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第十話
自己紹介はセルフプロデュース・序章
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……あの時、いつものように女の子の五、六人が「太陽君カッコイイ、けっこんしたい」とキャーキャー黄色い来声をあげてはしゃでいた。だからたまたま近くにいた真凛は、皆に合わせて「うん、カッコイイ、けっこんしたい」と同調してみただけだった。すると満更でもなさそうにデレデレしていた彼は、真凛に向き合って急に真顔になり、まるで汚いものを見るような目で見ると、
「うわぁ、メガネブスはかんべん! 寄るな! おまえ超ブスだからダメ!」
(……そうか、わたしって超ブス、だったんだ……)
脳にガーンと食らった激しい衝撃、と激痛が全身に走る。再び呼吸が浅くなり、頭がクラクラし出す。
「大丈夫ッスか? 説明が始まるみいたいッスよ」
右耳に響く低い声に、漸く我に返る。
「あ、はい。あ、有難う」
右隣に並ぶ丸刈りの彼だ。
「いや」
彼は気にするなというように首を横に振ると、舞台中央を見つめた。部長が立っている。気付けば下手(※)に一列に並んでいた。
(過呼吸になったら洒落にならない。落ち着かないと。あんな、幼稚園の時の話なんか気にしたって……)
と自分に言い聞かせ、部長からの指示を待つ。
「では新入生の皆さん、入部希望、仮入部の方も本当に有難う」
凛と舞台の隅々まで響き渡る声。示し合わせたように軽く頭を下げる新入生たち。真凛も彼らに合わせて軽くお辞儀をする。
「これから、入部希望の皆さん一人一人に自己紹介を兼ねて自分の好きなもの、嫌いなもの、その理由、入部志望の動機を述べて頂きます。今からくじ引きで順番を決めますので。紙に書いてある番号がその人の順番となります。紙を引いたらすぐ、それを見て貰っても構いません。」
プラカードを持っていた彼女が、にこにこしながら新入の元へやって来る。両手に手作りと思われる小包みほどの大きさの箱を掲げて。中には番号が書かれた何かが入っているのだろう。手を入れる部分が広めにくり抜かれている。浅葱色の模造紙で綺麗に箱を包み込んであった。
「はい、この中から一枚選んで」
と右端の女子に小声で声をかける。一人一人箱の中の紙を取っていく。箱の中に手を入れてしばらくかき混ぜてから取る者、手を入れてすぐに紙を取る者と様々な反応を見せる。自分の番が近づくにつれて鼓動が激しくなっていく真凛。ポニーテールの先輩がにこやかに近づく。自分の番まで後一人……。
(落ちつけ、落ち着け、自分。まだ何も始まってないじゃないか)
と自分に言い聞かせ、先輩が笑みながら箱を差す出すのを微笑み返し、箱の中に左手を入れる。ここまで来たら何番目かなんて気にしても仕方無い。そう思った。だから一番最初に手に当たった紙を取り出す。続いて先輩は丸刈の彼の元へ。
(私は何番を引いたのだろう?)
5cmほどの正方形の白い紙が半分に折られている。
(一番最初と二番目とラストは避けたいな……)
そう思いながら開いてみる。そこにはボールペンで大きく「5」と書かれていた。取りあえずはホッとする。丁度全員紙を引き終わったようだ。そのタイミングを見て、部長が再び言葉を発した。
「では、私が番号を呼ぶので、そしたらここの舞台の真ん中まで来て下さい。私は副部長と二人で上手の方に座ります。よくある演技の審査みたいな雰囲気にしようと思います。全く初めての人もいると思いますので、こちらが質問しますから、それに答えるような感じでやって貰えたら。大体一人3分から10分程度で終わると思います。時間の長さは特に何の関係もありません。質問も個人によって変わります。特に意味はありません。その時の雰囲気で質問する感じになるかと思います。では、始めましょう。番号を呼んだここに立ってください」
説明を終え、折り畳み式長テーブルと椅子が二つ用意された場所に歩いていく。そこには既に副部長が席に着いていた。
「はい、では一番の方、前にどうぞ」
席に着くなり、部長は声をかけた。いよいよ始まる、そんな感じで場に緊張の糸が張る。
「はい!」
元気よく返事をして歩き出したのは、左から二番目に並んでいた女子だった。長身スリムなモデル体型、肩まで伸ばした髪はあろしたままだ。ミルクチョコレート色の髪はとても柔らかそうだ。小麦色の肌に彫の深い顔立ちは南国形の美少女という感じか。
「では一番の方、お名前をフルネームで」
部長は早速指示を出した。
「はい! 仁田原朝霞と申します」
「では、朝霞さん。芸歴は何年ですか?」
「10年ほどになります」
「なるほど。小さい時から」
「はい、子供雑誌のモデルなどをさせて頂きました」
「へぇ? プロで活躍していたんだね」
物怖じせず、ハキハキと答える彼女はとても慣れている様子で部長と雑談するように和やかな会話が続く。
(にたばるさん、かぁ。珍しい苗字だな。凄いなぁ。もう10年も。モデルで活躍してきたのか。存在感あるもんなぁ。どうしよう、私益々空気だ……)
