29 / 32
第十八話
ガラス温室のアリア②
しおりを挟む
……「……うーん、これは残念だけれど運命ではなく、宿命だねぇ……」『これはもう、仕方ないとしか言いようがないねぇ』
気の毒そうに言う占い師。
『でも……そうだね、Never give up! とだけ伝えておくよ。これから……直観で思い浮かぶ「数字」とか意味があるから。後から役に立つ事になりそうだね』
アリアは占い師に言われた言葉を思い返していた。勿論、思い切り一人の時間を満喫出来るガラス温室内で。
……原作では、占い師にヘレナとジークフリートは結ばれるべき運命の人でアリアは二人を結びつける為だけに生まれて来たようなものだから諦めて来世に期待した方が良い、と言われて。そこで、ジークフリートに抱いていたほんの僅かな希望も諦めて。ひたすら尽くす事に決めたのだったわね……
そこまで反芻してみてふと思う。
……そういえば、ディランをヘレナに譲渡する形になった訳で。その理由はディランがヘレナに懸想して骨抜き状態になったからという理由だけど。ジークフリートは特に何も思わないのかしら? 好きな女に懸想する男が忠誠を誓って専属護衛騎士になるというのに。これ、原作でもジークフリートはディランに対して懸念した、というような描写はなかったのよね。ディランがヘレナの専属護衛騎士になった場面、その前後も含めサラッと流すような感で特筆される事はなかったのよねぇ……
当のジークフリートはというと、飽きもせず毎朝欠かす事なセレストブルーローズを届けて来る。本数は9本 、「いつもあなたを想っている」「いつも一緒にいて」という意味を込めて……らしい。当て馬にするつもり満々な癖に、随分とマメな男だ、と思わなくもないが。実際は『モノさえ贈っておけ愛されているのだと勝手に解釈してくれる上に、周りに一途でマメな男だとアピール出来て一石二鳥!』と言うところだろう。
全くもって腹立たしいことこの上ないが、
……それもこれも、原作アリアがチョロイン設定なのが全ての元凶なのよ!……
悔しくてもどかしいが、実際に「原作矯正力」が働いてしまう以上どうしようもない。それよりもアリアにとっての死亡エンドを何としても回避する事に全力を傾けるべきだ。原作よりも半年ほど展開が早い現状、アリアの死期も早まっていると見て良い。
……脱線しないで整理すると。原作で詳しく言及されないという事は、つまりディランの件はどれだけヘレナが魅力的なのか、という演出としてであって。それ以上でもそれ以下でもない、という事になるからしらね……
無意識、にガラス温室を歩きまわりつつ、グノーのアヴェマリアを口ずさんでいる。それはアリアの視線に入らないところで影から護衛についているロイドの耳に心地よく響いた。ロイドは万が一に備え聴覚と第六感を研ぎ澄ませると、瞳を閉じてその声の美しさを味わった。
……そうだ!……
アリアは気になっていた事に焦点を当てる。
……結末を迎えた原作のその後についてとか、ヘレナとジークフリートが実はこっそりとクーデターを仕掛けているのではないか? とか。どうも物語の確信(?)に触れそうになると頭に霞がかかったみたいに有耶無耶になった
り、何か横やりが入ったりして忘れてしまうのだけど。今なら切り込めそう! 忘れたり邪魔が入らない内に!……
ピタリと立ち止まり天を仰ぐ。
……ディラン、アラン、マックス、アルコイリス公爵。ヘレナを前にして皆鼻の下を伸ばしてデレデレしていた。あの瞬間に外部からの攻撃があっても対応仕切れないほどに。でも、騎士団長とロイドは冷静だった。お調子者で女好きなアルコイリス公爵はともかく、ディランやマックス、アレンはロイドと同じように『質実剛健』という事だったのに。その違いは? 確信はないけれど、恐らくヘレナは同性に対しては正気を失うほど魅了はされない筈……
アリアは不敵な笑みを浮かべた。
……令嬢物恋愛ファンタジーでよくある、魅了だか魅惑だかの魔力をヘレナが駆使しているかもしれない裏設定がある可能性が高いのでは?! 読者の反響によって、明かされないままか、続編や番外編で触れるかも知れないという。あれって、元々ヘレナが好みだったり最初から好意を持っていたり暗示にかかりやすい体質だったりするとすぐに虜になってしまう、ていう話だし……
邪魔が入らない内に行動に出ようと影から護衛についてくれている忠実なる騎士の名を呼んだ。
「ロイド、お願いがあるのだけれど」
「お呼びでしょうか? 殿下、失礼致します」
名を呼ぶと同時に、ロイドは目の前に跪いていた。
気の毒そうに言う占い師。
『でも……そうだね、Never give up! とだけ伝えておくよ。これから……直観で思い浮かぶ「数字」とか意味があるから。後から役に立つ事になりそうだね』
アリアは占い師に言われた言葉を思い返していた。勿論、思い切り一人の時間を満喫出来るガラス温室内で。
……原作では、占い師にヘレナとジークフリートは結ばれるべき運命の人でアリアは二人を結びつける為だけに生まれて来たようなものだから諦めて来世に期待した方が良い、と言われて。そこで、ジークフリートに抱いていたほんの僅かな希望も諦めて。ひたすら尽くす事に決めたのだったわね……
そこまで反芻してみてふと思う。
