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第十話
偽りのデート②
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アリアは今、ジークフリートと向かい合って馬車に乗っていた。彼が用意したというその馬車の外観は白亜のミニチュア宮殿のようだった。この物語の世界観の女子なら憧れそうなデザインだろう。
「殿下の為に特注で作らせました。防御魔法石を使用して作られていますから、魔獣や邪気、万が一の暴漢にも対応出来ますし安心ですよ」
などと、原作と寸分違わぬ事を言って微笑んだ。花が綻ぶ笑みとは、主に女性に使用する表現ではあるが、この男の場合は例外として使っても良いのではないかと感じた。
……どうしましょう? 間が持たないというか気まずい……
ジークフリートは、嬉しそうにアリアを見つめている。セレストブルーのスリーピースは、やはりアリアの髪の色に合わせて作ったのだそうだ。
『そんな、私の髪はそんな綺麗な淡いブルーではなくてもっとくすんでいますし……』
と反論しようとしたのだが、いざ口からまろび出た言葉は「そ、そんな……」と照れたように笑うだけという、原作通りの言動となってしまった。早速、原作矯正力が働いたらしい。それ以上原作に逆らって何かを話す気力も湧かず、アリアは居心地の悪さを感じていた。
原作のアリアは、ドギマギしながらも『嬉し恥ずかし』という感じで微笑ましい感じに描かれたいた。とは言っても、所詮は『当て馬キャラ』につき、初デートシーンはせいぜい二ページほど割かれただけだったが。
……確か、アリアは勇気を持って話し掛けるんだったわね。このまま黙っていところだし、出来れば窓そ外を眺めていたのに……
原作通り、彼をチラチラと恥ずかしそうに見てしまう。自分の意思と無関係に、体が勝手に動き表情も変化するから頭がおかしくなったのかと思ってしまう。
「あの……」
ほら、原作通りに……
「はい、殿下。どうなさいました?」
話し掛けられるのが嬉しくて仕方ない、というように蕩けた笑みを浮かべて応じるジークフリートに、もしかして本当に好意を持ってくれているのでは? などと錯覚してしまう感情が芽生えてしまう。凄まじいほどの原作矯正(強制)力だ。
「あ、あの……どうして、私なんかを……その、私は全然、美しくないですし、その……何の取柄も無くて……」
原作と同じ台詞を、勇気を振り絞ってされど躊躇いがちに切り出すのだ。言いたくないのに……
「そんな事ありません!」
彼は身を乗り出し、真剣な眼差しでアリアを見つめた。その面差しからは、微塵も打算的な影は無く。あたかも本心であるかのように錯覚してしまう。トクリと鼓動が跳ねた。
「奥ゆかしく上品で、神聖な魅力に溢れておられます。慎ましやかに隠された才能が内側からにじみ出るような神秘さをお持ちです。何度か舞踏会でお見掛けしました。自分如きには手が届かない御方だ、と最初は遠くから見つめるだけで満足しておりました。ですが、先日……殿下の十四歳の誕生パーティーの歳、一段とお美しくなられた殿下を拝見し、燃え上がる気持ちを抑える事が出来なくなってしまったのです!」
情熱的に語る彼を見ていると、まるでおとぎ話に出て来るような美しい姫にでもなったかのように思えてしまい、その心地良さに委ねてしまいそうになる。それは決して彼の本心ではなく、アリアを傀儡にして利用する為の手段なのだと解り切っているのに。彼から目が離せない、まるで絡めとられてしまったかのように。
……ダメよ、気を許したら死へのカウントダウンの始まりなのだから!……
辛うじて残された理性を振り絞り、己に喝を入れる。デート先は演劇場だ。早く到着し、観劇をする事で恋に似た想いをリセットしたかった。
「殿下の為に特注で作らせました。防御魔法石を使用して作られていますから、魔獣や邪気、万が一の暴漢にも対応出来ますし安心ですよ」
などと、原作と寸分違わぬ事を言って微笑んだ。花が綻ぶ笑みとは、主に女性に使用する表現ではあるが、この男の場合は例外として使っても良いのではないかと感じた。
……どうしましょう? 間が持たないというか気まずい……
ジークフリートは、嬉しそうにアリアを見つめている。セレストブルーのスリーピースは、やはりアリアの髪の色に合わせて作ったのだそうだ。
『そんな、私の髪はそんな綺麗な淡いブルーではなくてもっとくすんでいますし……』
と反論しようとしたのだが、いざ口からまろび出た言葉は「そ、そんな……」と照れたように笑うだけという、原作通りの言動となってしまった。早速、原作矯正力が働いたらしい。それ以上原作に逆らって何かを話す気力も湧かず、アリアは居心地の悪さを感じていた。
原作のアリアは、ドギマギしながらも『嬉し恥ずかし』という感じで微笑ましい感じに描かれたいた。とは言っても、所詮は『当て馬キャラ』につき、初デートシーンはせいぜい二ページほど割かれただけだったが。
……確か、アリアは勇気を持って話し掛けるんだったわね。このまま黙っていところだし、出来れば窓そ外を眺めていたのに……
原作通り、彼をチラチラと恥ずかしそうに見てしまう。自分の意思と無関係に、体が勝手に動き表情も変化するから頭がおかしくなったのかと思ってしまう。
「あの……」
ほら、原作通りに……
「はい、殿下。どうなさいました?」
話し掛けられるのが嬉しくて仕方ない、というように蕩けた笑みを浮かべて応じるジークフリートに、もしかして本当に好意を持ってくれているのでは? などと錯覚してしまう感情が芽生えてしまう。凄まじいほどの原作矯正(強制)力だ。
「あ、あの……どうして、私なんかを……その、私は全然、美しくないですし、その……何の取柄も無くて……」
原作と同じ台詞を、勇気を振り絞ってされど躊躇いがちに切り出すのだ。言いたくないのに……
「そんな事ありません!」
彼は身を乗り出し、真剣な眼差しでアリアを見つめた。その面差しからは、微塵も打算的な影は無く。あたかも本心であるかのように錯覚してしまう。トクリと鼓動が跳ねた。
「奥ゆかしく上品で、神聖な魅力に溢れておられます。慎ましやかに隠された才能が内側からにじみ出るような神秘さをお持ちです。何度か舞踏会でお見掛けしました。自分如きには手が届かない御方だ、と最初は遠くから見つめるだけで満足しておりました。ですが、先日……殿下の十四歳の誕生パーティーの歳、一段とお美しくなられた殿下を拝見し、燃え上がる気持ちを抑える事が出来なくなってしまったのです!」
情熱的に語る彼を見ていると、まるでおとぎ話に出て来るような美しい姫にでもなったかのように思えてしまい、その心地良さに委ねてしまいそうになる。それは決して彼の本心ではなく、アリアを傀儡にして利用する為の手段なのだと解り切っているのに。彼から目が離せない、まるで絡めとられてしまったかのように。
……ダメよ、気を許したら死へのカウントダウンの始まりなのだから!……
辛うじて残された理性を振り絞り、己に喝を入れる。デート先は演劇場だ。早く到着し、観劇をする事で恋に似た想いをリセットしたかった。
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