「磨爪師」~爪紅~

大和撫子

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第十一帖

落日①

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 995年、桜の花が満開を迎える。桜の宴が、宮中はじめ貴族達の邸で盛んに行われる。気分は華やぎ、希望に満ちていく季節である。

……なんだか、桜がくすんで寂しそうに見える。どうしてだろう? 今が見頃なのに……

 鳳仙花は、文壇内で行われている桜の宴に参加していた。文壇に隣接されている庭を愛でながら、女房達は皆楽しそうにおしゃべりしている。定子は清少納言と紅を傍らに、御簾越しに桜を愛でていた。母親が清少納言と共に定子に側についている事を誇らしく思いながらも、心がざわめく。

……特に、何か知らせを聞いた訳じゃないけど、何だか嫌な予感がする……

 表面的には、楽しんでいる素振りを見せながら、根拠無き不安を持て余していた。気のせいだ、と打ち消そうとしても不安は拭い去れない。

……帝と定子様は相変わらずお熱い仲だけど、ここ最近、伊周様はさっぱりお見えにならない。前は頻繁にいらしてたのに。棚機の時、皆幸せになれるように神様にお願いしたのに……  

 先日、指名を受けて爪紅を施術をしに後宮の女官、女蔵人にょくろうどの元に言った際を思い出す。

『道隆様、お体の調子が優れないようだけれど。大丈夫なのかしら? 定子様は何かおっしゃってる?』

 鳳仙花は、落ち着いた笑みを浮かべ

『いいえ、何も。いつもと変わらない御様子ですよ』

 と応えた。道隆の体調な真偽は分からない。だが、弟の道長が次期関白を狙っている事。娘の彰子しょうしを一条天皇の正妻にしようと企んでいる事を内密に、という形で母親から伝え聞いていた。
 よって、定子様を失脚させようとする動きがあるかもしれぬからくれぐれも出張なり、文壇以外の者と会話をする際は言の葉に気をつけるように、と言い聞かせられていたのだ。

 何も語るまい、と笑顔で受け流した。鳳仙花は顔に出やすいからと、定子様はじめ道隆一族に関わる話はせず、そつなく華麗に受け流せるよう母と保子
の二人がかりで特訓を受けたりもしたのだった。

……やっぱり、尋常ではない何かが起こりつつあるんだわ……

 鳳仙花は核心に近い予感がした。 

 にわかに、文壇の女房達がざわめき始める。

….何か起きたのかしら?……

 鳳仙花は注意深く耳をそばだてる。桜を愛で、楽しそうな感じを装いながら。

 伝令係の女房が、使いの者から伝言を頼まれたようだ。素早く定子の元へ急ぎ、御簾を空けて迎えに出た清少納言に耳打ちをした。清少納言は話を伝え聞くと、すぐに定子の元に跪く。定子はすぐに耳を傾けた。すると清少納言は扇を広げ、定子のかんばせをすっぽりと覆った。

 やがて清少納言は扇を畳むと、定子と頷きあった。紅も真剣な面持おももちだ。清少納言は立ち上がり、文壇に姿を現した。ざわめいていた女房達は、瞬時に静まり返る。

「帝がこちらにいらっしゃる予定でしたが、途中で道長様に呼び止められたそう。お話が終わり次第、こちらにいらっしゃるとの事で御座いました」

 と静かに伝えた。

「皆、引き続き宴を楽しんでね」

 御簾越しに定子は声をかける。そして奧に控えていたお付きの女房を従え、その場を後にした。同時に清少納言と紅が笑顔で文壇に戻る。

『……やっぱり、道隆様のお体の具合がお悪いと言う噂は本当かしら?』
『じゃあ、後を継ぐのは伊周様……』
『道長様が狙ってらっしゃるって話よ』

 女房達の囁く噂を、鳳仙花は聞き逃さなかった。

「はいはい、宴の続きよ」

 清少納言は女房達の話に加わり、紅は鳳仙花の左隣に腰を下ろした。鳳仙花はその時、予感が予兆として的中する事を確信したのだった。

『……ええ、お父上の兼家様は優秀でらしたのに』
『正直言って、弟の道長様の方が安心と言いますか……』
『ですよね。道隆様自身は、伊周様を跡に継がせたいらしいですけれど、伊周様はちょっと……』
『ええ、漢文や和歌には秀でてらっしゃるし、見目麗しい御方ではありますけれど……』 
『泣かされた女性は数知れず、と聞きますし……ねぇ』


