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第十二話
原作ヒロイン、華麗なる登場!①
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婚約予約(?)指環は、やはり三カラットほどのアレキサンドライトだった。「昼のエメラルド、夜のルビー」と呼ばれるだけあって。昼間の光の中では深緑、夜間の魔術灯の下では深紅へと見事に変貌を遂げた。
アレキサンドライトは「宝石の王様」とか「皇帝の宝石」という異名を持つ。石言葉は諸説あれど、「秘めた想い」「高貴」「魅力」あたりが代表的だろうか。オーバルカットが施されたそれは、プラチナ台のリングに鎮座し、その存在をキラキラと主張している。
セレストブルーローズは毎朝三本届けられた。「愛しています」「告白」と言う意味だが……。アリアは、黒いベルベッドの小箱におさまっているアレキサンドライトのリングをぼんやりと眺めていた。背後では、ローラがヘアスタイルの仕上げに取り組んでいる。これから、ジークフリートと二回目のデートなのだ。今回は魔法石アクセサリーの展示会に行く事になっている。
……そうそう、確かそこで。『お守りです』とか言って魔法石のペンダントを買って貰うんだったわね……
「アレキサンドライト、ホントに素敵ですよね。素人目にもグレードが高いのが解りますもの、輝きと色合いが違います。それにしても、婚約予約指輪だなんて……意外に、ジークフリート様って独占欲がお強いのですね」
……そうそう、後に出会う原作ヒロインへの独占欲なんて枚挙に暇がないって感じだもの。人好きのする笑顔で、原作ヒロインに近づく男たちを牽制しまくるのよ……
アリアは小説の内容を思い浮かべながら、ローラに応じた。
「うーん……どうなのかしらねぇ……」
まさか本音を漏らす訳に行かず、何とも煮え切らない曖昧な答え方となった。
「絶対、そうですよ。今日のデートの帰りに、ジークフリート様は謁見の間にお越しになる手筈を整えてらっしゃいますし。皇帝皇后両陛下と御会いになる。つまり、いよいよ婚約の承諾のお願い、て事ではないですか」
ローラは目を輝かせている。珍しくスザンナも興味津々の様子だ。ディランだけはいつもと変わらず冷静で落ち着いている。ジークフリートの来訪を知らせに来た侍女の言葉を引き継いだディランは、その旨を淡々と告げた。ローラに促され、ジークフリートの待つ庭園へと足を運ぶ。
……その真面目で信頼のおけるディラン君も、原作ヒロインに出会った途端。豹変してしまうんだもの。騎士の誓いも破って、原作ヒロインの元へ行ってしまうのよ……
鬱々とした気分を抱えながら、ジークフリートの待つ例の庭園へと足を運ぶ。勿論、礼儀として捧げられたアレキサンドライトのリングを右手中指につけて。こちらもまた諸説あるが、指輪を右手中指につけると『悪運を跳ね返す』という意味があるのだ。『跳ね除けたい悪運』、アリアにとってはまさにジークフリートの事ではないか!