……そういえば、ディランをヘレナに譲渡する形になった訳で。その理由はディランがヘレナに懸想して骨抜き状態になったからという理由だけど。ジークフリートは特に何も思わないのかしら? 好きな女に懸想する男が忠誠を誓って専属護衛騎士になるというのに。これ、原作でもジークフリートはディランに対して懸念した、というような描写はなかったのよね。ディランがヘレナの専属護衛騎士になった場面、その前後も含めサラッと流すような感で特筆される事はなかったのよねぇ……
当のジークフリートはというと、飽きもせず毎朝欠かす事なセレストブルーローズを届けて来る。本数は9本 、「いつもあなたを想っている」「いつも一緒にいて」という意味を込めて……らしい。当て馬にするつもり満々な癖に、随分とマメな男だ、と思わなくもないが。実際は『モノさえ贈っておけ愛されているのだと勝手に解釈してくれる上に、周りに一途でマメな男だとアピール出来て一石二鳥!』と言うところだろう。
全くもって腹立たしいことこの上ないが、
……それもこれも、原作アリアがチョロイン設定なのが全ての元凶なのよ!……
悔しくてもどかしいが、実際に「原作矯正力」が働いてしまう以上どうしようもない。それよりもアリアにとっての死亡エンドを何としても回避する事に全力を傾けるべきだ。原作よりも半年ほど展開が早い現状、アリアの死期も早まっていると見て良い。
……脱線しないで整理すると。原作で詳しく言及されないという事は、つまりディランの件はどれだけヘレナが魅力的なのか、という演出としてであって。それ以上でもそれ以下でもない、という事になるからしらね……
無意識、にガラス温室を歩きまわりつつ、グノーのアヴェマリアを口ずさんでいる。それはアリアの視線に入らないところで影から護衛についているロイドの耳に心地よく響いた。ロイドは万が一に備え聴覚と第六感を研ぎ澄ませると、瞳を閉じてその声の美しさを味わった。
……そうだ!……
アリアは気になっていた事に焦点を当てる。
……結末を迎えた原作のその後についてとか、ヘレナとジークフリートが実はこっそりとクーデターを仕掛けているのではないか? とか。どうも物語の確信(?)に触れそうになると頭に霞がかかったみたいに有耶無耶になった
り、何か横やりが入ったりして忘れてしまうのだけど。今なら切り込めそう! 忘れたり邪魔が入らない内に!……
ピタリと立ち止まり天を仰ぐ。
……ディラン、アラン、マックス、アルコイリス公爵。ヘレナを前にして皆鼻の下を伸ばしてデレデレしていた。あの瞬間に外部からの攻撃があっても対応仕切れないほどに。でも、騎士団長とロイドは冷静だった。お調子者で女好きなアルコイリス公爵はともかく、ディランやマックス、アレンはロイドと同じように『質実剛健』という事だったのに。その違いは? 確信はないけれど、恐らくヘレナは同性に対しては正気を失うほど魅了はされない筈……
アリアは不敵な笑みを浮かべた。
……令嬢物恋愛ファンタジーでよくある、魅了だか魅惑だかの魔力をヘレナが駆使しているかもしれない裏設定がある可能性が高いのでは?! 読者の反響によって、明かされないままか、続編や番外編で触れるかも知れないという。あれって、元々ヘレナが好みだったり最初から好意を持っていたり暗示にかかりやすい体質だったりするとすぐに虜になってしまう、ていう話だし……
邪魔が入らない内に行動に出ようと影から護衛についてくれている忠実なる騎士の名を呼んだ。
「ロイド、お願いがあるのだけれど」
「お呼びでしょうか? 殿下、失礼致します」
名を呼ぶと同時に、ロイドは目の前に跪いていた。
0
お気に入りに追加
53
あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

燻らせた想いは口付けで蕩かして~睦言は蜜毒のように甘く~
二階堂まや
恋愛
北西の国オルデランタの王妃アリーズは、国王ローデンヴェイクに愛されたいがために、本心を隠して日々を過ごしていた。 しかしある晩、情事の最中「猫かぶりはいい加減にしろ」と彼に言われてしまう。
夫に嫌われたくないが、自分に自信が持てないため涙するアリーズ。だがローデンヴェイクもまた、言いたいことを上手く伝えられないもどかしさを密かに抱えていた。
気持ちを伝え合った二人は、本音しか口にしない、隠し立てをしないという約束を交わし、身体を重ねるが……?
「こんな本性どこに隠してたんだか」
「構って欲しい人だったなんて、思いませんでしたわ」
さてさて、互いの本性を知った夫婦の行く末やいかに。
+ムーンライトノベルズにも掲載しております。

淡泊早漏王子と嫁き遅れ姫
梅乃なごみ
恋愛
小国の姫・リリィは婚約者の王子が超淡泊で早漏であることに悩んでいた。
それは好きでもない自分を義務感から抱いているからだと気付いたリリィは『超強力な精力剤』を王子に飲ませることに。
飲ませることには成功したものの、思っていたより効果がでてしまって……!?
※この作品は『すなもり共通プロット企画』参加作品であり、提供されたプロットで創作した作品です。
★他サイトからの転載てす★
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる