ハッピーエンドの裏側で【革命吟遊詩人『当て馬姫君』アリアのリスタート】~原作ヒロインは地雷系女子?!~

大和撫子

文字の大きさ
上 下
25 / 32
第十六話

騎士が誓いを破る時①

しおりを挟む
 ……原作でヘレナとアリアが会話している場はというと……

~~~~~~

 アリアは扇子を広げ、口元を隠した。出来るだけ優雅に、余裕を持っているように見えるように。せめて見た目せかけだけでも『それがどうかしたのかしら? 彼に愛されて妻になるのはこの私よ? 所詮、あなたとの事は遊びなのよ』と高飛車に見えるように。
 こんな時、兄のスパルタな淑女教育に感謝の念が湧く。腐っても皇族なのだ、いくら相手が絶世の美女で、人格才能全てにおいて非の打ち所がない奇跡の存在だとしても。ジークフリートの気持ちは全て彼女に注がれていたとしても。容姿、才能、人心掌握、どれをとっても何一つヘレナに勝てるものは皆無だったとしても。これだけの衆目を集めている最中で、無様に負ける訳にはいかなかった。それが、アリアが誇り高く己を保つの最後の矜持でもあった。

~~~~~~

 この場面を読んで、思わず涙ぐんでしまったのを思い出す。ただただ、原作ヒーローと原作ヒロインの恋愛を盛り上げ二人の絆を深める為に生み出された当て馬キャラ。盛大なピエロ役のアリアの切ない程の想いと決意が垣間見える数少ない貴重なシーンだ。が思えば、この時を境ににアリアに過剰な肩入れをするようになったのだ。

 ……これは確か、「秋の魔獣狩り大会」の際のパーティー会場での一幕だったな……

 「秋の魔獣狩り大会」騎士たちはこぞって我こそはと魔獣を狩って。その数と魔獣の狂暴度合で競い合う競技で。優勝者から三位まで決めて獲物を宝石やお金に還元出来、それを愛する人に捧げる、というその頃、もうヘレナとジークフリートの秘密の恋が露見しているから。周囲は『ジークフリートは第三皇女とヘレナ、どちらに獲物を捧げるのか』賭けたりしていて下世話な注目の中、ヘレナとアリアが鉢合わせになる場面だった。

 ……肝心のジークフリートはどうしたかと言うと、当日になって参加をキャンセルして逃げたのよね。ずる賢いというか。ヘレナを愛していても、腐っても皇女を蔑ろにする訳にはいかない。後に利用する為にも、アリアの機嫌を、というか皇族の怒りを買う訳にはいかないから……

 アリアは原作を分析しながら、呆けているディランを冷めた眼差しを向けていた。生花祭でジークフリートとアリアの乗る天馬の後に、護衛の為栗毛の愛馬に乗ってついて来ていたディランは、ジークフリートとヘレナの邂逅を目にした。それは状況的に当たり前で自然な事ではあるのだが。あれからとってつけたようなヘレナからの挨拶を受けた後、ヘレナは再びジークフリートと楽しそ気に会話を交わし始めた。

 ……ホント、有り得ない。ジークフリートとヘレナ、第三皇女アリアに対して失礼過ぎじゃない? 実際、皇女にこんな扱いしたら不敬罪ものでしょ! その辺りの設定、作者はで押し切っていたけど。というか、不満を口に出せないアリアも問題よね。だから二人に舐められるんだわ……

 そうは思うのに、平静を装って二人を静観するしか出来ない。またもや『原作矯正力』が働いている。けれども視線は動かせるから、ふとディランを見やった。

 ……ヘレナとディランの出会いも原作だと秋の収穫祭だけど……

 そこには瞠目し、息を詰めて一心にヘレナを見つめているディランがいた。ハートを撃ち抜かれ、まごうことなき一目で恋に落ちた男の姿だった。

 ……あーぁ、時期が早いだけで原作通りの展開か。この後のディランは仕事にならないくらい気もそぞろになるから。早めに解雇というか解放して別の護衛騎士を選ぼうかしらねぇ……

 原作矯正力が働いて、騎新しい護衛騎士を選べない……などという事態にならない事を願うばかりだ。原作では、ディラン自らが暇を告げ、

 「例え一生報われなくても心から愛する人の為に尽くしたい」

と何とも無礼千万な台詞を言い放ってヘレナの元へと去るのだ。仮初にも皇女の護衛騎士なのだ、そうすんなりと希望通りに行く筈がない。騎士団長やら色々と責任問題にも発展すると思うのだが、その辺りは原作には一切出て来ない。

 ……さて、誰に相談するのが良いかしらね。こういう時、冷遇されているアリアは不便なのよね……

 憂鬱な思いで、足元に散らばる花々を見つめた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

拝啓、愛しの侯爵様~行き遅れ令嬢ですが、運命の人は案外近くにいたようです~

藤原ライラ
ファンタジー
心を奪われた手紙の先には、運命の人が待っていた――  子爵令嬢のキャロラインは、両親を早くに亡くし、年の離れた弟の面倒を見ているうちにすっかり婚期を逃しつつあった。夜会でも誰からも相手にされない彼女は、新しい出会いを求めて文通を始めることに。届いた美しい字で洗練された内容の手紙に、相手はきっとうんと年上の素敵なおじ様のはずだとキャロラインは予想する。  彼とのやり取りにときめく毎日だがそれに難癖をつける者がいた。幼馴染で侯爵家の嫡男、クリストファーである。 「理想の相手なんかに巡り合えるわけないだろう。現実を見た方がいい」  四つ年下の彼はいつも辛辣で彼女には冷たい。  そんな時キャロラインは、夜会で想像した文通相手とそっくりな人物に出会ってしまう……。  文通相手の正体は一体誰なのか。そしてキャロラインの恋の行方は!? じれじれ両片思いです。 ※他サイトでも掲載しています。 イラスト:ひろ様(https://xfolio.jp/portfolio/hiro_foxtail)

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

燻らせた想いは口付けで蕩かして~睦言は蜜毒のように甘く~

二階堂まや
恋愛
北西の国オルデランタの王妃アリーズは、国王ローデンヴェイクに愛されたいがために、本心を隠して日々を過ごしていた。 しかしある晩、情事の最中「猫かぶりはいい加減にしろ」と彼に言われてしまう。 夫に嫌われたくないが、自分に自信が持てないため涙するアリーズ。だがローデンヴェイクもまた、言いたいことを上手く伝えられないもどかしさを密かに抱えていた。 気持ちを伝え合った二人は、本音しか口にしない、隠し立てをしないという約束を交わし、身体を重ねるが……? 「こんな本性どこに隠してたんだか」 「構って欲しい人だったなんて、思いませんでしたわ」 さてさて、互いの本性を知った夫婦の行く末やいかに。 +ムーンライトノベルズにも掲載しております。

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

悪役令嬢は皇帝の溺愛を受けて宮入りする~夜も放さないなんて言わないで~

sweetheart
恋愛
公爵令嬢のリラ・スフィンクスは、婚約者である第一王子セトから婚約破棄を言い渡される。 ショックを受けたリラだったが、彼女はある夜会に出席した際、皇帝陛下である、に見初められてしまう。 そのまま後宮へと入ることになったリラは、皇帝の寵愛を受けるようになるが……。

処理中です...