ハッピーエンドの裏側で【革命吟遊詩人『当て馬姫君』アリアのリスタート】~原作ヒロインは地雷系女子?!~

大和撫子

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第十一話

偽りのプロポーズ

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 舞台演劇の内容は、メイドが皇太子に見初められて身分違いのハードルを乗り越えて結ばれる、という王道ラヴストーリーだった。純愛を貫いた二人、特に皇太子の方が女性に大人気らしい。『劇中の皇太子様みたいに、そんな困難にも挫けず、愛を貫き、愛する女を守り抜く姿』が幅広い年齢総の女性たちに受けているのだそうだ。

 だが、その劇中の皇太子には隣国の王女という婚約者が居たのだ。その婚約者は、ヒロインに嫉妬して立場にモノを言わせて様々な虐めをする悪女として描かれ、結果的にそれは二人の絆をよる強く結びつけるという演出となるのだ。舞台俳優も、男主人公ヒーローは金髪碧眼の美形、女主人公ヒロインは桃色の髪に紅い瞳の美女だった。
 原作では、観劇をした。内容は皇太子とメイドの身分違いの恋で純愛物、と書かれていただけだったが、実際見てみると伏線どころではなく後のジークフリートと原作ヒロインの暗示なのだろう。

 「素敵な舞台でしたね。人気になるのも頷けますね」

帰りの馬車の中で、ジークフリートは熱っぽく語った。けれどもアリアは思う。「婚約者が居る立場で婚約を解消もせず、堂々と浮気をする野郎の何処がなのだろうか?」と。そう問いかけようとしたのに、口から出た言葉は「ええ、本当に……」という台詞と共に、夢見るような眼差しを彼に向けたのだった。まさに原作通りで、嬉し恥ずかしとはにかむ言動とは裏腹に、内心では今すぐに縁を切りたい。

 ……このまま行けばコイツジークフリートに殺される未来確定じゃないの!……

断固拒否、何としても避けなければと決意を新たにするのだった。

 けれども、本心とは裏腹に説明のつかない部分でどうしようもなくジークフリートに惹かれてしまっている自分が居るのもまた事実だった。アリアはその感情を敢えて見ないように封印した。意思など反映される事なく、単なる当て馬キャラとしての役割ルビを演じ切る為に働く強力な原作矯正力ルビの作用に過ぎないからだ。

 毎朝届けられるセレストブルーローズに対してのお礼は、塩漬けにした食用ガーベラをカラリと揚げた『フラワーセンベー』と呼ばれるものにした。

 ……まぁ、お煎餅の事だよね。作者の趣味なんだろうな……

 などと思いながら色々は花を試食。サクサクしていて塩加減も絶妙で美味しかった。花の種類によって微妙に味が変わるのも楽しい。流行るのも納得だ。自分用とディラン、今日の護衛担当になった者、ローラとスザンナに購入。危うく、肝心のジークフリートに渡すものを買うのを忘れるところだった。慌てて選んだのが白いガーベラのセンベーだった。ガーベラの数多くある花言葉のうち、「感謝」の意味も持つし見た目も清楚で食べ易そうだったからだ。

 目を細め、嬉しそうに受け取る彼に顔が勝手に熱くなる。きっと真っ赤だ。消え入りそうな声で「後で見てくださいね」などと勝手に言ってしまう。これも原作矯正力だ。小説内の台詞そのままだから。だが、原作でアリアが彼にお礼の品を渡したのはハンカチにカーネーションの刺繍をした物だったのを記憶している。一針一針思いを込めて。品物を自由に選べたという事は、渡す品がなんであれ物語に影響を及ぼす事が無いという事なのだろう。つまり、思いを込めても、適当に嫌々選んでもジークフリートからしてみればアリアは利用出来る駒でしかないのだ。その事がほんの少し悔しい。どうしてそう感じるかは、深く追求しない事にした。

 「アリア・フローレンス第三皇女殿下」

唐突に、跪きその瞳に熱を込めてアリアを見つめるジークフリート。見れば、両手に黒いベルベットの小箱を掲げている。

 ……え? まさかこれって。いやいや早過ぎでしょ? 確か、半年ほど付き合ってから赤い薔薇の花束と共に」プロポーズだった筈……

「突然に申し訳ございません。本来ならもっとお互いの信頼を築き上げてから申し上げるのがベストなのは解っているのですが、早くこの燃え上がる心をお伝えしておかないと美しく魅力的な殿下を誰か他の者に奪われてしまいそうで!」

 まるで舞台俳優のように芝居がかった仕草で、パカリと小箱を開ける。

「あの、これは……」

 黒いベルベットの小箱には、三カラットはあろうかと思われる大振りの紫色がかった紅い宝石がキラリと輝いた。

 ……こんな場面、原作には無いし、プロポーズの指輪はブルーダイヤだった筈……

 虚を突かれ、殿などと言う心にもない美辞麗句に「嘘こけ!」などと心の中で反応する余裕も無かった。

「この私、ジークフリート・アシェル・クライノートと結婚を前提にお付き合いをして頂きたいのです。せめて、お名前を呼ばせて頂く許可を!」

 今にも泣き出しそうなほど切なげに見上げる鮮やかな深いブルーの双眸を、アリアは呆気に取られて見つめた。

 ……これは、どういう事? もしかして私のが早まったの?!……

思考停止、まさにフリーズ状態となったアリアだった。
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