真凛は自分が酷く場違いな感じがして居心地が悪かった。それでも自分の番が来た時に心構えが出来るようにと朝霞と部長のやりとりに注目する。それは他の入部希望者も同じだった。
(※上手・下手…上手は、客席から向かって舞台の右側。下手は舞台の左側 )
「うわぁ、メガネブスはかんべん! 寄るな! おまえ超ブスだからダメ!」
(……そうか、わたしって超ブス、だったんだ……)
脳にガーンと食らった激しい衝撃、と激痛が全身に走る。再び呼吸が浅くなり、頭がクラクラし出す。
「大丈夫ッスか? 説明が始まるみいたいッスよ」
右耳に響く低い声に、漸く我に返る。
「あ、はい。あ、有難う」
右隣に並ぶ丸刈りの彼だ。
「いや」
彼は気にするなというように首を横に振ると、舞台中央を見つめた。部長が立っている。気付けば下手(※)に一列に並んでいた。
(過呼吸になったら洒落にならない。落ち着かないと。あんな、幼稚園の時の話なんか気にしたって……)
と自分に言い聞かせ、部長からの指示を待つ。
「では新入生の皆さん、入部希望、仮入部の方も本当に有難う」
凛と舞台の隅々まで響き渡る声。示し合わせたように軽く頭を下げる新入生たち。真凛も彼らに合わせて軽くお辞儀をする。
「これから、入部希望の皆さん一人一人に自己紹介を兼ねて自分の好きなもの、嫌いなもの、その理由、入部志望の動機を述べて頂きます。今からくじ引きで順番を決めますので。紙に書いてある番号がその人の順番となります。紙を引いたらすぐ、それを見て貰っても構いません。」
プラカードを持っていた彼女が、にこにこしながら新入の元へやって来る。両手に手作りと思われる小包みほどの大きさの箱を掲げて。中には番号が書かれた何かが入っているのだろう。手を入れる部分が広めにくり抜かれている。浅葱色の模造紙で綺麗に箱を包み込んであった。
「はい、この中から一枚選んで」
と右端の女子に小声で声をかける。一人一人箱の中の紙を取っていく。箱の中に手を入れてしばらくかき混ぜてから取る者、手を入れてすぐに紙を取る者と様々な反応を見せる。自分の番が近づくにつれて鼓動が激しくなっていく真凛。ポニーテールの先輩がにこやかに近づく。自分の番まで後一人……。
(落ちつけ、落ち着け、自分。まだ何も始まってないじゃないか)
と自分に言い聞かせ、先輩が笑みながら箱を差す出すのを微笑み返し、箱の中に左手を入れる。ここまで来たら何番目かなんて気にしても仕方無い。そう思った。だから一番最初に手に当たった紙を取り出す。続いて先輩は丸刈の彼の元へ。
(私は何番を引いたのだろう?)
5cmほどの正方形の白い紙が半分に折られている。
(一番最初と二番目とラストは避けたいな……)
そう思いながら開いてみる。そこにはボールペンで大きく「5」と書かれていた。取りあえずはホッとする。丁度全員紙を引き終わったようだ。そのタイミングを見て、部長が再び言葉を発した。
「では、私が番号を呼ぶので、そしたらここの舞台の真ん中まで来て下さい。私は副部長と二人で上手の方に座ります。よくある演技の審査みたいな雰囲気にしようと思います。全く初めての人もいると思いますので、こちらが質問しますから、それに答えるような感じでやって貰えたら。大体一人3分から10分程度で終わると思います。時間の長さは特に何の関係もありません。質問も個人によって変わります。特に意味はありません。その時の雰囲気で質問する感じになるかと思います。では、始めましょう。番号を呼んだここに立ってください」
説明を終え、折り畳み式長テーブルと椅子が二つ用意された場所に歩いていく。そこには既に副部長が席に着いていた。
「はい、では一番の方、前にどうぞ」
席に着くなり、部長は声をかけた。いよいよ始まる、そんな感じで場に緊張の糸が張る。
「はい!」
元気よく返事をして歩き出したのは、左から二番目に並んでいた女子だった。長身スリムなモデル体型、肩まで伸ばした髪はあろしたままだ。ミルクチョコレート色の髪はとても柔らかそうだ。小麦色の肌に彫の深い顔立ちは南国形の美少女という感じか。
「では一番の方、お名前をフルネームで」
部長は早速指示を出した。
「はい! 仁田原朝霞と申します」
「では、朝霞さん。芸歴は何年ですか?」
「10年ほどになります」
「なるほど。小さい時から」
「はい、子供雑誌のモデルなどをさせて頂きました」
「へぇ? プロで活躍していたんだね」
物怖じせず、ハキハキと答える彼女はとても慣れている様子で部長と雑談するように和やかな会話が続く。
(にたばるさん、かぁ。珍しい苗字だな。凄いなぁ。もう10年も。モデルで活躍してきたのか。存在感あるもんなぁ。どうしよう、私益々空気だ……)
真凛は自分が酷く場違いな感じがして居心地が悪かった。それでも自分の番が来た時に心構えが出来るようにと朝霞と部長のやりとりに注目する。それは他の入部希望者も同じだった。
(※上手・下手…上手は、客席から向かって舞台の右側。下手は舞台の左側 )
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