……まさか! 原作矯正力が働かない範囲内で、原作とは違う言動をしみたけれど。もしかしたら、逆に死へのカウントダウンを早めている、なんて事になってないでしょうね?……
アリアは先日からずっと、ジークフリートの予想外の行動に戸惑っていた。ローラやスザンナは、アリアがぼんやりしているのは恋わずらいなのだ、と好意的に解釈してくれている。
……原作通りなら、原作ヒロインとジークフリートが初めて出会うのは、今から凡そ半年後の筈だけど。早まる可能性も高いわね……
ジークフリートは、アリアを見るなり速足でやってくると跪く。型通りの挨拶を掲げた後に自らの右手を差し出した。アリアは自然に右手を預けると、そのままエスコートするよう彼は歩き出した。そのまま素直に従う。このような一連の流れについて、「淑女ならこう振る舞うべし」のイロハを兄は皇室家庭教師だけに任せず、スパルタでアリアの身に叩き込んでくれた。原作のアリアは、この部分を活かせずにビクビクオドオドしていた。
……だから、余計にジークフリートや原作ヒロインに舐められたのよ。『コイツは利用して構わないアホ』認定されて。地位だけは二人より上なんだし、もっと堂々と偉そうにしていても良いと思うの。原作矯正力が働くかどうかやってみないと解らないし、誇り高く堂々としていよう!……
「……毎晩あなたに逢える日を指折り数えておりました。まさにセレストブルーローズを彷彿とさせるような髪、ブルームーンストーンの宝石の如く美しい瞳……」
前回と同じく、彼が用意した白い馬車の中だ。向かい合って座るジークフリートは、相変わらずの芝居がかった仕草で詩人のようにアリアを称えている。アリアはと言えば、脳内で目まぐるしく思考を働かせていても、原作矯正力で恥ずかしそうに、されど嬉しそうにはにかんだ笑みを浮かべている。
突然、馬車が急停止した。「きゃっ」痩せ細ったアリアは簡単に前に投げ出されてしまうが、すぐにガシッと力強い腕に抱き留められた。ドキッと心臓が口から飛び出しそうなほど衝撃を受ける。シトラス系の爽やかな香り、細身に見えて意外なほど逞しい腕に包まれ、右耳に彼の鼓動を聞いた。腹立たしいほど落ち着いた拍動に、火照り過ぎた顔が一気に冷める。
……ほら、やっぱり彼はアリアの事を利用出来る道具としか思っていない……
彼の胸に右頬を埋める形となった体勢。己と彼との温度差に、ショックを受け少なからず傷つき、落ち込んでしまっている。そんな自分に戸惑いを覚えた。
「申し訳ございません殿下。どうやら緊急事態のようです。結界を破って魔獣が出現しました。すぐに終わらせますから、ここを絶対に動かないでいてくださいね」
男は素早くそう囁くと、アリアを抱えるようにして座り直させ、左手を翳して馬車のドアを開けた。
ドクン、
……こ、このシチュエーションは、まさか! ついに原作ヒロインの登場?……
ドアが開き、ヒラリと飛び降りたジークフリート。アリアを覗き込むようにして笑顔を向ける。
「直ぐに戻ります。心配しないでください」
と言って右手を翳し、ドアが静かに閉まった。けれども、ドアが閉まる寸前、見えてしまった。人目を惹く奇跡の色「ポンパドールピンク」の長い髪を……。
紛れもない、原作ヒロインの髪色だった。
アレキサンドライトは「宝石の王様」とか「皇帝の宝石」という異名を持つ。石言葉は諸説あれど、「秘めた想い」「高貴」「魅力」あたりが代表的だろうか。オーバルカットが施されたそれは、プラチナ台のリングに鎮座し、その存在をキラキラと主張している。
セレストブルーローズは毎朝三本届けられた。「愛しています」「告白」と言う意味だが……。アリアは、黒いベルベッドの小箱におさまっているアレキサンドライトのリングをぼんやりと眺めていた。背後では、ローラがヘアスタイルの仕上げに取り組んでいる。これから、ジークフリートと二回目のデートなのだ。今回は魔法石アクセサリーの展示会に行く事になっている。
……そうそう、確かそこで。『お守りです』とか言って魔法石のペンダントを買って貰うんだったわね……
「アレキサンドライト、ホントに素敵ですよね。素人目にもグレードが高いのが解りますもの、輝きと色合いが違います。それにしても、婚約予約指輪だなんて……意外に、ジークフリート様って独占欲がお強いのですね」
……そうそう、後に出会う原作ヒロインへの独占欲なんて枚挙に暇がないって感じだもの。人好きのする笑顔で、原作ヒロインに近づく男たちを牽制しまくるのよ……
アリアは小説の内容を思い浮かべながら、ローラに応じた。
「うーん……どうなのかしらねぇ……」
まさか本音を漏らす訳に行かず、何とも煮え切らない曖昧な答え方となった。
「絶対、そうですよ。今日のデートの帰りに、ジークフリート様は謁見の間にお越しになる手筈を整えてらっしゃいますし。皇帝皇后両陛下と御会いになる。つまり、いよいよ婚約の承諾のお願い、て事ではないですか」
ローラは目を輝かせている。珍しくスザンナも興味津々の様子だ。ディランだけはいつもと変わらず冷静で落ち着いている。ジークフリートの来訪を知らせに来た侍女の言葉を引き継いだディランは、その旨を淡々と告げた。ローラに促され、ジークフリートの待つ庭園へと足を運ぶ。
……その真面目で信頼のおけるディラン君も、原作ヒロインに出会った途端。豹変してしまうんだもの。騎士の誓いも破って、原作ヒロインの元へ行ってしまうのよ……
鬱々とした気分を抱えながら、ジークフリートの待つ例の庭園へと足を運ぶ。勿論、礼儀として捧げられたアレキサンドライトのリングを右手中指につけて。こちらもまた諸説あるが、指輪を右手中指につけると『悪運を跳ね返す』という意味があるのだ。『跳ね除けたい悪運』、アリアにとってはまさにジークフリートの事ではないか!
