32 / 32
第二十話
近付く婚約式は死へのカウントダウン②
しおりを挟む
「……そう、やっぱりね」
「はい。ヘレナ嬢には周囲の人々、特に近しい人に対して精神に影響を及ぼす『魅惑』系の魔力があるのだと思われます」
アリアの問いに、跪いたロイドは淡々と応じている。例によってアリアのガラス庭園での会話だ。以前、ロイドに頼んだ事についてその報告を受けていた。
「……やっぱりそれは、例えば、そうね……傾国の美女というような感じで係わる人を狂わせてしまうような感じかしら?」
「美しさの基準は十人十色ですし、私個人はそこまででは無いのではないかと思いますが。ですがまぁ、系統的にはそれに近いのではないでしょうか? ディランの様子や……いや、その……ヘレナ様に騎士譲渡の儀式の際のアルコイリス公爵やアラン、マックスの様子から考えてみてもそんな感じかと。それと、彼女を崇拝する人々にも似たような傾向がありますね」
慎重に言葉を選んで話すロイドを、どこまでも任務に忠実な男だとアリアは感じた。十分、信頼に値する。
「つまり、相手の精神面に作用するような魅惑の類が彼女にはある、と仮説が立てられるって事よね。トロイア戦争の原因になったヘレネとか、クレオパトラとか楊貴妃とか、やっぱり『傾国』的な要素に近いわね」
……この世界でも、名作の基準はあちらの世界と同じだからそういう点では楽だわ。あら? もしかしたらヘレナの命名は、トロイア戦争のヘレネからつけたのかしら作者は……。確か、作者はソイッターで呟いていたのを思い出したわ。キャラの名付けは神話とか古典文学を参考にする事が多いとか……
話をする相手には、いつも真っすぐに見つめる彼にしては珍しく視線をさ迷わせる。言おうか言うまいか逡巡している様子だ。
(アリア殿下はヘレナ嬢とクライノート公爵の事を既にご存知のようだ。クラウス殿下が使用人たちにそれらの噂に関して箝口令を出しているから、噂が耳に入るとは思えない。何だか悟ってらっしゃるようにお見受けする……とは言っても、レグルス団長に命じられた件の事はお話する訳にはいかないが)
「いいのよ、気にしないで。最初から解っている事だから。ヘレナ嬢と公爵の件でしょう? 二人が恋仲にある、て話ね。だから調べたままを報告して」
アリアはロイドが切り出し易いように、先に言ってしまう事にした。その一言で、彼は殆どを察してくれるだろうから。一瞬、彼は瞠目した後、全てを理解したように頷いた。
……この事をロイドに伝えても、原作強制力が働かないって事は。原作の流れは変わらない、という事なのね……
と、暗澹たる思いを抱えながら。ロイドの語りに耳を傾ける。
「承知致しました。……恐れながら、ヘレナ嬢は意識不明の状態のようです。原因は、奉仕活動として頻繁に行っていた結界や人々への浄化と癒しの活動からの蓄積疲労と、無意識の内に依頼者の邪気を取り込んでしまった事による魔力切れかと推測されます。公爵閣下はヘレナ様を救おうと、医療、魔術。呪術、メンタル面全て含め昼夜を問わず東奔西走していたようです」
(あぁ、時期が違うだけで原作通りだわ……)
「……そう、やっぱりね。公爵が東奔西走していたと、過去形なのはヘレナ嬢を救う方法が見つかった、
という訳ね?」
ロイドは深く頷いた。
……公爵に無償の愛を捧げるの心臓を貫いてその血をヘレナに注げば彼女が回復する……公爵は婚約式で私を殺るつもりなのね……
「その方法とやらは?」
「申し訳ございません、そこまでは未だ……」
ロイドは顔を曇らせた。
「そう、いいわ。ロイド、帝国騎士法第88条『特例』の部分は当然覚えているわよね?」
原作に逆らえず流されていく事に恐怖を覚えながらも、最後の最後まで抗う事を決意した。
「勿論でございます。
帝国騎士法第88条『特例』
一、忠誠を誓った主に命の危機が迫った際は、主に仇なす者が序列の上であろうと、例え皇帝や神であろうとも盾となり必要に応じて攻撃しても罪に問われない。怪我をさせてしまっても、結果死亡したとしても無罪放免。
でございますね」
スラスラと諳んじるロイドに、アリアは微笑んだ。
「そう、その通り。ねぇ、ロイド。婚約式の際、私から片時も目を離さないでね。私を守って、お願い!」
「勿論でございます。全力でお守りします!」
切実に乞うアリアに、ロイドは敢えて何も聞かず真っすぐに主を見つめて力強く頷いた。
……この物語はヘレナとジークのロマンスファンタジーだから、それ以外の登場人物や設定に関しては曖昧で謎の部分が多い。そこを突けば、もしかしたら生存ルートに繋がるかもしれない……
アリアは最後の最後まで抗い続ける決意を固めた。
「はい。ヘレナ嬢には周囲の人々、特に近しい人に対して精神に影響を及ぼす『魅惑』系の魔力があるのだと思われます」
アリアの問いに、跪いたロイドは淡々と応じている。例によってアリアのガラス庭園での会話だ。以前、ロイドに頼んだ事についてその報告を受けていた。
「……やっぱりそれは、例えば、そうね……傾国の美女というような感じで係わる人を狂わせてしまうような感じかしら?」
「美しさの基準は十人十色ですし、私個人はそこまででは無いのではないかと思いますが。ですがまぁ、系統的にはそれに近いのではないでしょうか? ディランの様子や……いや、その……ヘレナ様に騎士譲渡の儀式の際のアルコイリス公爵やアラン、マックスの様子から考えてみてもそんな感じかと。それと、彼女を崇拝する人々にも似たような傾向がありますね」
慎重に言葉を選んで話すロイドを、どこまでも任務に忠実な男だとアリアは感じた。十分、信頼に値する。
「つまり、相手の精神面に作用するような魅惑の類が彼女にはある、と仮説が立てられるって事よね。トロイア戦争の原因になったヘレネとか、クレオパトラとか楊貴妃とか、やっぱり『傾国』的な要素に近いわね」
