった。舞台の端にそれぞれが自由に散らばり、名札に『1-B 久川真凛《ひさかわまりん》』と書く。仮入部の女子たちは元々仲良しで誘い合わせてきたらしいし、入部希望の女子たち四人は既に仲良しグループになっていた。壮吾と太陽は会話を交わす事なく、単独のようだ。
(もうグループが出来上がってる。……いつもの事で、私は入り損ねというか既に空気と化して忘れられてるという感じか。昔からそう。時々、担任から名前呼ばれ忘れたりされてきたし。いつもの事か。そうご君と太陽君は、正反対の性格っぽいし。元々別のクラスだしそうつるまなそう)
真凛は妙に冷静に周りと自分を分析していた。
(自己紹介、そうご君に助けて貰って部長にも助けられて。私には生まれて初めて赤の他人に庇ったりフォローして貰えて。奇跡体験だよこれって。お陰で私にしてみたら自己紹介も出来たし。上出来上出来。……憧れだった『高校デビュー』には程遠いけど、頑張った! 偉いぞ、私)
自画自賛する。どうやら心に余裕が出来たようだ。それで冷静に周りを見られるようになったらしい。
「では、これから部活の時はTシャツもしくはジャージの左胸にこのネームプレートをつけるようにして下さい」
部長はそう言って自ら率先して名札をつけた。全員、それに倣う。
「さて、入部希望の皆さんと仮入部の皆さん。今日はこの後全員で軽くストレッチをして終わりにします。明日からは校内指定Tシャツとジャージで参加するようにしてください。解散後に、部室兼更衣室が男女別にありますから、そこへ案内します。着替えや荷物置き場はそこを利用してください。部活は基本的に月・火・水・金の放課後、およそ二時間、第二第四土曜日の午前9時からおよそ二時間から三時間。休憩は随時挟みます。但し学園祭やコンクールなどは近い時は練習時間や曜日は増えますし、テスト期間中はお休みにしたり稽古時間を短縮したりしますので、その都度指示します。一年生は始まる前と終わった後に舞台と舞台裏の床掃除を軽くお願いします。このあと更衣室に案内する際に教えます」
真凛は制服のポケットに入れていた小さなメモ帳とボールペンを取り出し、部長の説明をメモに取っている。忘れっぽいので必ず持ち歩くようにしているのだ。何やら左頬に刺さるいくつかの視線を感じながら、気付かないふりをする。見なくても分かる。視線の主は一年女子四人と太陽のものだ。
『制服のポケットに普通メモ用紙とボールペンなんていれなくない?』
『うん、いれない。信じらんない、がさつ、下品』
コソコソ話す一年女子。
『自分が馬鹿だって自覚あるからいつも持ち歩いてるんじゃないか?』
と太陽。女子たちはクスクス笑う。前述したが、本人たちは聞こえないように話しているつもりでも、空気の流れやら風向きで意外と本人の耳に届きがちなものなのだ。悪意ある視線と共に交わされる影口は、真凛にとって珍しい事ではなかった。
(何処に行っても、人間って変わら無いな、程度の差こそあるだろうけど、底辺を笑いものにして楽しむスクールカースト上位組、て感じ。ディスる対象がいない時は、普段は空気扱いで忘れている癖にそういう時だけ思い出す。でも、ちょっとずつ居ても居なくても良い存在からスクールカースト中間層までステップアップ出来たらいいなぁ)
そんな風に思いながら。付け加えるなら、平気で陰口を叩く姿を呆れたように眺める壮吾と周りの先輩たち、そして部長と副部長の鋭い眼差しを向けていた事を、一年女子と太陽、そして真凛自身は気づいていないのだった。
「はい! では皆さん、立って両手を広げて隣の人とぶつからない距離に位置を変えてください」
部長の指示に、全員一斉に立ちあがった。
「一年生は制服なので、軽めで気軽なストレッチをします。体が硬くても毎日やる事で少しずつ柔らかくなっていきますから」
(うわ、体硬いんだー。でも今晩からお風呂上りに頑張ってみようかな。少々の事でへこたれないようになるには、心も体も柔軟性が必要だと思うもん。踏まれても弄られても尚逞しく生きる雑草みたいに、しなやかにしたたかに生きていくの。知らないうちに、さり気無い存在感が出てきたり。そんな風になるのが目標)
真凛は部長に倣って前屈をはじめた。膝の裏が伸びる感触、体が強張って硬い事に思わず苦笑する。先輩たちはは皆、なんなく床に両手の平がぺたりとついている。
(うわ、一年で体硬いの私だけ……ていうか全体で私だけじゃん。悪目立ちは勘弁だ)
今晩から欠かさずストレッチをしよう、そう決意を新たにした。
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