「こら! あなた達! 根も葉もない噂話などしていないで手を動かしなさい!」

 恐らく裁縫場を仕切る縫司の長で、年配の落ち着いた雰囲気を持つ女房がたしなめた。

 鳳仙花は今、後宮の縫司の控室に磨爪術を行いに来ていた。女房達は裁縫等衣装を司る仕事柄、指先が荒れたり爪が欠けたり割れ安くなったりする為、お手入れを依頼されたのだ。

 鳳仙花は十歳、徐々に指名での依頼が増えて来ていた。

 女房一人一人の爪や手全体のお手入れを丁寧に行っていく。彼女達は仲間同士お喋りに花を咲かせ、鳳仙花は完全に空気と化し、黙々とお手入れをこなしていく。依頼を受けてやって来たのはこれで三度
め。余計な事を一切言わず、仕事のみに専念する姿勢は信頼を得た。 それ故、噂話にまで話が至ったようだ。

 噂話も耳に入らぬほど施術に真剣に、無心で行う姿は縫司長にも好ましく映る。

……噂話にはね、根も葉もない事も沢山あるけど、中には核心をついた事実もあるの。知っていて損はないわ。あなたが居る前で、噂話がされるようになったら信頼された証ね。でもね、噂話には絶対加わらない、興味を示さず施術に集中。もし何か聞かれても当たらず触らずさらりと交わす事。これが、磨爪師として生き抜く秘訣よ……

 母親に厳しく諭された事を肝に銘じていた。最初は気まずい程の沈黙の中、黙々とこなした。子どもの癖に、と敵意や侮蔑の眼差しで見る者も多かった。けれども鳳仙花は、どうしたら早く美しく正確に出来るか、それだけに集中的していた。その姿勢が、信頼を勝ち得るようだ。

(やっぱり、道隆様はお体の具合が芳しくないのね。……伊周様は、どこに行っても良い噂は聞かない……。それは恐らく、嫉妬の念からそういう噂を流す人も多いのではないか、とも思うけれど)

 帝、定子、清少納言、そして伊周。かつて、彼らの楽しそうで和気藹々とした姿を目の当たりにしていただけに悲しかった。
 道隆に至っては、細かい事を気にせず豪胆な気質が、紅が宮中に出入りする道筋を開いてくれたのだ。お陰で、鳳仙花も出入り出来るようになった。並々ならぬ恩を感じていた。勿論、帝や定子の柔軟性に富んだお人柄の後押しもあったが。

 そのような経緯から、今後の事は非常に気掛かりだった。この先、宮中に居続ける事は出来るのだろうか……。

……伊周は十一歳で元服なされて。それからトントン拍子に官位も上がり、十八歳のときには妻の父君から譲位され、権大納言に。更に二十歳は、父、道隆様の強い押しで道長たちを飛び越えて内大臣になってらっしゃる……

 鳳仙花は自室で自らの日記を読み返し、今起こっている事、推測と予測も兼ねて整理していた。

……これだけ異例のはやさで出世なさると、藤原氏と姓を賜っている人全て、公家の方々からも嫉妬をかうだろうなぁ。まして、野心家の道長様なら余計に……

 背筋がゾクリと寒くなった。今、鳳仙花は自邸に帰り、待機中だ。道隆の具合がいよいよ思わしくないものになった為だ。此度、文壇の混乱を防ぐ為、一部のごく信頼出来、かつ飛び抜けて優秀な女房を除いて皆自邸に控えているよう命じられていた。定子に付き従っているのは、清少納言、赤染衛門、そして紅だった。一員に、母が選ばれたのは誇らしかった。