……この世界でも、名作の基準はあちらの世界と同じだからそういう点では楽だわ。あら? もしかしたらヘレナの命名は、トロイア戦争のヘレネからつけたのかしら作者は……。確か、作者はソイッターで呟いていたのを思い出したわ。キャラの名付けは神話とか古典文学を参考にする事が多いとか……
話をする相手には、いつも真っすぐに見つめる彼にしては珍しく視線をさ迷わせる。言おうか言うまいか逡巡している様子だ。
(アリア殿下はヘレナ嬢とクライノート公爵の事を既にご存知のようだ。クラウス殿下が使用人たちにそれらの噂に関して箝口令を出しているから、噂が耳に入るとは思えない。何だか悟ってらっしゃるようにお見受けする……とは言っても、レグルス団長に命じられた件の事はお話する訳にはいかないが)
「いいのよ、気にしないで。最初から解っている事だから。ヘレナ嬢と公爵の件でしょう? 二人が恋仲にある、て話ね。だから調べたままを報告して」
アリアはロイドが切り出し易いように、先に言ってしまう事にした。その一言で、彼は殆どを察してくれるだろうから。一瞬、彼は瞠目した後、全てを理解したように頷いた。
……この事をロイドに伝えても、原作強制力が働かないって事は。原作の流れは変わらない、という事なのね……
と、暗澹たる思いを抱えながら。ロイドの語りに耳を傾ける。
「承知致しました。……恐れながら、ヘレナ嬢は意識不明の状態のようです。原因は、奉仕活動として頻繁に行っていた結界や人々への浄化と癒しの活動からの蓄積疲労と、無意識の内に依頼者の邪気を取り込んでしまった事による魔力切れかと推測されます。公爵閣下はヘレナ様を救おうと、医療、魔術。呪術、メンタル面全て含め昼夜を問わず東奔西走していたようです」
(あぁ、時期が違うだけで原作通りだわ……)
「……そう、やっぱりね。公爵が東奔西走していたと、過去形なのはヘレナ嬢を救う方法が見つかった、
という訳ね?」
ロイドは深く頷いた。
……公爵に無償の愛を捧げるの心臓を貫いてその血をヘレナに注げば彼女が回復する……公爵は婚約式で私を殺るつもりなのね……
「その方法とやらは?」
「申し訳ございません、そこまでは未だ……」
ロイドは顔を曇らせた。
「そう、いいわ。ロイド、帝国騎士法第88条『特例』の部分は当然覚えているわよね?」
原作に逆らえず流されていく事に恐怖を覚えながらも、最後の最後まで抗う事を決意した。
「勿論でございます。
帝国騎士法第88条『特例』
一、忠誠を誓った主に命の危機が迫った際は、主に仇なす者が序列の上であろうと、例え皇帝や神であろうとも盾となり必要に応じて攻撃しても罪に問われない。怪我をさせてしまっても、結果死亡したとしても無罪放免。
でございますね」
スラスラと諳んじるロイドに、アリアは微笑んだ。
「そう、その通り。ねぇ、ロイド。婚約式の際、私から片時も目を離さないでね。私を守って、お願い!」
「勿論でございます。全力でお守りします!」
切実に乞うアリアに、ロイドは敢えて何も聞かず真っすぐに主を見つめて力強く頷いた。
……この物語はヘレナとジークのロマンスファンタジーだから、それ以外の登場人物や設定に関しては曖昧で謎の部分が多い。そこを突けば、もしかしたら生存ルートに繋がるかもしれない……
アリアは最後の最後まで抗い続ける決意を固めた。
0
お気に入りに追加
53
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
底辺おっさん異世界通販生活始めます!〜ついでに傾国を建て直す〜
ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
学歴も、才能もない底辺人生を送ってきたアラフォーおっさん。
運悪く暴走車との事故に遭い、命を落とす。
憐れに思った神様から不思議な能力【通販】を授かり、異世界転生を果たす。
異世界で【通販】を用いて衰退した村を建て直す事に成功した僕は、国家の建て直しにも協力していく事になる。
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉
まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。
貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡
サクラ近衛将監
ファンタジー
女神様のミスで事故死したOLの大滝留美は、地球世界での転生が難しいために、神々の伝手により異世界アスレオールに転生し、シルヴィ・デルトンとして生を受けるが、前世の記憶は11歳の成人の儀まで封印され、その儀式の最中に前世の記憶ととともに職業を神から告げられた。
シルヴィの与えられた職業は魔晶石採掘師と魔晶石加工師の二つだったが、シルヴィはその職業を知らなかった。
シルヴィの将来や如何に?
毎週木曜日午後10時に投稿予定です。
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」
洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。
子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。
人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。
「僕ね、セティのこと大好きだよ」
【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印)
【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ
【完結】2021/9/13
※2020/11/01 エブリスタ BLカテゴリー6位
※2021/09/09 エブリスタ、BLカテゴリー2位
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる