銀色黄色協奏曲

大和撫子

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第一話

眺めの空

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 その者は深い溜息をつくと、空を見上げた。鉛色の空から冷たい雨が降り注ぐ。それはその者のフサフサと豊かな銀色の髪に、まるで水晶玉のネックレスのように雫玉を作る。髪は腰のあたりまで伸ばされており、見事なストレートだ。面長の輪郭に高く上品な鼻。引き締まった怜悧さを示す唇。キリリとした銀色の眉。長い銀色のとばりに囲まれた瞳は切れ長で、月光を思わせる銀色だ。冷たい程に澄み切っているが、どことなく憂いを帯びて艶めいている。純白の狩衣に白銀色の袴姿、真珠色の肌が柔らかく映える。細身で背丈は驚くほど高い。

「眺めの空とはよく言ったものだ。物想い耽って空を見上げた、とな」

 呟いたその声は、凜としてよく通るがどことなく哀し気だ。その者はしばし過去へと、その想いの翼を広げた。

 一面に広がる白金の房。通常ならサワサワと奥床しい音を立て、優雅に秋風にたゆたう風流な光景が広がる。だが、今はあいにく雨に打たれ、ふさふさの穂は一枚の布ピタリと合わさり、皆一斉に俯いている。その者が立つ場所は、周囲は杉や檜等の木々に囲まれ、見事に広がる広大なすすき野原であった。その者は何かの気配を感じたのだろう。体の向きは変えずに、心持ち首だけ右横に向き、背後を見やる。耳を澄ますと、シトシトと降る雨音に混じり、ヒタヒタと何かが近づく音がする。

「失礼致します。かや将軍!」

 どうやら空を見上げ、雨の中佇んでいた男は茅と言う名を持つ将軍だったようだ。その者は跪き、頭を下げる。茅葺色かやぶきいろ直垂ひたたれに身を包み、白金色の長い髪を後ろの高い位置で一つにまとめている。一見、線は細いが鍛え上げられた筋肉が無駄な肉をそぎ落としている。見かけに寄らず、低めのしっかりとした声の持ち主だ。

露見草つゆみぐさ大尉か?」

 名を呼ばれた男はその涼やかな黄金色こがねいろの眼差しで、大将を見上げた。

「申し上げます! 東側は既に占領されてしまった模様。こちらにあの黄色の大群が押し寄せて来るのも時間の問題かと思われます!」

「……そうか」

 厳かに切り出す露見草に、大将はため息混じりに答える。

「セイタカアワダチソウ、別名『背高秋の麒麟草きりんそう』……黄色の大群。今は、最早打つ手無し……か」

「はい、夏の麒麟草が嘆いております。『私たちが大和の国の古来の花ですのに』と」

「……だろうな。『気を落とすな。我が国全ての草花は、そなたと同意見だ。今は共に耐え忍ぼうぞ』と伝えよ」

「はいっ!」

 茅はしばし、何かを考え込む。露見草は静かに、将軍の指示を待った。ほどなくして茅はキッと大尉を見つめる。

「全てのすすきに告げよ! 『今はひたすら耐え忍ぶ時期。我が大和の国、秋の代表の一員としての誇りにかけ、今こそ大地に根付き底力を見せつけるのだ! かなりの時を要するが、地の利は我らにある。風媒花である我らの生命力を侮った、虫媒花の黄色の大群に思い知らせてやるのだ!』と」

「承知致しました!」

「それと、乱草みだれぐさ隊長にはくれぐれも早まるな、今は耐えろ! と伝えろ」

「御意!」

「更に、薬師の尾花おばなには奴らの生態の研究を急げと伝えよ」

「畏まりました!」

 露見草は一礼すると、速やかにその場を去った。その後ろ姿を、寂し気な眼差しで見送る茅将軍。そう。彼は全芒を統べる者。

 彼らは芒の精霊たちなのであった。
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