 道隆は、病床の中より伊周に全てを引き継がせたいと一条天皇に告げている、と言う話だった。だが、帝としては立場上、関白である道隆に書類に目を通して貰わないと困ってしまう。その為、形式上道隆に書類を回し、それを伊周が目を通すように命じた、との事だった。

 しかし、伊周自身はこれを不服とし、帝に異議申し立てをしているとの事。帝は頭を抱えているそうだ。

……口に出しては言えないけれど、伊周様って雅な方ではあるけれど、まつりごとを動かしていく統率力はお持ちではないのよね……

 鳳仙花は定子の身を案じた。自分に出来る事など皆無だ。そんな自分が歯痒い。だからせめて何が起こっても動じないでいよう、そう思った。

 ふと、実光の事が頭に浮かぶ。結局、あれ以来会えて居ない。 


……皆、移り変わって行くんだ。同じ時のままでは居られない。蕾が花開き、満開に咲き誇っても散る時がやって来る。それと同じなんだ。実光様とは、ご縁がなかったのかな……

 釣殿にて、見頃を終え色褪せた躑躅つつじを眺めながら、鳳仙花は寂しく感じた。そこに、衣擦れの音が近づく。

「鳳仙花様」

 いそいそとやって来たのは保子だった。その手にふみを握りしめている。

「どうしたの?」
「紅様から文が届きました」

 保子は急き込んで鳳仙花の右隣に腰をおろす。そして文を手渡した。文は、一見気軽な内容のように桜色の和紙で包まれている。しかし、中身は万が一第三者が封を切らぬよう家紋の割り印で封がなされ、しっかりと糊付けがなされていた。その事からも、自然に背筋が伸びる。覚悟を決めるように促されている気がしたのだ。

「紅様は、明日にでも宮中に戻るように仰せです。爪紅のお道具一式とお着換えを、長期の滞在に必要な分だけ念のために用意しておくように、との事でございました」
「明日? それはまた随分と急な……」

 鳳仙花がすぐに悟った。至極声を潜めて問う。

「まさか、いよいよ道隆様が……」

 保子は黙って頷いた。鳳仙花は丁寧に文の封を開ける。そこにはこう書かれていた。

ーーーーーー

 ……道隆様は、ご自身の随身(※①)の返上をなさり、それを内大臣である伊周様につけて欲しいと強く希望されているようです。内大臣に随身をつけるなど、前代未聞の事です。この事が何を意味するか分かりますね? 伊周様のお噂はお前も知っているでしょう。更に、右大臣の道兼様、そして道長様も跡を継ごうと画策しておられる。今後の身の振り方をしっかりと見据え、時期が来たら素早く動けるようにしておく必要があります。その為、必要に応じてお前の裳着の儀式(※②)も早めに執り行う予定です。心しておくように。

ーーーーーーー

 母の緊迫した状況が、行間からひしひしと伝わって来るようだった。もう、少女時代は終わりを告げてしまうのだ、と心細く感じた。同時に、しっかりしなければ、という決意も湧いてくるのだった。


……でも、確か道隆様の御兄弟には道長様の他に道兼様がいらっしゃた筈。道長様は野心家でらっしゃるけど、表向きは穏やかで人当たりよく振る舞ってらっしゃるわね。私も、お母様や文壇の方々から聞かなかったら分からなかったと思うもの…… 

 宮中に向かう牛車の中で、鳳仙花は再度話を整理する。

……でも、道兼様はご自身の欲望にわりと素直に体現なさる方……

 脳裏に、道兼の痩せて目が落ち窪み、何処か暗い影を宿す姿を思い浮かべる。

……そうよ、道兼様と言えば花山院が帝だった頃、上手く唆して退位と出家をさせた(※③)方。 お父様の兼家様からの指示と聞いたけれど。けれども、兼家様が次期関白に指名されたのは、道隆様。道兼様も、次期関白を狙ってらっしゃる筈。…… 定子様は一条天皇から一心に寵愛を受け、伊周様も隆家様も異例の昇進。特に伊周様は前代未聞の大出世 ……

 そこまで考えたら、背筋が凍るようにゾッとした。

……その上、道隆様の血縁の方々は皆様並外れた美貌の持ち主。どう考えても、伊周様が次期関白になられるのはとても厳しいのではないかしら。何だか呪詛をされていてもおかしくなさそう……