……まさか! 原作矯正力が働かない範囲内で、原作とは違う言動をしみたけれど。もしかしたら、逆に死へのカウントダウンを早めている、なんて事になってないでしょうね?……
アリアは先日からずっと、ジークフリートの予想外の行動に戸惑っていた。ローラやスザンナは、アリアがぼんやりしているのは恋わずらいなのだ、と好意的に解釈してくれている。
……原作通りなら、原作ヒロインとジークフリートが初めて出会うのは、今から凡そ半年後の筈だけど。早まる可能性も高いわね……
ジークフリートは、アリアを見るなり速足でやってくると跪く。型通りの挨拶を掲げた後に自らの右手を差し出した。アリアは自然に右手を預けると、そのままエスコートするよう彼は歩き出した。そのまま素直に従う。このような一連の流れについて、「淑女ならこう振る舞うべし」のイロハを兄は皇室家庭教師だけに任せず、スパルタでアリアの身に叩き込んでくれた。原作のアリアは、この部分を活かせずにビクビクオドオドしていた。
……だから、余計にジークフリートや原作ヒロインに舐められたのよ。『コイツは利用して構わないアホ』認定されて。地位だけは二人より上なんだし、もっと堂々と偉そうにしていても良いと思うの。原作矯正力が働くかどうかやってみないと解らないし、誇り高く堂々としていよう!……
「……毎晩あなたに逢える日を指折り数えておりました。まさにセレストブルーローズを彷彿とさせるような髪、ブルームーンストーンの宝石の如く美しい瞳……」
前回と同じく、彼が用意した白い馬車の中だ。向かい合って座るジークフリートは、相変わらずの芝居がかった仕草で詩人のようにアリアを称えている。アリアはと言えば、脳内で目まぐるしく思考を働かせていても、原作矯正力で恥ずかしそうに、されど嬉しそうにはにかんだ笑みを浮かべている。
突然、馬車が急停止した。「きゃっ」痩せ細ったアリアは簡単に前に投げ出されてしまうが、すぐにガシッと力強い腕に抱き留められた。ドキッと心臓が口から飛び出しそうなほど衝撃を受ける。シトラス系の爽やかな香り、細身に見えて意外なほど逞しい腕に包まれ、右耳に彼の鼓動を聞いた。腹立たしいほど落ち着いた拍動に、火照り過ぎた顔が一気に冷める。
……ほら、やっぱり彼はアリアの事を利用出来る道具としか思っていない……
彼の胸に右頬を埋める形となった体勢。己と彼との温度差に、ショックを受け少なからず傷つき、落ち込んでしまっている。そんな自分に戸惑いを覚えた。
「申し訳ございません殿下。どうやら緊急事態のようです。結界を破って魔獣が出現しました。すぐに終わらせますから、ここを絶対に動かないでいてくださいね」
男は素早くそう囁くと、アリアを抱えるようにして座り直させ、左手を翳して馬車のドアを開けた。
ドクン、
……こ、このシチュエーションは、まさか! ついに原作ヒロインの登場?……
ドアが開き、ヒラリと飛び降りたジークフリート。アリアを覗き込むようにして笑顔を向ける。
「直ぐに戻ります。心配しないでください」
と言って右手を翳し、ドアが静かに閉まった。けれども、ドアが閉まる寸前、見えてしまった。人目を惹く奇跡の色「ポンパドールピンク」の長い髪を……。
紛れもない、原作ヒロインの髪色だった。
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