上 下
19 / 32
第十二話

原作ヒロイン、華麗なる登場!②

しおりを挟む
 ……間違いない、原作ヒロインヘレナだ……

 アリアは思い出す。作中、ヘレナの髪のは幻のピンク色ポンパドールピンクと表現されていた。まさにあのセーブル焼き独特のピンク色だ。ストレートな髪質で腰のあたりまでサラサラと流れている。後ろ姿で、髪と若草色のワンピースを着ている事しか見えないけれど、それだけでだと解ってしまう。まとっているオーラがキラキラして自然に人を惹き付ける力に満ちているのだ。

 馬車から飛び出して彼女の元へ駆けつけて行った原作ヒーロージークフリートも同じく。ヒーローとヒロインが並ぶと、彼ら自身が光を発しているかのようい眩く感じる。目が眩みそうなのに目が離せない、これがきっと、脇役と主人公の大きな違いなのだろう。

 さて、ジークフリートが馬車を飛び出してヒロインの元に駆け付けたのは、外に出る寸前に彼が言っていた『街中に張り巡らせてある筈の結界を破って、魔獣が出現した』からだ。彼は聖剣の使い手でソードマスターでもあるから、こうした不測の事態には駆け付ける義務がある。では、ヒロインは何をしていたのかと言うと、たまたま偶然その場に居た彼女は、突如結界を破って侵入して来た魔獣を撃退すべく対峙していた……という場面なのだ。ヒロインは高い浄化力と癒しの力、上級精霊使い、更に高い魔力をという設定だ。

 隠し持っていいるわりに何故街中で堂々と力を解放するのか……そこはお約束の主人公チート&ご都合主義につき、深く突っ込んでは楽しめないもの、らしい。

 まさに、原作ヒーローと原作ヒロインが初めて出会い、そして恋に落ちる瞬間の……

 ……待って! 原作の流れより半年近く早いけど。これ、私はまだジークと婚約すらしていない! このまま円満にサヨナラすればバッドエンド回避になるのでは!!……

 アリアは未来に希望の光を見た気がした。

 ……原作通りなら、二人は恋に落ちる訳で。盗み聞きは申し訳ないけど、ちょっと会話を聞かせて貰おう。本当に二人が一目惚れしたなら、上手い事身を引いて彼らの人生からフェードアウトさせて貰えばいいわ! ふふふ、脇役は脇役らしく、てね……

 上機嫌で右手を軽くあげて手のひらを天に向ける。手のひらにキラキラと白い光が集まりだすと、直径8cmほどの透明水晶玉クリアクリスタルスフィアに形を変えた。その中に、ジークフリートとヘレナの姿が映し出される。これは皇族のみに使用する事が許された『監視魔術』なのだ。勿論、見聞きされている事が相手に気付かれないようにもなっている。アリアも一応は皇族の端くれなので使用できるのだ。

 『これはこれは、このように華奢で朝露に濡れたピンク色のピオニーのように美しいお嬢さん、もしやあなたは聖女様ですか?』

 ……ジーク、原作通りの台詞ね。口説くのはもう呼吸をするように自然なのね。それにしてもヘレナ、本当に綺麗なルビーレッドの瞳だこと……

ヘレナは両手を天に翳し、結界の修復を図る事で魔獣の侵入を防いでいた。彼女の両手の平からは黄金色の結界魔術文字が光のシャワーのように放出されている。今回の魔獣は、頭に黒い一本角を生やした巨大なハエの大群だった。

 『まぁ、お上手ね。あなたも太陽神アポロの化身みたいに美しい殿方ね』

鈴が転がるような声とはこのような声質を言うのであろう。澄み切った美しい声が軽やかに響いた。

 『よく言われますが、アポロは神話上、これといった活躍はなくどちらかというと粗相が目立つので複雑な心境になります』
 『あらあら、大した自信家ね』

 二人の視線が絡み合い、微笑みあう。宗教画のように神聖で美しい光景だった。二人が恋に落ちた瞬間、原作通りの展開だった。

 二人は頷き合うと、ヘレナは引き続き結界を修復し続けジークフリートは聖剣を引き抜き、構えた。

 アリアはそれ以上見るのは居たたまれなくなって、透明水晶玉クリアクリスタルスフィアは霧散した。

 ……良かったじゃない、これで婚約前に別れてしまえば。私は生き残れるし、二人は早くくっついて全員がハッピーエンド……

 そう思うのに、何故か胸に痛みを覚え、ヘレナに嫉妬している自分にどう対処して良いのか分からなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

底辺おっさん異世界通販生活始めます!〜ついでに傾国を建て直す〜

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 学歴も、才能もない底辺人生を送ってきたアラフォーおっさん。  運悪く暴走車との事故に遭い、命を落とす。  憐れに思った神様から不思議な能力【通販】を授かり、異世界転生を果たす。  異世界で【通販】を用いて衰退した村を建て直す事に成功した僕は、国家の建て直しにも協力していく事になる。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡

サクラ近衛将監
ファンタジー
 女神様のミスで事故死したOLの大滝留美は、地球世界での転生が難しいために、神々の伝手により異世界アスレオールに転生し、シルヴィ・デルトンとして生を受けるが、前世の記憶は11歳の成人の儀まで封印され、その儀式の最中に前世の記憶ととともに職業を神から告げられた。  シルヴィの与えられた職業は魔晶石採掘師と魔晶石加工師の二つだったが、シルヴィはその職業を知らなかった。  シルヴィの将来や如何に?  毎週木曜日午後10時に投稿予定です。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

処理中です...