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第十三話
それぞれの恋のベクトル②
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気遣わし気に私を見るディラン。アリアはふと、思い切ってディランに未来の行く末を言ってみようかと思った。言おうとしても原作矯正力が働けば、勝手に意思とは無関係な言動に変換されてしまうのだ。
……考えてみたら、原作から外れそうになれば『原作強制(強制)力』が働いてアリアの意思には無関係に物語は進行していくし。色々考えるより行動してみた方が良さそうね。案ずるより産むが易し、て言うし……
「ねぇディラン。あなたは恋をした事がおありかしら?」
「へ? こ、恋……ですか?」
相当予想外の事を問われたのだろう、彼は瞠目して素っ頓狂な声を上げた。
「ええ、そう。恋、それも身を焦がすような感じの」
「いや……恥ずかしながら、ございません、としか。生まれてこの方、恋というものに興味が向かず。ひたすら体を鍛える事、知識を増やす事に費やす事が殆どでしたね。たまに、仲間と騒いだりする事はあっても、ほんの息抜き程度でした」
唐突で不躾な質問だったにも関わらず、ディランは過去を振り返りながら真面目に答えてくれた。彼の性格がよく表れている。
……今まで真面目一筋な堅物に限って、タガが外れると別人かと思うほど豹変する、て典型なのかも……
そんな事を思いながら、アリアは思うままに言葉を続ける。
「そう、未だそういう相手に出会ってないだけなのね。……その内、出会うのではないかしら。身も心も全て捧げたい、と思えるお相手に」
彼は怪訝そうに、ほんの少しだけ眉を顰める。やはり、正直で嘘がつけない性質のようだ。仕事柄、感情を表に出してはいけないとされているが、アリアには分かりやすくて良いと感じた。
……彼がヘレナに骨抜きにされたら、即分かり易い反応を示してくれるだろうし。物語の進行度合いの目安になって良いと思うの……
「お言葉ですが殿下、私が騎士の誓いを立てたのは殿下でございます故」
……ふふ、ムキになっちゃって。可愛いなぁ。でも、もうすぐヘレナに出会っちゃうだもんね……
「分かってるわ。でも、そういうお相手に意外にも早く出会ってしまうかもよ? そうなっても、あなたはずっと傍に居てくれるかしら?」
つい、試すように言ってしまう自分に戸惑いながらも、止められない。何より『原作矯正力』が全く働かない事を意外に思う。だがそれは同時に、この場でのこの発言は物語の進行に何の妨げにもならない事を意味していた。
……つまり、ディランはヘレナに心を奪われ、私から去ってしまうという確定事項な訳ね……
ただの八つ当たりに過ぎない。そんな自分の幼稚さにも、どうしようもない宿命にもムカムカと腹が立ってしまう。
「私は、もし許されるなら殿下がご結婚なされた後もずっとこの身を尽くす所存でここにおります!」
声を荒げ、真っ赤になって叫んだ彼は、肩で息をしていた。随分興奮したようだ。
「……そうね、試すような事言って悪かったわ」
アリアの素直な謝罪に、ディランは顔色を変えた。
「と、とんでもないですっ! 殿下、申し訳ございませんっ!!」
今度は青くなって頭を下げる。
……これだけ真っすぐで純粋だから、恋に落ちたらまさに一直線に惚れ込んでしまう訳ね。今は、その忠誠心が私に向いているけど、恋のベクトルが原作ヒロインに向いたら。それはもう周りが見えない状態になるのは想像がついてしまうわね……
「頭を上げて。私も言い過ぎたわ」
「いえ、私が……」
「いいのよ、もうこの話はこれで終わりにしましょう。そろそろ、父に呼ばれている時間になるわね。準備しないと」
まだ約束の時間には随分と先だが、話を切り替えるのにちょうど良かった。皇帝に、ジークフリートの婚約の申し出について話がある、と呼び出されているのだ。これも、原作通りだった。
……考えてみたら、原作から外れそうになれば『原作強制(強制)力』が働いてアリアの意思には無関係に物語は進行していくし。色々考えるより行動してみた方が良さそうね。案ずるより産むが易し、て言うし……
「ねぇディラン。あなたは恋をした事がおありかしら?」
「へ? こ、恋……ですか?」
相当予想外の事を問われたのだろう、彼は瞠目して素っ頓狂な声を上げた。
「ええ、そう。恋、それも身を焦がすような感じの」
「いや……恥ずかしながら、ございません、としか。生まれてこの方、恋というものに興味が向かず。ひたすら体を鍛える事、知識を増やす事に費やす事が殆どでしたね。たまに、仲間と騒いだりする事はあっても、ほんの息抜き程度でした」
唐突で不躾な質問だったにも関わらず、ディランは過去を振り返りながら真面目に答えてくれた。彼の性格がよく表れている。
……今まで真面目一筋な堅物に限って、タガが外れると別人かと思うほど豹変する、て典型なのかも……
そんな事を思いながら、アリアは思うままに言葉を続ける。
「そう、未だそういう相手に出会ってないだけなのね。……その内、出会うのではないかしら。身も心も全て捧げたい、と思えるお相手に」
彼は怪訝そうに、ほんの少しだけ眉を顰める。やはり、正直で嘘がつけない性質のようだ。仕事柄、感情を表に出してはいけないとされているが、アリアには分かりやすくて良いと感じた。
……彼がヘレナに骨抜きにされたら、即分かり易い反応を示してくれるだろうし。物語の進行度合いの目安になって良いと思うの……
「お言葉ですが殿下、私が騎士の誓いを立てたのは殿下でございます故」
……ふふ、ムキになっちゃって。可愛いなぁ。でも、もうすぐヘレナに出会っちゃうだもんね……
「分かってるわ。でも、そういうお相手に意外にも早く出会ってしまうかもよ? そうなっても、あなたはずっと傍に居てくれるかしら?」
つい、試すように言ってしまう自分に戸惑いながらも、止められない。何より『原作矯正力』が全く働かない事を意外に思う。だがそれは同時に、この場でのこの発言は物語の進行に何の妨げにもならない事を意味していた。
……つまり、ディランはヘレナに心を奪われ、私から去ってしまうという確定事項な訳ね……
ただの八つ当たりに過ぎない。そんな自分の幼稚さにも、どうしようもない宿命にもムカムカと腹が立ってしまう。
「私は、もし許されるなら殿下がご結婚なされた後もずっとこの身を尽くす所存でここにおります!」
声を荒げ、真っ赤になって叫んだ彼は、肩で息をしていた。随分興奮したようだ。
「……そうね、試すような事言って悪かったわ」
アリアの素直な謝罪に、ディランは顔色を変えた。
「と、とんでもないですっ! 殿下、申し訳ございませんっ!!」
今度は青くなって頭を下げる。
……これだけ真っすぐで純粋だから、恋に落ちたらまさに一直線に惚れ込んでしまう訳ね。今は、その忠誠心が私に向いているけど、恋のベクトルが原作ヒロインに向いたら。それはもう周りが見えない状態になるのは想像がついてしまうわね……
「頭を上げて。私も言い過ぎたわ」
「いえ、私が……」
「いいのよ、もうこの話はこれで終わりにしましょう。そろそろ、父に呼ばれている時間になるわね。準備しないと」
まだ約束の時間には随分と先だが、話を切り替えるのにちょうど良かった。皇帝に、ジークフリートの婚約の申し出について話がある、と呼び出されているのだ。これも、原作通りだった。
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