 占いをはじめ、目に見えないモノをさほど気にしない鳳仙花も、さすがに呪いの存在を想像するに難くない事実が浮かび上がる。

……まさか、道隆様のご病気も毒を盛られたり呪詛のせいだったり……

 身震いがする程に恐怖を感じた。

……駄目駄目。さずがにこんな事誰にも言えないわ。私が闇に消されちゃう……

 慌ててその考えを打ち消した。

牛車はゆっくりとした速度へと変化する。やがて静かに止まった。従者が「失礼致します」と声をかけて二重の簾をあげると、神妙な面持ちの母親が待ち構えていた。

 母親について文壇に向かって歩く。鳳仙花は母親の衣装に違和感を覚えた。見たところ黄緑色の濃淡を重ねた『柳の襲《かさね》』である。だが、何かがおかしい。

……そうだ、十二単の裾が短くなっているのだわ……

 周りを見てみると、母親だけではない。通りを歩く直衣のうし姿の男たちも、明らかに裾が短いのだ。

「あの……」
「静かになさい、文壇に着くまでは」

 母親は素早く小声で遮った。ただならぬ空気に、今は考えるのを止め、鳳仙花は背筋を伸ばす。やがて文壇に着いた。簾を開け、屏風をずらして足を踏み入れる。紅は娘を先に行かせ、自らは後に続いた。

「失礼致します、鳳仙花です」

 しっかりと挨拶をして室内に入ると、女房たちは軽く頭を下げて迎えた。紅に促されるまま、共に席に着く。

……定子様……

 気になって右奥の御簾、いつも定子が対座している場所を見やる。

「定子様は道隆様のお側についてらっしゃるわ」

 紅は娘に耳打ちした。

……やはり、道隆様は相当にお悪いのだわ……

 静かに頷いた。あれほど活気付いていた文壇内は、火が消えたように寒々しい。

……あ、やっぱり、皆十二単の裾が短くなってる……

 ただならぬ奇妙な状態に、右隣の母親を見上げる。母親は軽く頷くと、静かに説明を始めた。

「伊周様がね、『節約の為に全員が衣装の裾の流さを同じにせよ』とお命じになったのです」

「え……」

 驚きのあまり、鳳仙花は声をあげそうになるが両袖で口元を多い、耐えた。

 伊周は自分の色にまつりごとを執り行おうと張り切っているようだった。しかし実際は、貴族たちからはひんしゅくを買っていた。 

 近くに座っていた赤染衛門が、話を引き継ぐ。女房達も静かに耳を傾けていた。

「伊周様は、『父上から伺った話と違うじゃないか! 文書や宣旨は父を通す必要ない、直接自分に持って来い、父を通す必要はない!』とおっしゃったそうなの」

「それって……」

「そう、帝のご命令を突き返されたの。それで帝は『関白道隆が病の間のみ伊周に文書類を通せ』と勅命を出されたのね。でも、病の間のみ、と言うのが道隆様はお気に召さなかったようで、伊周様は官僚に『病の間のみ』と言うのを書き換えさせようとなさったのね。でも……」

「そう……ですか。ご説明、有難う御座います」

 鳳仙花は衝撃を受けながらも、それ以上は聞かず共全てを悟ったのだった。

 当時は帝の勅命に従わず突き返す等有り得ないしあってはならない。帝が伊周に対して不信に思うのも無理はない。更には、まだ若僧である伊周の命令など、いくら権力にものを言わせようとしても官僚達が従う筈はないのだ。当然、帝の勅命通りにするだろう。

……伊周様、いくら何でも傲慢過ぎでは。これでは反発しか招きません。なんて器の小さな方でしょう……

 鳳仙花は伊周に対して見損なった、という感情を抑える事は出来なかった。

 重苦しい沈黙が、文壇を包み込む。 



(※① 随身…関白につけられる護衛兵の事)
(※② 裳着の儀式……女子の成人の儀式) 
(※③ 後に『寛和の変』と呼ばれる)
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