銀色黄色協奏曲

大和撫子

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第二話

侵略の記録

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「あの黄色の大群が我が国にやって来たのは、人間たちのいう『明治時代』の半ばあたりに、園芸用植物としてやってきたのが始まりです。ですが、爆発的な広がりを見せたのは1964年(昭和39年)の頃です。東京オリンピックの為に大量に輸入されてきた木材に、彼らの種子がついて来たことが原因との事です」

 薬師である尾花は、調べた結果を茅に淡々と報告している。落ち着いた柔らかな声の持ち主だ。色白の彼女は紺色の直垂に身を包み、細面に猫を思わせる琥珀色の瞳の、たいそう整った顔立ちをしていた。細いフレームの銀縁眼鏡が、知性と思慮深さをより濃く彩る。琥珀色の艶やかな髪は、後ろの高い位置でアップスタイルにまとめていた。

「そこから、あちこちの土手やら原っぱやらに繁殖しまくった、て訳か。今じゃ秋になりゃこの世の栄華を一心に受けました! てなデカい顔してヌボーッと立つ木偶でくの坊の黄色い大群が猛威を振るってやがる!」

 怒りを露わにするのは、乱草みだれぐさである。ぞんざいな言葉遣いとは裏腹に、まだあどけなさの残る可愛らしい声色こわいろだ。生き生きと輝く大きな茶色の瞳が印象的な小柄な少年である。黄土色の直垂に身を包み、日焼けした肌に鳶色の髪をツンツンと立つほどに短くした髪。なんとなく秋田犬の子どもを思わせ、いかにも身軽そうだ。

「これこれ、乱草少尉、そうカッカするでない」

 茅は穏やかにたしなめた。

「しかし茅将軍! あいつらのお陰で全滅しちまった植物たちを思うと……」

 乱草は口を尖らせる。

「仕方ない。私だって悔しいさ。だが……」

 茅は乱草に説明するよう、尾花に頷いて見せた。彼女は軽く一礼して口を開く。

「セイタカアワダチソウは、1つにつき何万もの種をつけるそうです。虫媒介の花でありながら驚異の繁殖力を誇っています。もし数本の彼らを見つけたなら、その場所は数年後には黄色の大群で埋め尽くされてしまうほどです。恐ろしい事に、彼らの根には植物の発芽や成長を阻む物質を持っているようです。つまり、他の植物を攻撃して根絶やしにしてしまう恐ろしい力です。その破壊力は、大地の繁栄に必要な動物や昆虫にまで及びます」

 茅はその後の言葉を引き継ぐ。

「今抵抗しても、彼らの凄まじい勢いには勝てません。いずれ。彼らの勢いも衰える時が必ず来ます。……驕れる者は久しからず、ですよ。今は、耐えなさい。力を蓄えるのです。その時は来るまでひたすらね」

 諭すように言われ、少しずつ感情が落ち着いて来た乱草。

「今、露見草大尉と振袖草中尉が全芒たちに私の指示を伝えに奔走しています。あなたも彼らに合流なさい。そして彼らに伝えなさい。私たち芒だけでなく、全草花に伝えるよう追加を」

「御意!」

 乱草は素直に命に従い、茅に丁寧に頭を下げると踵を返した。

「尾花、引き続き研究をお願いしますよ」

「承知しました」

 静かに立ち去る彼女の後ろ姿を見送ると、茅はスーッと掻き消えるように姿を消した。
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